明け方、宇宙が咲く
手を振って別れる6分前
わたしたちを乗せた電車は、夜なのか朝なのか、
はっきりしない色で染めあげられた空から逃げて、地下へと潜る。
目の前の窓を見やると、わたしだけが映っていた。目が合ったけどすぐに逸らした。
彼は右隣にいるはずなのに姿を見せてくれない。ただ単に彼がぎりぎり映らない位置に座っているだけだったけれど、酔った頭は、現実なのか夢なのか、判断がつかなくなって混乱して、そして、わたしは、祈った。
4秒間だけ目をつぶって、
「どうか今夜だけは夢なんかじゃありませんように」と。
手を振って別れる3分前
勢いよく抱き寄せられて反射的に目を閉じた。
いい加減子供扱いしないで欲しい。
わたしが触れようとすると逃げるのに彼はわたしに容赦なく触れてくるからずるい。
わたしは毎度それにあらがえない。
わたしの瞼が彼の肩のあたりに触れて、わたしの瞼にいたオレンジのキラキラが移った。黒い布地のアウターだからか妙に映えていた。
オレンジのキラキラたちは、彼の肩で咲いたばかりの宇宙だった。彼にごめんね。と言いながらもわたしはそれに見惚れた。わたしの瞼にいるよりも彼の肩にいるほうが、ずっと綺麗で、ただ真っ直ぐと光を放っていて、あーほらね。やっぱりね。やっぱり心地良く居られるのはここなんだね。なんて思った。
手を振って別れた数時間後
バイト先で、陳列棚を整理しながら、
部屋に帰った彼がやな顔で宇宙に触れて、消していく姿を想像して、嬉しくなって、ため息をついた。