マガジンのカバー画像

小説「solec」

30
運営しているクリエイター

記事一覧

固定された記事
(小説)solec 1-1「プロローグ」

(小説)solec 1-1「プロローグ」

一面の草原は絶えることを知らない。

どこまでも、どこまでも、うんざりするほど。

巨大な大陸と無限の空の間のわずかな隙間を疾走する2040トンの鋼鉄の塊。燦然と輝く太陽に照らされる一直線の糸は、地平線へ聳える。

平坦な大地と南の山脈。重厚な青空。無機質な潤沢。

雲はまばらに線路を横断するように北から南へ流れる。

地球の大気の循環、天球を巡る太陽や惑星、それらは100年も1000年も前、人類

もっとみる
(小説)solec 1-2「FS–0ω」

(小説)solec 1-2「FS–0ω」

 右脚駅行きの電車。電車に乗るときはいつもここ。

座席とドアの間の少し開いた部分。ドア側のポールと座席の端の間に挟まり進行方向から後ろへ流れる景色を眺めていた。実験が終わり、ソレクに戻った私たちは休むことなく、到着が遅れていたカグツチ2のお迎えに出向いていた。室長だけが呼ばれたのだが、無理を言って同行させてもらえることにした。これも10年以上にわたる室長との仲のおかげだ。ありがたい。

 電車は

もっとみる
(小説)solec 1-3「オレンブルク貿易特区」

(小説)solec 1-3「オレンブルク貿易特区」

 オレンブルク貿易特区。ソレクから北へ約600kmの地に貿易特区のオレンブルクという都市がある。貿易特区というのは、ソレクの経済管理を円滑に進めるべくして作られたソレクとの中間貿易地である。
 ソレクはその高い技術を提供し、世界中の企業はこの地に社を置き、中央からの分業要請に応じる。ソレクとの間には各国企業との物質的または貨幣を使用した貿易があるわけではない。
 しかし、貿易という性質上、第二段階

もっとみる
(小説)solec 1-4「ラーメン横丁」

(小説)solec 1-4「ラーメン横丁」

 「ラーメン横町」そう名付けられた路地。脂っこい臭気が漂う狭い道。入り口らしき看板はすでに照明が落とされ、不気味な雰囲気を漂わせた。路地は湿っており、見上げれば、路地を囲む建物がかなりの高さであることがわかる。顔に水滴が落ちてくる。モールから外へ出たが気温はさほど変わらない。雪はここまで落ちてくるのに解けて水滴になるらしかった。

はいよ。と出された、とんこつラーメン。鳴門が渦を巻いている。湯気と

もっとみる
(小説)solec 1-5「ソレク平和維持隊」

(小説)solec 1-5「ソレク平和維持隊」

 いつの間に寝てしまったのだろう。枕元のPPCで時間を見ると既に午前6時を過ぎていた。

あぁ、あの子はやはり、バスの停留所で待っていただろうか。昨日のことで立腹して行かないならともかく、ただ単純に寝坊をしたということが情けなかった。

まだ、待っているだろうか。想像して、まだあの子がいるような気がした。外は静かだ。オレンブルクの朝は遅い。ソレクではありえないことだ。PPCがオフラインのままだ。オ

もっとみる
(小説)solec 1-6「ガスマスク」

(小説)solec 1-6「ガスマスク」

 ソコロフおじちゃんからPPCに連絡があったのが12分前。未だ安否の確認できないメンバーが一人いるとのことだった。名前は安藤水子。鳥肌が立った。救助隊が彼女の宿を確認したときにはもう彼女の姿はなかったという。彼女のPPCのGPSデータを調べると昨日の深夜までこの私と行動をともにしたことが判明。

どこへ行ったか、知らないか?

