淡路島の食の旅、フレンチに古酒、旅情を誘う船で播磨灘を渡る
1月末に旅した淡路島のこと、1日目に行った「リストランテ・スコーラ」だけでなく、次の日の旅もよかったので、続けて書いてみようと思う。
静かな淡路の森のなかで過ごすフランス時間
宿泊は、リストランテ・スコーラの岡野満シェフのご招待で「オーベルジュ フレンチの森」に泊まらせてもらった。
オーベルジュとは宿泊施設付きのレストランのことで、美食の国フランスが発祥。フレンチの森は、リストランテ・スコーラと同じパソナ・グループが淡路島北部の西側「淡路島西海岸」に展開するリゾート施設のひとつだ。
オーベルジュは日本のいたるところにあり、今ではさほど珍しくはなくなったがフレンチの森では、3つの棟ある西洋風の建物がそれぞれ別のコンセプトの料理を出す点は珍しいし、おもしろい。
僕が泊ったのは、「Prince Etoile」で「淡路島の大地や海が作り出した素材を感じるニュートラディショナルなフランス料理」を楽しむことができる。
ちなみに、あと2つは、「La Rose」で「『和』『フランス料理』のフュージョン料理とワインのマリアージュ」、「Grand Baobab」で「淡路島の旬の食材が馥郁(ふくいく)と香るフランス料理」(燻製や炙り料理があるそう)である。
車通りの多かった海岸線とは違い、オーベルジュがある山中は、とても静か。1月末なので朝は少し寒かったが、早朝には気持ちのいい山の景色が広がる。
各棟の2階が宿泊用の部屋になっており、朝食は階を降りて1階のテラスのあるダイニングで、少しずつ登っていく陽を見ながらゆっくりといただく。
この日は、月末ということもあって抱えていた締め切りをこなすため、午前中は部屋のデスクでチェックアウトまで仕事をした。
まわりに何もない環境なので、ワーケーションにもぴったり、仕事がエラくはかどった。
ちなみに、写真は撮っていないが、各部屋に檜の風呂があった。天井からの採光も心地よく、檜の香りがとてもリラックスできて、2度も入ってしまった。
ランチは、池田和政シェフのコースをいただいた。
「ヌーヴェル・キュイジーヌ」をコンセプトに、伝統的なフランス料理の技法を用いながら、バターやクリームなどを減らした軽やかな料理。もちろん淡路島の食材がたくさん使われており、地場の食材の良さを伝えるなら、ヌーヴェル・キュイジーヌのコンセプトはぴったりだと思う。
1月末の利用で今と食材がだいぶ違いイメージがつきずらいかもしれないが、前日の「リストランテ・スコーラ」での食事に続き、淡路島の食材の豊富さを感じさせてもらった。
何より静かな淡路の山のなかで、フランス風の空間で過ごす時間はとてもすばらしいものだった。
40種類以上の古酒が楽しめる海が見えるバー
ランチを済ませたら、パソナ関連施設が点在する淡路島西海岸を巡る無料シャトルバスに乗って再び海岸線へ。このシャトルバスは、30分間隔で運行しているのでとても便利。島内では大いに活用させてもらった。
岡野シェフから「おもしろい施設ができたので帰りにぜひ」と紹介されていた「古酒の舎」に向かう。
古酒の舎は、海岸に面した古酒のバー。日本全国100蔵以上を巡って、10年以上の熟成を経た古酒(日本酒に梅酒、焼酎)がテイスティングできる。銘柄は、現在40種類以上にもなるというから驚きだ。
古酒は、近年注目されているジャンル。日本の酒は、基本的に新酒がもっともおいしいとされるが、そこをあえて数年熟成をさて楽しむというものだ。
新酒で飲むことが前提の日本酒にあって、数年単位の熟成はある意味で想定外の味わい方ではあるが、新酒にはないまろやかさや香りが独特で、新しい日本酒の楽しみ方として期待されている。
日本料理の店やレストランのペアリングの中で、まれに古酒が出てくることがあり「キテる」感はここ1、2年で感じていたが、古酒の舎のように古酒だけを提供する店というのは、僕は聞いたことがなかったのでとても楽しみだった。
