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【細菌を使ってお絵描き】古代の人類は生物を使って壁画を書いていた

現代の人々が絵を描こうと思ったら、色鉛筆や絵の具、最近ではパソコンを使うなど様々な方法がありますよね。

しかし、昔はそもそも色鮮やかな顔料や染料を手に入れることが難しく、自然の鉱物や植物を粉砕したり抽出したりすることで、色を作ってきました。

それでは、歴史にも残っていないぐらい昔はどうだったのでしょうか?

そうです、絵画よりももっと古い壁画の時代にも色が使われているとしたらその色はどこからやってきたのでしょうか?

今回はそんな古代の人々が壁画を作る際に使っていた当時は希少だった“色”についてのお話です。

ハイライト

舞台は北アメリカ、そこでは数千年にわたって岩絵、身の回りの装飾、埋葬の儀式などで赤色の鉱物顔料が使われていたそうです。鉱物顔料とは簡単に言えば石を砕いて粉にしたような顔料です。

参考文献より引用

しかし、当時使われていた鉱物顔料をどうやって作り出していたのかは不明でした。今回紹介する論文では、赤色顔料の謎を解き明かすために生物学的・材料学的知見から研究が進められました。

研究グループはカナダ・ブリティッシュコロンビア州のバビーン湖のロックアートに焦点を当て、ロックアート用の絵具について調査を行いました。

そこで走査型電子顕微鏡、マイクロラマン分光法、X線回折法を用いて、顔料の微細な構造や化学組成、結晶構造といった基本的な情報を材料学的に詳しく調べました。

その結果、バビーン湖の岩絵に使用された顔料は、L. ochraceaという細菌の生体鉱物化石と微量の堆積物不純物の混合物であることが判明しました。

なんと古代のバビーン湖で岩絵具を調合していた人々は、鉄酸化細菌(FeOB)を主成分とする水生微生物の鉄マットを採取していたことが分かったのです。

それではもう少し具体的に紹介していきましょう

細菌を使った顔料づくり

細菌を使った色づくりといっても、そこら辺にいる細菌を使っても色を作ることはできませんよね。

そこで研究グループは今回注目している鉄酸化細菌をなんらか処理することによって色を作り出せないか調べたわけです。

まず未処理から1,000℃までの各処理温度において、酸化促進作用により鉄酸化細菌コントロールの顔料マトリックス色に可視的な変化が観察されました。また、加熱することで構造的、形態的な変化も見られたそうです。

原子レベルで小さなものが見れる高分解能透過型電子顕微鏡により、鉄酸化細菌を800℃にしたコントロールサンプルのナノ粒子の構造と分布を確認しました。鉄酸化細菌の表面にはマグネタイト、マグヘマイト、ヘマタイトのナノ粒子が混在していました。

このことから当時原住民が使用していた鉄酸化細菌の入手ポイントでは約800℃の温度範囲で加熱されたことがわかりました。

実際に加熱した時の色を見てみると、600℃~800℃で加熱した顔料の方が鮮やかになっているのが見えますね。

(a)未処理、(b)200℃、(c)400℃、(d)600℃、(e)800℃、(f)1000℃(参考文献より引用)

加えて、鉄酸化細菌を入手したポイントで使用されたバイオミネラル顔料は、少なくとも600℃以上で焼成されており、それが磁気特性で観察できるという仮説を検証しました。

各鉄酸化細菌のコントロールサンプルと実際に入手したポイントでの磁気応答は、ヒステリシスのない3kOe以下の印加磁場で磁気飽和を示し、酸化鉄粒子が約800℃で大きな粒子に凝集し始めたことが確認されました。

今回の調査から太平洋岸北西部の人々は、地域の景観や資源を積極的に管理し、塗料を製造するための原料の熱強化のために火を使用していたことがわかりました。

最後に

今回は大西洋岸北西部のアメリカ地域に住んでいた原住民がいかにして色を作りだしていたのかを調べた研究を紹介しました。歴史っぽさの中に自然科学の面白さが合いまった興味深い研究でしたね。

そして細菌を使った色づくりというのはそれほど普及した技術にも思えませんが(私は知りませんが)、もしかしたら今後資源不足やサステナブル、環境配慮といった時代背景から有害な金属を含む鉱物顔料から生物由来の細菌顔料が発展する可能性もあると思うと面白いです。

あくまで可能性の話ですが、こういった科学をベースにした妄想を繰り広げるのも楽しいですね。

参考文献

Hunter-Gatherers Harvested and Heated Microbial Biogenic Iron Oxides to Produce Rock Art Pigment

ChatGPT-assisted Journal Reading

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