2次元炭素材料グラフェンを使って効率的に骨を作る
科学が発展して人工臓器などがつくられ始めている昨今ですが、そんな体の中でも重要なのが”骨”ですよね。
寿命が延び長生きするに伴って骨折や骨粗しょう症などのけがや病気が起こりやすくなり、骨の重要性はより一層際立ちます。
骨というと他の臓器と比べてわかりやすく感じるかもしれませんが、生物がつくる体のパーツは非常に神秘的で骨もまた簡単に作り上げることはできないんですよね。
そんな作るのが容易ではない骨を、グラフェンと呼ばれる炭素でできた2次元の物質を使って、効率的に作り上げる研究を紹介したいと思います。
骨とは
これまで何度か紹介してきましたが、動物の骨というのはヒドロキシアパタイトと呼ばれる結晶でできています。
それなら鋳造所で金属片を作るのとおんなじように作ればいいじゃない!と思われるかもしれませんが、骨の構造は非常に複雑でかなり制御された結晶成長技術がなければ作りが出すことができません。
金属の鋳造(こんな感じで大量生産できたら楽ですよね)
これまではコラーゲンを基板として用いることで、そこから骨を成長させるという方法がとられていました。
今回紹介する研究では、コラーゲンの基板に酸化グラフェンを混ぜ込むことで、さらに効率よく骨を作り上げようというお話です。
グラフェンを使うと何が良い? ?
そもそもグラフェンって何?という方も多いかもしれません。
グラフェンとは炭素原子が平面上に並んだ物質で2次元物質とも呼ばれます。何やら難しそうなものだなと思いますが、グラフェンは鉛筆の芯(黒鉛、グラファイト)をテープを使って引っぺがすと得られる目には見えない薄い膜です。そういわれると結構馴染みやすいとは思いませんか?
そんなグラフェンはエレクトロニクスの分野でかなり研究が進められており、実用化に近いデバイスなんかも結構あったりします。
ちょっと横道それてしまいましたが、本題に戻りましょう。
今回は骨づくりの基板となるコラーゲンにこのグラフェンを混ぜこみます。コラーゲンにグラフェンを混ぜ込むといってもせいぜい0.2%程度です。たったこれだけなのに骨の成長に影響があるというのは面白いですよね。
実際にコラーゲンのみの基板と、グラフェンを少し追加した基板を比べると、グラフェンが入っているほうが表面にヒドロキシアパタイトの結晶が多く付着していることがわかりました。
参考文献より引用(右に行くほどグラフェンが増えていく)
さらに、グラフェンが入っているものの方が付着した細胞が長く生きることができるため、実際の生態環境においても高い効率を示すことが明らかになりました。
参考文献より引用(右に行くほどグラフェンが増えていく)
グラフェンが増えていくと緑の点が増えていくのがわかりますよね。これが細胞がたくさん生きているということになります。
私は生物学や医学について全然知識がないのであまり気にしたことがありませんでしたが、このような分野では生体適合性というのはとても大きな重要要素になるようです。考えてみれば当たり前ですよね。
当然、このような生体適合性は生物内の実験や細胞を使った実験によってどの程度生物に親和性があるかどうか調べます。これが先ほどちょっと書いたコラーゲン(+酸化グラフェン)基板の上でどの程度細胞が長く生きられるかというような実験になるようですね。
それでは、どうして酸化グラフェンが重要なんでしょうか?
どうやら今回作製されたコラーゲン基板には酸化グラフェンが均一に分散しており、このグラフェンがカルボキシル基(COOH)やヒドロキシ基(OH)といった官能基を持っています。骨を作る体液 とこれらの官能基が反応しやすいようで、それによりただのコラーゲン基板よりも骨ができやすくなるようです。
最後に
冒頭にも書きましたが、骨はバイオミネラルと呼ばれる動物が作り出す結晶です。そのため多くの結晶屋さんが一生懸命研究しており、私も骨の研究発表を間近で聞いたことが何度かあります。
簡単のようで実は奥深い生体結晶(バイオミネラル)の研究は今後も発展していくでしょう。
このような研究のおかげで将来私たちが年配になった時に助けてもらいいたいものですね。
参考文献
Collagen Functionalized With Graphene Oxide Enhanced
Biomimetic Mineralization and in Situ Bone Defect Repair