今回の見比べたのは次の種。製造年別に並べてみた(数字は醸造年)。
ちなみに、天恩はジンで割ってマティーニにして飲んだように、古酒のカクテルもメニューにある。
飲み比べてみて感じたのは、当たり前だが「どれもまったく違う味わいになっている」ことだ。もとの酒がわからないため、熟成による効果がどれほどあるのかはわからないが、香りの点では、新酒にないものが確かに生まれているように感じた。
なかでも気になったのは「2009 幻の瀧」。ギュッとした熟成感があり、酸味がすっきとしながらもしっかりと強く、余韻にナッツのような熟成香がある、ドライな白ワインのような印象で、洋食に合いそうだと思った。アミノ酸が結合したオリが、瓶内に見えたのもおもしろい。
「2010 龍力」は、濃厚な熟成感で、ジャムのような湿ったニュアンスがあった。
醸造からもうすぐ40年もたつ「1983 岩の井」やその翌年の「1984 岩の井」は、食米のコシヒカリを原料にしていたり、「1987 谷乃越」は、アルコール度21%で樽熟成瓶常温貯蔵というものもあったり、日本酒の歴史を感じることもできる。いわば、飲む日本酒ミュージアムとでもいおうか。古酒バーには、そういった文化的な価値の側面もある。
ワインにおけるヴィンテージが日本酒に生まれたらおもしろいと思うし、とくに海外のワインに慣れた人たちの方が、より高く価値を感じてもらえるのではないかと思う。
今でこそ、少量ロットの日本の先にプレミアがついてオークションサイトで破格の値がついて問題になっているが、そもそも、日本の酒の価格、いわゆる値付けが低すぎるという意見もある。蔵の方々の意見はあると思うが、日本酒にヴィンテージの価値もついてきたら、それはいいことなのではないかと個人的には考えている。
もちろんただ古ければいいわけではないし、新酒を重んじる日本の酒の伝統はなくなってほしくはないので、あくまで「熟成するとおいしい酒」を造っていく必要がでてくるだろう。じっさい、僕が回ったいくつかの蔵ではすでに20年ほど前の酒を瓶熟成しているところもある。
数十年単位の時間を要するものなので、これからどうなるかはわからないが、安全でおいしい酒が評価されるようになればいいと思う。
古酒の舎は、とてもいい経験になった。
淡路を後に船で明石港へ、旅情を誘う海の道
酒を飲んでも無料シャトルバスがあるので、本州まで帰れる。これはありがたい。帰りは、行きとルートを変えて、船で明石港まで向かうことにした。
古酒の舎の目の前にある青海波からバスに乗り、岩屋港まで20分ほど。ここから船に乗って明石港を目指す。
淡路ジェノバラインという洒落た名前の海の道は、明石と淡路を結ぶ生活路線で、淡路島で働く人たちの通勤手段にもなっている。料金は530円、
岩屋港から明石海峡大橋の下をくぐって明石港へ。乗船時間は13分の短い旅だが、旅情を誘ってなかなかというか、かなり良い。
明石港から明石駅までも歩いて10分ほど。途中にアーケードの商店街「魚の棚商店街」を歩くのもいい(海産物が豊富、お土産を探したり)。JRに乗れば、神戸・三宮や大阪、京都へもアクセスがよく、もしかしたら三宮から高速バスよりも楽しいかもしれない。
ただし、船が1時間に1本から2本しかないので、そこだけは注意が必要だ。
淡路島の北西部、通称「淡路島西海岸」をまわった1泊2日の旅。さすが「御食国」とも呼ばれた淡路島といったところで、正直、タマネギのイメージしかなかった場所にも、こんなにもさまざまな食材があることがわかった。また、食を通じて地方を盛り上げようとするパソナグループの取り組みも、食に携わり、食を愛するものとしては応援をしたいし、前編でも書いたように、独自の表現も生まれてきていて、未来の楽しみも大いに感じた。
ぜひまた行きたいと思う。
ちなみに僕は、食を中心にまわったが、ファミリー向けにキティちゃんのテーマパークやニジゲンノモリというゲームの世界のテーマパークなどもある。いろいろな楽しみ方ができそうだ。