見出し画像

『イラク水滸伝』がエルリックに繋がった喜び【読書感想文】

新刊ノンフィクションを読んだら、60年代ファンタジーを新しく楽しむことができました。


この作品を読みました

高野秀行, 『イラク水滸伝』, 2023, 文藝春秋

 この本は、高野秀行さんが、2018、2019、2022年の3回にわたってイラク南東部にある湿地帯アフワールを取材した記録をまとめた本です。

 ヘッダー画像は、本と本が繋がるイメージとしてお借りしました。この場を借りて御礼申し上げます。

あらすじ(構成)

 全8章で、第1〜3章が2018年の取材に、第5章が2019年、第6〜8章が2022年の取材に対応してます。第4章は湿地帯の通史で、2023年時点ではどうなってるの? という疑問には(執筆された時点で可能な範囲で)あとがきで答えられています。

 何箇所かに地図が挿入されてるので、写真記憶に自信のある人は先に地図を見てから読み始めてもいいかもしれません。最初から順番に読んでも大丈夫ですし(私は最初から)、水滸伝未読者でも大丈夫です。

感想

 本と本が、読む前には予想もしなかった形でつながる喜び、というのがあると思います。『イラク水滸伝』からも、その喜びを得られました。

 まず、私の印象に残った一節をご紹介。

保護者のいない外国人は心配されるだけでなく、危険分子扱いもされるのだ。

『イラク水滸伝』p419

 私事で恐縮ですが、上記の一節を読んだら、《エルリック・サーガ》(というファンタジー小説)の登場人物たちを思い出したのです。同シリーズにはメルニボネ人という集団がいまして、その者たちは故国が滅んだ後に傭兵や海賊になった、という描写があります。※

 その集団の思考を、なんとはなくですが、より深く想像できました。自ら危険分子になれば心配される(言い換えればカモにされる)こともない、これが国を失ったメルニボネ人たちの思考だったのではないか、と。

※マイクル・ムアコック, 「魂の盗人」, (『ストームブリンガー』, 早川書房, 2006, p20, または『黒き剣の呪い』早川書房1990のp65)

*** 

 ざっくりとメルニボネ人について説明すると、国が栄えていたころのメルニボネ人たちは、被征服者に対する残虐さによって恐るべき存在とされていたものの、あれやこれやでとうとう首都が焼け野原になり、メルニボネという国は滅びました。

***

 ここからは私の空想ですが、国が滅んだ後、メルニボネ人たちは、恐るべき存在であり続けることができたのでしょうか?

 もしかすると、自分たちがまとう恐怖のオーラが薄らいだこと、それがもたらす危険を察したからこそ、メルニボネ人たちは、みずから傭兵や海賊という危険分子になって、身を守ろうとしたのかもしれません。

***

 このように、最近読んだノンフィクション『イラク水滸伝』に触発されて、昔読んだフィクション《エルリック・サーガ》をより楽しむことができました。

『イラク水滸伝』そのものも、高野さんが取材を敢行しなかったら、記録されなかったであろうことがたくさん書いてあり、読めてよかったです。

 ところで、著者の高野秀行さんが、取材で出会ったマフディさんのことをより詳しく知ることで水滸伝の盧俊義が何をしていたのか想像したことと(『イラク水滸伝』p306)、私が想像したことは似たような・・・、いやいや畏れ多い。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?