読書感想文『すべて真夜中の恋人たち』を読んでみた
帯の「世界中が涙する、最高の恋愛小説」の文字に惹かれた。
冒頭部分を読んで、その表現の豊かさに興味を持ち読みはじめた
川上未映子さんの『すべて真夜中の恋人たち』。
全体の総括としては、川上さんの感性がすごい。
とにかく表現の仕方が独特で素敵。
そして、登場人物のキャラが濃すぎる。
物語の主人公は、内向的な性格で
フリーランスの校閲で生計を立てている
入江 冬子という30代半ばの独身女性。
口下手なこともあって
キャッチボールではない会話というか
一方的に話を聞かされていることが多い。
正直に言うと、物語の序盤までは主人公に
感情移入があまりできなくて
テンポが掴めなかった。
本当に泣ける恋愛小説なのかな?と
少し不安になりながらページを捲っていた。
でも、中盤あたりからどのようにして今の冬子になったのか
みたいなところを知ることができるのね。
あぁ、なるほど。
え?うわぁ..辛い…
こんな感想を自分の中で繰り返し
途中からは一気読みした。
私は感性が磨かれていないからか
正直、最後まで読んでも泣けなかった。
でも、恋をした冬子が
ほんの少しづつ不器用ながらに変わっていく
姿はなんだか愛おしかった。
恋すると、そうなるね。
私にもあったかもしれないって自分を振り返れる。
※以下、少しネタバレを含みますのでご注意ください!
主人公の入江 冬子は友達付き合いもなく
恋人もいない。
基本的にずっと家で黙々と仕事をして誰とも会話をしないそんな日々。
そんな彼女の唯一の情報源は、
仕事の仲介をしてくれる石川 聖という同年代の女性。
冬子とは真逆のタイプで、
美人で仕事もバリバリ。
派手な見た目で男にも困らないタイプ。
飲みに行ったりもする仲だけど、
いつも聖の近況を一方的に聞くだけ。
でも冬子は不満もなく、むしろ聖のキラキラした毎日に憧れている様子。
冬子は自分の意思を出さない、というか何も考えていないんだよね。
そんな自分を少し変えたくなったのか
街で断れず着いて行った献血で
もらった冊子をきっかけに少しづつ変わろうとする。
でも、人と関わることに慣れていない冬子は
自分を奮い立たせるために
出かける前にお酒を飲むようになる。
真っ昼間だろうと関係なく、緊張するとカバンから
魔法瓶を出して日本酒を口にするのね。
そんなことある?って思えて
正直びっくりした。笑
中盤あたりから、冬子の過去が
明らかになり少し納得する。
彼女は自分にも周りにも期待しなくなっていた。
そんな冬子がある男性と出会って
ほんとうに少しづつ距離を縮めていくの。
恋をしたことがないから
自分の気持ちを消化できないというか、
その感情自体を煩わしいと思ってしまう冬子。
ただその男性に惹かれて
誰にも自分の意思を表さなかった彼女が少しづつ変わる。
本人は変わろうとしてるんだけど
そういう冬子を見た聖はイラッとしたのか
衝突するの。
ここのやり取りが、最高に面白い。
女性特有のマウントみたいなのが
ダダ漏れな描写なのね。
地味で内向的な彼女と一緒にいることで
自分の存在意義を確認していた聖は
彼女が変わっていくのが面白くなかったんだと思う。
引き込まれた。
恋をしたことで冬子が何か変わりたいと思い
少しづつ行動していくあたりは可愛い。
終わったあとにもう一度読みたくなるような。
純愛小説で有名なこちらの作品。
私にとっては女性が無自覚ながら変わろうと
奮闘する物語に見えた。
そこに共感できる作品だと思う。
改めて、本を読むと自分の価値観を
垣間見ることができて面白いね。