駅で激しい爆撃が起こっているのは一目瞭然だ。

彼女が危ない。

 地

もっとみる
(小説)solec 1-7「廃棄物の街」

(小説)solec 1-7「廃棄物の街」

 街の外側へ繋がっている東西南北4本の道路のうち、北はソレク軍が通行止め、南には空爆の影響で近づけず、東西のメインストリートは封鎖されている。

「ここへ来て、足止めかい!」

渋滞。彼女を置いて逃げる訳にもいかないので、ここで待つ。通りにはもう逃げることをあきらめた人々が座り込んでしまっている。

「さっきの空爆を見なかったの!」

そのとき、メインストリートを横切るトレーラーの一団が目に入る。

もっとみる
(小説)solec 2-1「理化学研究所」

(小説)solec 2-1「理化学研究所」

 喪失したカグツチ2をオレンブルクで見送ったのち、室長らのグループはさらなる素粒子研究で成功した。室長は言った「お前ももう立派な研究者だ。どうだ。東に行ってみる気はあるかね」
そんなこと考えたことがなかった。ソレクで生まれ、育ってきた私にその外側で、しかも第4段階での着任なんて。。。室長との連絡はそれが最後だった。
そんなときだ。人事省人事局から日本へ行くよう招待されたのは。
私はもうソレクには必

もっとみる
(小説)solec 2-2「ふくろうさん」

(小説)solec 2-2「ふくろうさん」

「もしかして、やたらとこの街をうろつくのが気に障りました?」

「その通りです。安藤さんはこの街が初めてのようですね。まったく、これだから・・・。どうせソレクの温室育ちなのでしょう。まぁここでは私も安藤さんと同じ立場の人間ではありますが、自分の街が土足で踏みにじられる気分は最悪ですねぇ。」ふくろうさんは気違いらしい。

「どういうつもりですか?」私は怒るべきか?

「安藤さんは怒っている。私がふざ

もっとみる
(小説)solec 2-3「出撃」

(小説)solec 2-3「出撃」

「こちらミューズ隊一番機、離陸します。」

「こちら2番機。タワーへ。アライアンス確認、無人支援機タイガーアイ4機と離陸する。」

「タワー了解。」

「こちら3番機、離陸する。2番機が離陸した。作戦通り基地の西側Hardy Barracks上空で合流後、Vポイントへ向かおう。」

自力で基地へ戻ったジャンとニコラによって安藤水子の誘拐が確認されてから、状況判断、作戦会議、救出作戦の発動までのシー

もっとみる
(小説)solec 2-4「嘔吐」

(小説)solec 2-4「嘔吐」

 安藤水子は白装束の男に地下へ連れて行かれた。同伴していたジャックとニコラは玄関内での乱闘でやられてしまった。誘拐?目的がわからない。もうじき基地の人間が私の救出にくるだろう。そうなったらこの人たちの命はない。このふくろうさん=白装束の男は一体何を考えているのだろう。恐怖というよりは好奇心が働いている。なぜだろう、なぜ「私」なのだろう。

「これから見せることの全ては君の想像を遥かに超える。だが君

もっとみる
(小説)solec 2-5「※※※」

(小説)solec 2-5「※※※」

 「よし!降りるぞ!」第三資料棟からほど遠いテニスコートなら降りられる。

「待て!ブライアン!」

「なんだ?操縦士!?」

ガンッ。ヘリが急上昇する、ブライアンは振り落とされないよう必死にしがみつく。その瞬間、今降りようとしていたテニスコートが吹き飛ぶ!ヘリは巻き込まれるが、なんとか体勢を保つ。このパイロットは強運の持ち主だろうか?

「おいおいソレク軍のレーダーは節穴か?第三資料棟が狙いじゃ

もっとみる
(小説)solec 2-6「悪」

(小説)solec 2-6「悪」

 「最後まで、最後まで見てもらうよ!全部シナリオ通りさ。生命工学、神経科学、神経システム科学、暴力科学なんてのもあるんだぜ。一番辛い実験対象は、「自殺」だったかな。ねえ聞いてる?誰でもいいから聞いてる!??」

 驚いたのはその会話中背景が大きく歪んだりカラフルな模様が現れたり、大都市の真上にいるような風景に切り替わったりするのだ。
「彼はどこにいるんでしょうね。」
「このレッドカーペットを辿って

もっとみる
(小説)solec 3-1「部外者」

(小説)solec 3-1「部外者」

 滑らかなカーブを描くインテイクに大量の空気が吸い込まれる。双子のスクラムジェットエンジンはさらにストラットへの流入を増す。ソレクは9月中旬を越すと風向きが変わり、急激に気温が下がる。零下になることもある。そんな時、この広い格納庫を暖めるのはこの最新式のエンジンである。
「ほー。あったまってきた」
このエンジンの最大の特徴と言えるのは、30年前より開発が進められてきた水素・酸素混合燃料である。通常

もっとみる