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【絹織物だけじゃない】シルクを使った新しい電池
シルクと言ったら絹の洋服、蚕、シルクロードといったところが想像できますが、もしかしたら将来電池を想像することがあるかもしれません。
これまでいろいろなものが電池として使われるという話をしてきましたが、今回もまた不思議な電極が開発されました。
今回紹介するのはシルクとグラフェンで作る高性能な新しい電極のお話です。
シルクで電極を作る時代
冒頭でも書いたようにシルクといえば当然、着物に使う絹のことですよね。そんなシルクの何がいいのか?
実は、シルクが持っている様々な元素がちょうどいいらしいんです。
ちょうどいいとは何事だ!と怒られそうなんで、もう少し真面目にいきましょう。
そのためにはまずは電池の電極について知らないといけません。
グラフェンとはグラファイト(黒鉛)の1枚1枚をはがして炭素1層になった状態を言います。
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このように炭素材料であるグラフェンを使うことができれば、高性能な電極が作れそうです。
しかし、そう簡単にはいきません…
まず、グラフェンは究極の2次元材料とも言えますが、当然グラフェンの間には相互作用が働きときにくっついてしまうことがあります。
つまり、私たちが普段目にする黒鉛(グラファイト)に戻りやすいということです。当然、完全にグラファイトになることはないものの一部元に戻ってしまうことでやはり性能は落ちてしまいます。そのため、このグラフェンがくっつくのを妨げなくてはならないんです。
そして、もう1つ電極の性能を上げるためには、窒素(N)、酸素(O)、ホウ素(B)、硫黄(S)、リン(P)を配合していやると良いということが知られています。
グラフェンはただの炭素でできた物質なので、何とかしてこれらの元素をくっつけてやらないといけません。そこでちょうどよかったのがシルクというわけです。
シルクは蚕の幼虫が吐き出す糸ですね。主な成分はフィブロインと呼ばれるたんぱく質、つまりその大元にはアミノ酸が含まれます。このアミノ酸には炭素以外の元素が豊富に含まれます。例えば窒素やリンといったものも配合されているんです。
そのため、このシルクをグラフェンと混ぜてやることで、グラフェンがくっつくことを妨げ、同時に複数の元素を混ぜることができるということが可能になるわけです。
実際につくってみる
用意したグラフェンとシルクを混ぜ合わせて水酸化カリウム(KOH)溶液に数時間浸しておきます。その後、不要なKOHをろ過して乾燥させることで化学的に活性化させます。
この時、温度を変えて活性化させることで、グラフェン・シルク複合体の性能が変化したようです。どうやらこの温度を変えると、グラフェン・シルク複合体の微細な構造に影響がみられます。
例えば、600℃で作製すると、複合体は多孔質の構造になっておらず性能があまり上がりませんでした。逆に700℃以上で作製するとしっかりと小さな穴が発達した多孔質構造になっており、しっかりと性能が上がることが確認できたようです。
そして作製した複合体の微細な構造をより詳細に調べるため、X線を用いて原子レベルの構造解析を行いました。
その結果、シルクを利用したことで、確かにグラフェンがくっついてグラファイトにならないことを確認することができました。これはグラフェンをグラフェンとして使えるという点で、本来の電極としての性能を向上させることに期待できます。
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最後に
今回はシルクとグラフェンを使って、高性能な電極を作る研究を紹介しました。
大昔から人間の生活を指させてきた絹(シルク)が将来のエネルギー問題を解決する手助けになるかもしれないというのは面白い話ですよね。
現在では、生き物が作る糸(総じてシルク)を人工的に作ってやろうという試みが行われています。今後も、このような研究が展開されていくのが楽しみですね!
参考文献
Porous Carbon Composite Generated from Silk Fibroins and Graphene for Supercapacitors