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スマートウォッチの心拍数の精度が高くなっている気がするので、調べてみた

ランニング、サイクリング、ボートなどの持久系スポーツに取り組むアスリートや愛好家の中には、心拍数を参考にトレーニングを行っている方も多いでしょう。
また、近年のスマートウォッチの多くは、デバイス裏のLEDライトを使って自動的に心拍数を計測する機能が標準装備されており、その数値を見れる人も増えてきました。

運動中の心拍数を測定するデバイスには、様々なメーカーから販売される多くの種類があり、大きく以下の3つに分類されます。
・胸ベルト型
・アームバンド型
・腕時計型

まず、胸ベルト型は心電図法をベースにしており、心臓の微弱な電気信号を記録することで心拍数を測定します。
この方法は信頼性が高く、研究界でもその正確さが長年認められてきました。
特にデータの正確性にこだわる方には、今も胸ベルト型を愛用する方が多い印象です。

一方、アームバンド型や腕時計型は、LEDの光を皮膚に照射し、反射した光の変化をフォトダイオードで検出する光電式容積脈波記録法(PPG法)を使っています。
アームバンド型は多くの条件で妥当なデータを提供できるとされ、スプリントインターバルなど、超高強度で運動強度が急激に変化しない場合には信頼できるデバイスとされています。
一方で、腕時計型は総じて誤差が大きいとされています。
私自身も拙著の中で、研究論文を引用した上で、次の記述をしています。

1.胸ベルト型によって測定された心拍数の妥当性は高い
→当てになる
2.アームバンド型によって測定された心拍数の妥当性は基本的に高いものの、運動強度が急激に変化する形式ではやや低い
→持続的なランニングでは当てになる
3.腕時計型によって測定された心拍数の妥当性は総じて低い
→当てにならない

髙山史徳,目新しいランニングの愉しみ方: 論文と事例で学ぶトレーニング・コンディションのデータ活用法

ただし、技術の進歩により、以前は妥当性が低いとされていたデバイスでも改善が進んでいる可能性があります。
私自身も最近、自分や他者のデータを見ていて、腕時計型でも意外に妥当なデータが取れているかもしれないと感じるようになりました。
私はアスリートのデータを見るような仕事・活動もしていて、その際にはそのデバイスでとれるデータが正しくとれているのか注意深く、多角的に検討します。
その理由は、不正確なデータをもとにフィードバックしたら、アスリートに不利益だからです。
具体的には、
・学術的なエビデンスを探ること
・自分で妥当性を比較する
・アスリートで妥当性を比較する
といったアプローチです。

そのうち、今回は「自分で妥当性を比較する」をしてみたので、ここに記します。

まず方法です。

■対象者
自分(最高心拍数:195bpmぐらい)

■デバイス
・胸ベルト型(Polar社、H10)
・アームバンド型(Polar社、OH1、上腕に装着)
・腕時計型(Garmin社、Forerunner255)

■運動様式
・ランニング

■運動強度
ビルドアップ走
2km@低強度(140-150bpm)+2km@中強度(160-170bpm)+2km@高強度(180bpm以上)

■気象条件
曇り、気温19度

次に結果です。

3つのデバイスをつけて実施した6kmビルドアップ走


見てのとおり、中強度までは胸ベルト型(H10)と比べても、アームバンド型(OH1)はもちろん、腕時計型(Forerunner255)もほとんど同じ数値でした。
実際、1kmごとに平均値を算出しても、4kmまでは1bpm未満の差でした。
一方、高強度に入ると、デバイスによって数値の変化が異なる傾向が出てきました。
ただし、平均値にすると、胸ベルト型との差は、1-2bpmでした。

ということで、今回のデータは、中強度までは腕時計型で得られる心拍数であっても、妥当な数値が得られたことを意味します。
(高強度の誤差が許容範囲なのかはここでは触れません)

それで、今回の結果を解釈する際、どこまで主語を大きくして良いのでしょうか?
慎重に解釈すると、今回の結果は、
・誰?
 私
・どんな腕時計型?
 Forerunner255
・どんなランニング?
 持続的なビルドアップ走
・どの強度まで?
 中強度(約165bpm)
・どんな気象条件?
 気温が約20度で寒くない条件
において当てはまります。

つまり、今回の条件に合致しない場合、腕時計型心拍計で得られた心拍数がどれほど正確かは不明です。
ちなみに、GarminのForerunner(Foreathlete)シリーズは、255や955モデルから第4世代となり、センサーの数が4つから6つに増え、測定精度が向上したと言われています。

また、誤差に影響する要因はその他にも、モーションアーティファクト(動作による誤差)、装着位置(圧力のかかり方など)、気象条件(気温など)、人(肌の色など)などが挙げられます。
こうした要因を考えると、今回の結果をもって「腕時計型でも測れる」と一般化するのは適切ではないでしょう。

一方で、こういうデバイスで得られる数値の妥当性は、デバイスを販売しているメーカーの「精度が上がりました」「〇〇と比べても、99%の一致率」といった言葉から把握するのも難しいと考えます(出典として、学術論文のエビデンスなどがある場合は別ですが)。
また、メーカーと何らかの契約(アンバサダー、プロモーション、アドバイザーなど)をしているアスリートやタレントの言葉を信頼し過ぎるのも懸念があると考えます。

最も信頼できるデータを得る過程では、実際に自分で試行・思考することが不可欠です。
データに深い興味がある人は、「腕時計型が良い・悪い」「胸ベルト型が良い・悪い」「精度が向上」などの言葉で、思考停止せず、今回のように自分で検証するのもおすすめです。
私自身もこうした試行を愉しみとしており、データを活用したランニングの楽しみ方を紹介する電子書籍も執筆しています。


なお、今回のデータを得た後でも、私はアスリートに対しても、また自分自身に対しても腕時計型の心拍数をメインのデータとして使うつもりはありません。
しかし、以前は腕時計型の心拍数にかなり否定的でしたが、少し見方が変わってきた気がします

最後に余談です。
今回のビルドアップ走では、高強度時のペースが私のフルマラソン自己記録の平均ペースよりも遅いです。
あのペースよりも速いペースで42.195kmを走ったことがあるなんて・・・。
しかし、あと数か月後には、今回のペースより1kmあたり6秒速いペースで42.195kmを走ることを目標にしています。
現時点で目標ペースで走ったら大失速するに違いありませんが、「夏をサボった者が冬マラソンを制す」というモットーを大切に、数か月後にはテクノロジー(厚底カーボンシューズ)の力も借りて、きっとそのペースで走れるはずです。
そのために、もう少し適度にサボりつつ、トレーニングを重ねたいと思っています。


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髙山 史徳/Fuminori Takayama
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