【読書日記78】『月の立つ林で』
先日、2023年の本屋大賞のノミネート作品が発表されました。
今回ご紹介するのは、その候補作の一つ『月の立つ林で』です。
著者である青山美智子さんは、『お探し物は図書室まで』『青と赤のエスキース』で、本屋大賞二年連続第2位に選ばれています。
両作品とも、読もう読もうと思っているうちにタイミングを逃していましたが、今回はがっつり読めました!
感想は、一言で言うと、マジおすすめ!って感じです(語彙力どこ行った)。
■『月の立つ林で』
■青山美智子著
■ポプラ社
■2022年11月
■1600円+tax
■読後に気づく見えない繋がり
この世界で、私たちはそれぞれ「点」として存在しています。私も、あなたも、あの人も、この人も、みんな「点」。
それは時に「孤独」という名前で、私たちの心を苛んできます。
誰にも理解されてない、誰にも必要とされてない。そんな気持ちたちはじわじわと心を蝕み、そのために、人を傷つけたり、自分を傷つけたりすることもあります。
でも、そんな「点」な存在な私たちは、袖振り合わずとも繋がっている。
緩く、細く。
意識する、意識しない、
そもそも意識にのぼらない、に関わらず。
また、どれほど「孤独」を
ポジティブに、ネガティブに愛でようと。
私たちはこまやかに、ゆるやかに繋がり続けるのだと。
この小説はそんな端的な事実を温かみを持って伝えてくれるのです。
・ ・ ・
連作短編の今作は、ポッドキャスト『ツキない話』を人物たちがそれぞれ聴いています。でも、その仕掛けが直接彼らの「繋がり」を生むわけではないんです。この番組自体は単なる共通項。
もちろん、このポッドキャストから流れることばがそれを聴く人のきっかけになったり、前を向く力になったりします。でも、それだけではなくて。
自分の日常には、自分以外の人がたくさん関わっている。そのなかには、知っている人だけでなく、直接には知らない人もたくさんいる。その「知らない人」と実は共通項を持っている(かもしれない)幸せ。
・ ・ ・
今って、「分断」ってことが声高に叫ばれますよね。もちろん、それは事実としてあると思うし、あちこちに境界線が引かれていたり、自分で引いてしまったりして、自縄自縛な苦悩をかましていることも多いです。
でも。
それって、ある面では。
自分の内面だったり、ライトが当たって超絶輝いているところだったりだけを見過ぎているのかもって。だからこそ、自分は違うとか、孤独とか、そこにばかり目が行ってしまうのではないかって。
そう考えれば。
自分の外側をぼんやりと眺めたり、輝いている一方で蔭になっているところに気づいたり。あるいは、うす明るいところに目を向けたり。
そうすれば、細くて小さいかもしれないけど。マジで目を凝らさないと見えないかもしれないけれど、でもきっと、そこに分断とは違う何かをみつけられるんじゃないかなって。そして、それを「幸せ」って言うんじゃないかって。
この小説はそんなほんのりした幸せを教えてくれるのです。
■最後に仕掛けられた驚きの事実
帯の文言もそうですし、あちこちの紹介文でも「最後の仕掛けが!」と煽ってくるので、読みながらずっと気にはなっていたんです。
なんなら、「こうなるのかな?」「ああなるのかな?」とうっすら予想しながら読んでいたりもして。「最後の仕掛けって、何が来るんだろう」と、ワクワクを絶好調に盛り上げて、最後のエピソードに臨んだんです。
そしたら。
いや、マジで「最後の仕掛け、これか!」ってなったですよ。うん。語彙力。とりあえず、「うわぁ」ってなります。そして、泣きそうになります。
仕掛け自体もそうですし、それのもたらす結末も、想像していたよりずっと、やさしくてあたたかで。「幸せ」ってこういう色をしているのかなって……じわぁと体の芯からぬくもりが湧きあがる感覚を持ったですよ。
・ ・ ・
何の気なしに、一気読みできる「読みやすさ」と、そのスピードで読んでもきっちり体のなかに感情が流れ込む「読みやすさ」とが共存。読み終わったあとの、じんわりした温かみがほんとうに幸せでした。
■まとめ
青山美智子さん『月に立つ林で』は、2023年本屋大賞ノミネート作品。
連作短編という構成の面白さを存分に活かしきった、心温まる小説です。
最近ツイてないと感じる人や、ココロがひえびえしてると思っちゃう人に特におすすめ。もちろん、活字好きな人にも。あ、活字をいつもは敬遠してしまう人にもすっごく読みやすいと思います。
よろしければ、ぜひ。