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【826回】「いのちの芽」


大江満雄 編 「詩集 いのちの芽」(岩波文庫)

ハンセン病当事者が作った詩を集めたもの。ハンセン病の作家といえば、北條民雄や明石海人のように、名前が残っている人を思い出す。本書には、この2名は登場しない。戦前の作品も登場しない。戦後のハンセン病当事者が作った詩を227篇掲載している。

8月27日から9月21日まで、約一ヶ月かけて読み通した。毎日毎日、少しずつ読んでいった。この間、この本を開かなかった日はなかった。職場にも持っていき、休憩時間に1つ2つ、読むときもあった。

気分変調症を抱える僕は、生きやすい日もあれば、苦しくて仕方ない日もある。大きな波のように気分の変動がある。朝元気だったのに、午前中一気に沈んで、同じ午前中に一気にハイテンションになる。そのような過ごし方をしている。

じつに、辛い。

ハンセン病当事者の詩を読むのは、どういう意味があるのだろう。
自分よりも辛い思いをしている人がいる。自分は建物の中に閉じ込められていない。とりあえず自由に生きていける。だから、辛くてもがんばれ。
そういう思いだろうか。
ハンセン病差別への許せない気持ちから、本を開くのだろうか。

僕は、どんな状況でも生きていく人たちから力をもらいたいから、この本を開いたのだと思う。
戦うためでもない。謝るためでもない。
僕が生きるために読むのだ。

僕は、本書から力をもらったのだ。
感謝の思いがあふれてくる。

詩を作った人たちは、「詩を作ってくれてありがとう」と聞けば、どう思ってくれるだろうか。
詩を編集した大江満雄は、「詩を編集してくれてありがとう」と聞けば、どう思ってくれるだろうか。

ハンセン病がなければ、隔離されなければ、差別されなければ、227の詩は生まれてこなかった。
これらの詩は、無い方がよかったかもしれない。
差別があったからこそ生まれた詩というのは、本を手にしながら、なんとも言えない申し訳無さに襲われる。

それでも、ごめんなさい。僕は、あなたたちに、力をもらいました。
本当に、ありがとう。

二度 やり直すことの出来ない
人生
それを 
放棄することの空しさ

伊藤秋雄「薬包紙詩篇」(p36)より抜粋


このまま
石のように
風雨や季節にも耐えることが出来たら、
私はやがて化石化し
鉱石のように地底に眠るのだ。

堂崎しげる「玉」(p300)より抜粋


そんな人生の沼底から
最後につかみ得た一本の藁すべのような杖
それによって凡てがささえられないにしても
枯れ葉のような両の手が
抱えこむようにしてすがる杖に
私の生命が通うとき
そこから新しい天地がひらける

松本明星「杖」(p314)より抜粋


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