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【726回】「ケルルン、クック」、そうだ蛙を探そう
重松清の「青い鳥」を読んでいる。
8つの物語が収められている、作品集だ。
目次を見る。「ひむりーる独唱」という作品がある。
ひむりーる?なにそれ。
ひむりーる、ああ、蛙なんだ。
草野心平?誰だっけ。ああ、「ケルルン、クック」の人か?
春のうた、の。あれは蛙の詩だ。
そうか、草野心平の作品には、蛙が登場するのか。
蛙には名前がついている。
「ぐりま」とか「るりだ」とか「るるる」とか。
そして「ひむりーる」
何かちょっと、可愛らしい名前だな。頭に残る。
ケルルン、クックは、小学校で学習する。国語の教科書に載っている。でも、原典を見てみたい。どの詩集に収められているのだろう。
「ぐりま」「るりだ」「るるる」「ひむりーる」も。
どの本に入っているのだろう。
とりあえず、文庫で気軽に手に入らないものか。
やはりここは、岩波文庫か。絶版。中古で、あった。
手に入るものだなあ。
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本を開く。探す。
「ぐりま」だ。「ぐりまの死」…嗚呼、死んでしまっている。
「るりだ」発見。「ぐりま」を葬る、「るりだ」…
「るるる」だ。「るるる」の葬列だ…
小さな蛙の、命を描く詩の中に、彼らはいた。
「ひむりーる」はどこ?
水が張られ、ときどき静かに揺れる水の中に、青々と行儀よく立っている苗たちのまわりを、じっと見つめるかのように。
「ギャワギャワ」と鳴き出す彼らから、たった1匹の「ひむりーる」は探せるの?
探せる。彼は、白い蛙らしいのだ。
ああ、日が暮れる。「ギャワギャワ」「ギャワワワワ」鳴き声が増え、蛙たちの姿は見えなくなる。でも、たしかに、僕のそばにはいる。
「ひむりーる」は、いなかった。岩波文庫「草野心平詩集」にはいなかった。
そして、思い出す。「ケルルン、クック」の彼は、いるのかな?
「ケルルン、クック」の彼も、いなかった。
ちょっと寂しい気持ちが湧いてくる。会いたい人に、探しに行って会えなかった。そのような感覚だ。まあ、仕方ない。他の本なら出会えるのかな。
楽しみを残しておこう。
たぶん僕はこれから、人生で田んぼを眺めるたびに、蛙の声を聞く度に、「ぐりま」や「るりだ」や「るるる」や「ひむりーる」や「ケルルン、クック」を頭から引き出して、この岩波文庫を開くのだと思う。
「ひむりーる」いないんだった!と、額に手を当てながら。