【人工網膜】遂に人間の目を模倣する
私たちが得る情報は80%も目から入手します。それぐらい目というのは私たちの体の中で重要な器官であり、同時に複雑な器官でもあります。
そんな人間の目ですが、人間の手で作るというとそれは非常に難しく、昔の人は神の領域と思ったでしょう。
しかし、近年の科学技術をもってすれば人間の目を模倣して人工的に目を作ってやることも少しずつ現実に近づいているようです。
今回は、そんな人工網膜について紹介したいと思います。
人工網膜
網膜というと私たちが受け取った映像を投影し、電気信号に変えて脳内に送る重要な場所です。
参考文献より引用(人工網膜の構造)
レンズの機能を持つ水晶体は、すでに眼内レンズという人工材料で置き換えることができます。それに対して、網膜はもっと複雑であることが知られています。
今回紹介する研究は人工網膜を移植するという話ではありません。どちらかというとロボットの目に移植するための人工網膜といった方が正しいような気がします。
カメラとはどう違う?
最近のカメラ(検出器)の性能は非常に高く、4Kとか8Kとか言われていますよね。私たちの目に映るよりもきれいに映像をとることができるカメラもすでにあるのかもしれません。
そうするとロボットにわざわざ人工網膜なんてつけずにカメラのセンサーを付ければいいじゃないかという議論にもなります。
おそらく大半はそれで事足りるのでしょう。一方、人間の目はカメラセンサーよりも優れている点があるそうです。
それが、視野角です。どうやら人間の網膜はその形の性質上より広い視野の映像を取得することができるようです。(専門ではないので間違ってたら教えてください)
とにかく、人間の目を模倣した人工網膜の研究というのは、より広い視野角を持ち人間とほぼ同じ方法で映像を取得する新しいセンサー(検出器)をつくるものになります。
人工網膜の仕組み
今回の研究では網膜だけでなくレンズや硝子体などを含め”目”を作って検証していますがここでは、特に人工網膜にフォーカスして紹介したいと思います。
参天製薬HPより引用(目の仕組み)
人工網膜はホルムアミディニウムヨウ化鉛のペロブスカイトナノワイヤーが集まったものでできています。これだけ読むとまるで呪文ですね。
私もホルムアミ…は初めて聞きました。一般的にはFAPbI3という表記がされており、ヨウ素と鉛が有機物とくっついた物質のようです。
そしてペロブスカイトというのは結晶構造(原子の並び方)を、ナノワイヤーというのは目に見えないぐらい細いワイヤーという意味です。
参考文献より引用(大量に生えているのがナノワイヤー)
そんなものが大量に集まったある種、小さな剣山のような構造が網膜として採用されています。そんなものが一体何になるんだ?と聞きたくなってしまうような情報量ですが、要は超小さいトゲトゲの周辺に光が当たるとそれにより電気的な変化が生じ、電気が流れだすことで信号に変えるという仕組みのようです。
詳細な現象論的な仕組みはさらに難しくなるので割愛しますが、このワイヤー1本1本がセンサー(検出器)の役割を果たしているイメージでしょう。実際に、大量に集まった(密な)ナノワイヤーではその解像度が上がるようです。
さらに細いナノワイヤーを高密度に集めることができれば、さらにはっきりくっきりものを見ることが可能になるというわけですね。
ここではかなりざっくり書いているので、詳細は論文を検索してみてください。
最後に
これまで本noteでは様々な生き物からインスピレーションを受けたものづくり(バイオミメティクス)について紹介してきましたが、おそらく今回が初めての人間の模倣です。
確かに人間の体も非常に複雑な機構でできているので、模倣しがいはあると思いますが、まさかですよね。
今回の研究だけでは、まだまだ精密な画像を得ることはできていないようですが、知見がしっかりと貯まることで将来的には人間と同じ感覚で物を見るロボットが生まれてもおかしくありません。
参考文献
A biomimetic eye with a hemispherical perovskite nanowire array retina
参天製薬(目の構造):https://www.santen.co.jp/ja/healthcare/eye/eyecare/structure/