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いまさらEUグリーンディール
2019年から現行欧州委員会が推し進めてきたEUグリーンディールもいよいよ大詰め。最後の一手として、欧州界隈では現在、EU2040年脱炭素目標を議論中。今更ながら感はあるが、取りあえず、グリーンディールとはなんぞや?を整理し簡略にノートにまとめた。
記事要約
脱炭素化と経済成長の両立を図る長期的かつ野心的な成長戦略として、2019年に現行欧州委員会が提案した欧州グリーンディール。
グリーンディールの名のもとに様々な法規が制定、現在議論中の2040年脱炭素目標設定の議論で集大成を迎える。
いま振り返ると、気候変動・エネルギー政策に対する温度感がだいぶ違う。昨今、脱炭素を推し進める欧州連合の存在意義そのものに疑問を投げかける極右含む非中道政党が台頭中。脱炭素の未来は次期選挙結果次第。
1. 欧州グリーンディール概要
2019年12月、フォン・デア・ライエン欧州委員長が、当初の政治指針に則り、2050年迄にEU域内の温室効果ガス(GHG)排出をゼロにする「欧州グリーンディール」を発表したことは記憶に新しい。「Climate emergency(気候非常事態)」という言葉が広がりを見せる中、世界に先駆けて、 脱炭素化と経済成長の両立を図る長期的かつ野心的な成長戦略を示した形。
グリーンディールは、カーボン・ニュートラルな経済への移行のための8つ優先的取組分野やそれを可能とする1兆ユーロ規模(今後10年)のファイナンス、研究やイノベーションの促進、国際リーダーシップ、人々への影響の軽減を睨んだ「公正なメカニズム」(Just Transition Mechanism)等、EU政治経済の在り方を根本から捉えなおす戦略。輸送、エネルギー、農業、産業(製鉄、セメント、ICT、繊維、化学)など全経済部門における具体的な政策取組を網羅した政策ロードマップもあわせて提示している(下記図を参照)。
![欧州グリーンディールのための政策ロードマップ](https://assets.st-note.com/img/1707389219287-kAnlREwhqy.png)
2. 欧州気候・エネルギー政策検討の加速化
グリーンディールにて示した戦略に基づき、欧州委員会は様々な政策づくりを実施してきた。例えば、2020年3月に欧州委員会が公表した「欧州気候法」(European Climate Act)案。事前アセスやステークホルダーからの意見公募を踏まえて起案された同法案は、2050年カーボン・ニュートラルの義務化や2030‐50年軸の中長期戦略の策定、加盟各国の政策実施状況の定期的アセスや調整等を盛り込んだ内容。通常立法手続きに基づき、2021年に採択された。
さらに2020年9月には、現行欧州委員長による初の施政方針演説(State of the EU Address)にて、2030年の欧州GHG削減目標を現行の40%から55%への引き上げること、そして2021年夏迄に全ての関連法規を見直すことを宣言。
![欧州委員長による施政方針演説](https://assets.st-note.com/img/1707389612028-x4WqJhtJ0z.png)
これを受け、欧州委員会は、欧州全体の課題となっている既存建物分野の省エネ改善を睨んだ戦略「リノベーション・ウェーブ」の公表や、省エネ目標やエネルギー供給者義務制度等を含む加盟国の省エネ政策を規定する「エネルギー効率指令」(EED)の見直し、EU自動車燃費規制(CO2 Emission Performance Standards)の厳格化の検討の他、発電や産業、航空部門を中心にEU GHG総排出量の45%をカバーする欧州排出権取引制度(EU-ETS)の見直し等に向け、動き出した。
中でも、気候野心レベル引き上げによる域内産業への影響を緩和する手段として、輸入製品の含有する炭素量に応じて価格を調整する炭素国境調整メカニズム(2023年10月発行)に関する議論がとりわけ注目を浴びたのは記憶に新しい。
![炭素国境調整メカニズム](https://assets.st-note.com/img/1707389751876-PAQyyKVjLe.png)
以上が、欧州グリーンディール開始当初の温度感で、その後、グリーンディールの名のもとに様々な法規が制定されていくが、ここでは割愛(欧州委員会HPでそれら法制定のタイムラインが掲載されている)
![](https://assets.st-note.com/img/1707389940756-16oVLeMVRE.png?width=1200)
以上の動きは現在議論中の2040年脱炭素目標設定の議論で締めくくりとなり、次期欧州委員会に引き継がれていく。
3. コメント
いま振り返ると、気候変動・エネルギー政策に対する温度感がだいぶ違うなあおもう。ちょうどコロナ前ということもあり、欧州界隈全体が脱炭素に前のめりになっていた。
その姿勢は、少なくともEU界隈のエリート層の間では、コロナ禍でも変わらずだった。むしろ経済復興の一環として脱炭素関連産業に対する投資が重要、といった議論になっていく。
しかし最近は、欧州市民の脱炭素疲れも見え始め、そもそも脱炭素を強力に推し進める欧州連合の存在意義そのものを問い直す極右含め非中道派ポピュリストが勢力を増している。その背景にはエネルギー危機やインフレを背景とした生活苦がある。環境国家ドイツにおける脱炭素政策の押し戻しが好例。
いずれにせよ、脱炭素の行方は、次回選挙次第。
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