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想像力を鍛えて「心理描写」に役立てる【樋口一葉『十三夜』】から学ぶ小説表現

小説を面白いと感じさせるには、読者に共感してもらう必要があります。そこで大切なのが心理描写。作者が想像力を働かせて、自分とは違う立場の人間の気持ちを丁寧に描いていくことが重要です。

ここでは樋口一葉の名作『十三夜』を紐解きます。時代性を考慮しつつ登場人物の心情を想像してください。そして繊細な心理描写を学んでいきましょう。

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小説の時代性から想像しよう・樋口一葉『十三夜』

まずは作品を読みましょう。
青空文庫で『十三夜』を読む

明治を代表する女流小説家「樋口一葉」|作者概要

樋口一葉は近代以降の日本における、初の職業女流作家として有名です。学業は優秀でしたが、親の意思で小学校を退学させられています。1886年に女流歌人、中島歌子の私塾「萩の舎」へ入塾し、和歌や書を学びます。下級役人の次女として育った樋口は、ここで上流や中流社会の子女の世界を垣間見ることになりました。後に雑貨や菓子の店を営んでおり、そこで下流社会にも触れたことが、彼女の作風に大きく影響したといわれています。父親が亡くなり貧しくなったため、樋口は作家の半井桃水に師事し、小説家を志しました。しかし周囲に半井との仲を噂されるようになり、師弟関係は解消。さらに不幸は続き、樋口は24歳の若さで肺結核のため死去します。小説家としての活動時期は短く、作品数は少ないものの現代でも高く評価されています。

『十三夜』のあらすじ

高級士官に嫁いだお関でしたが、長男の太郎が生まれてからというもの、夫の態度が一変します。その冷遇に我慢ができず、離縁を決意し実家に帰りました。娘を心配し、その心に寄り添おうとする母親。それに相反して、父親はお関を諭し、婚家へ戻るよう説得したのです。帰路についたお関は、人力車の車夫に車を降りるよう言われます。車夫はかつて思いを寄せ合っていた録之助でした。自堕落な生活から妻と子を失い、その日暮らしの録之助と裕福な夫人であるお関。すでに2人のいる場所はまったく別の世界なのでした。お関は夫のもとへ、録之助は貧しい住まいへと帰っていきました。

『十三夜』を読み解くポイント

『十三夜』を読み解くために、その時代性が大きなヒントになります。女性の地位が低かった明治の日本において、結婚とは、離婚とはどのようなものだったのでしょうか。想像を巡らせてみましょう。

1:父親はなぜ娘の願いを否定した?

当時の上流階級の常識では、離婚は親族を巻き込む大きな問題でした。それは現在とは比較にならないほどです。お関の離婚は、一族に大きな影響を与えかねないため、父は娘に婚家へ帰るよう説得したのでしょう。

2:「これが夢なら仕方のない事」本当の意味は?

別れ際に録之助は「これが夢なら仕方のない事」と言いました。これは、2人のおかれている立場の違いから、また恋をはじめることはできない。それならばこの再会を「夢」とするしかないという気持ちが込められているように思えます。

3:この物語のテーマって?

誰かのためを思って、不幸な境遇に耐えることは当時の常識において美徳とされていました。「理不尽な社会への告発」という重いテーマ性を、「耐え忍ぶ美徳」のオブラートに包んで、しっとりと描写したのがこの物語の特徴ではないでしょうか。

子どもを捨てる覚悟までして離婚を決めたお関が、父親に諭されたからといって、諦めて婚家へ戻る道をなぜ選んだのでしょうか。これは一家の長である父親の言葉や決定が、絶対的であった時代背景によるものです。この「時代性」が物語の重要なポイントになります。

お関の弟は、高級士官である夫の口利きで高月給の仕事に就けました。そして置いてきた太郎をこのまま捨てれば、つらい思いをさせることでしょう。離婚しても地獄、このままでも地獄。それならば、今の地獄を選ぼうと考え直し、お関は婚家へ帰ることを決めたのです。

男尊女卑の時代性が生んだ悲劇の物語ですが、娘を助けてやらなかった父親のことを今の価値観で断罪することはできません。

このような「時代による価値観の相違や変化」は、創作にとって重要なものです。時代性ばかりでなく、その土地や種族、宗教などの違いによって価値観は変わります。『十三夜』は創作において、この価値観の違いをどのように扱うかという部分でとても参考になります。

エンタメ小説に活かすなら|『十三夜』の役立ちポイント

離婚を決意して家を飛び出したその日に、落ちぶれた昔の恋人に再会する。これは物語の盛り上がりにもっとも適した「ベタな展開」です。主人公がこれまでの人生を振り返るきっかけになるイベントとして、これほどふさわしいシチュエーションがあるでしょうか。

これほどベタな展開でも、各キャラクターの気持ちに心を動かされ、誰かのために自分を押し殺すヒロインに同情してしまいます。これは繊細な心理描写の賜物だといえるでしょう。「丁寧な心理描写」はエンタメ小説においても重要な部分。キャラクターの心情に寄り添った描写の参考になります。

【当記事は『榎本メソッド-on-line-公開講座』編集部によって執筆されました】

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