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光を自由に曲げるGRINレンズとは

みなさんは虫眼鏡を使って火を起こしたことがありますか?

虫眼鏡、つまりレンズといえば光を曲げて集める特性を持つ材料としておそらく誰もが知っていると思います。

ただ、そのレンズの形について覚えている人はそんなに多くはないかもしれませんね。

レンズの形は光を曲げるため球面になっています。緩やかな球面にすることで光が屈折し(曲がり)、特定の位置(焦点)で集まります。

レンズによる屈折と集光のイメージ図

ここまでくると中学校の理科の授業を思い出す方もいるかもしれませんが、今回は中学校では(なんなら大学でも)聞いたことがない変わったレンズを紹介したいと思います。

球面ではないGRINレンズ

GRINレンズとはGradient-Indexの略で屈折率が分布しているレンズのことです。

そんな説明してもさっぱりわからないですよね…

ということで、もう少し背景から順に説明していきましょう。

そもそも光が曲がるというのは光の通り道における屈折率の違いが影響します。屈折率というのは、物質が持つ性質で、この屈折率が異なると光がゆっくり進みます。

身近な例ではガラスは透明なのにそこにあることがわかりますよね。これは空気とガラスの屈折率の違いにより私たちは認識できているということです。

そしてGRINのもとの名前Gradient-Indexというのは屈折率(Index)が勾配(Gradient)を持つという意味を表しています。勾配というのは坂道なんかにも使われる言葉で屈折率が内部で変化していることを意味します。

普通のガラスは比較的均一な屈折率を持っているはずですが、この特殊なGRINレンズというのはレンズ内部で屈折率が徐々に変化しているということなんです。

wikipediaより引用

そのため、GRINレンズは特別球面を作ってやらなくても平面のレンズの中で光が勝手に曲がってくれるんです。

屈折率の話は分かったから、それで何ができるんだ?と思う方も多いでしょう。

それではGRINレンズの応用についても少しだけ見てきましょう。

GRINレンズの応用例

簡単に言えば、球面を必要としないGRINレンズは、レンズの小型化に力を発揮します。

例えば、医療用の内視鏡は、なるべく細くて体内に挿入しやすい方が患者としてはうれしいですよね。そのような医療機器の小型化を実現するという点でもGRINレンズは注目されています。

また屈折率が徐々に変わるGRINレンズの考え方は光ファイバーにも応用されるようです。

私たちの生活に欠かせない通信用の光ファイバーは、情報を光として伝えるため、その光(情報)が逃げないように、少し変わった構造をしています。その構造というのは、光ファイバーの中心部と表面部で屈折率の異なる仕組みを用意しており、ファイバー内部で光が全反射してもれ出ることを防いでいます。

一方で、光ファイバーにはまだまだ課題があるようで、光の通信には屈折率が途中で突然変わる現在の設計より、屈折率が徐々に変わっていく光ファイバーの方がよいという話もあります。

GRINレンズの設計はまさに徐々に屈折率が変わる特性を持っていることから、通信用の材料としても期待されているようです。

GRINレンズの仕組みと作り方

こんな応用が考えられているGRINレンズですが、いったいどのように作られるのでしょうか

材料内部で屈折率が徐々に変わっているといわれると、最初に想像つくのが、材料内部の組成が違うんだろうな、ということです。組成というのはその材料を構成する成分のことですね。

ちょっと調べてみると、確かにGRINレンズの内部には金属イオンが含まれており、その金属イオンがレンズ内部で濃度を変えて存在するため、屈折率が徐々に変わった不思議な性質を持つようです。

金属といってもイオンなので私たちの目には見えませんが、レンズを通る光にとってはその違いは大きく影響を与えます。

それでは、どうやってレンズ内部の金属イオン濃度を変えているのでしょうか。

これにはいろいろな方法があるようです。有名な例では、イオン交換法を使って表面のイオン濃度を変えたり、レンズの主成分であるガラスの生成時にイオンを挿入する方法がとられているようです。

GRINレンズは光だけではない

以前、イルカの頭を模倣して音を真っ直ぐ飛ばす新デバイスの話を紹介しましたが、その時に使われていたのが音用のGRIN素材です。

光と音では全然違うじゃないか!と思われるかもしれませんが、どちらも同じ波であるという性質を持ちます。

そして、光における屈折率の違いは、音における音響インピーダンスの違いと対応付けられます。

またまた新しい単語が出てきてしまいましたが、要は音の屈折率のことを音響インピーダンスというぐらいのイメージで大丈夫です。

つまり、音に関しても同様に均一なレンズの中を自由に曲げて、音の方向を操ることができるってわけですね。人類は科学の叡智を結集して音を制御していましたが、イルカはGRINレンズを使わずとも音を操っているというのはまた驚きですね。

最後に

今回はあまり聞きなれないであろうGRINレンズについて紹介してみました。

私もまだまだ分かっていないところが多いですが、今後も要チェックの材料ですね。他にも面白い用途がありそうなので、また情報を見つけたらピックアップしてみたいと思います。

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