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(小説)solec 1-7「廃棄物の街」
街の外側へ繋がっている東西南北4本の道路のうち、北はソレク軍が通行止め、南には空爆の影響で近づけず、東西のメインストリートは封鎖されている。
「ここへ来て、足止めかい!」
渋滞。彼女を置いて逃げる訳にもいかないので、ここで待つ。通りにはもう逃げることをあきらめた人々が座り込んでしまっている。
「さっきの空爆を見なかったの!」
そのとき、メインストリートを横切るトレーラーの一団が目に入る。
「これが、ソレク軍なの・・・。」
トレーラーには星形のソレク軍のロゴ。
トレーラーが通り過ぎるとメインストリートが解放される。車が走り出すがすぐに止まる。
「あぁもう。」
列を外れて別の道を探す。
「そうだ!新興開発区なら!」あそこならここほどごった返した街作りにはなっていないはずだ。それにそこにはハイウェイもある!
振興開発区の建築中のビル群の前まで来て、
「ハイウェイも通行止め?」
ここへ来て初めてこの街が封鎖されていることに気がつく。東西のメインストリートはかなりの広さがある。それなのに動かないのはおかしい。ある程度行ったところで通行止めなのではないだろうか。
「封鎖・・・ね。」
もう決めた。ぶっ壊そう。出口を探したって、そんなものどこにもないのなら!
そういえば、この新興開発区は除染後に建てられた街じゃないか。ということは、この周りはアトーデだ!あの場所なら!
不幸にも建設現場を汚染から守る除染パネルは厚さ1ミリ以下だ。
「おりぁぁぁぁ!」
トレーラーが到着したのは、先ほど空爆を行った旧市街。自分たちもついていった。荷台が勝手に開く。あぁ、やっぱりそうだ。積み荷を降ろし、それを組み立てるのが俺たちの仕事だそうだ。取り出してくれ!と待つ、四脚歩兵、たたまれている。ベルトを外し、開くと身長1.5mほどになる。その各部に指定の装備を装着する。やったことはないが、電源を付けると自動的に説明がはじまるので、素人でもできる。ちょっと凝ったおもちゃみたいだ。アサルトライフルや拳銃を初めて手にしたときにも同じことを思った。
すべて取り付けると、「完了」と機械音声。「バックアップを更新。データリンクを自動的に構築。」すると、画面に人間の女性が表示された。「私はヒイラギ ミユ。この作戦の総指揮者です。このたびはおつかれさまです。あとはこちらで処理します。一時的に平和隊には下がってもらいます。軍解散後の事後処理をお願いします。」女性だったのか。この人があんな作戦を?30?いや20代後半といったところだろうか。若い。それにしても、この人、帯刀している。まるで忍者だ。将軍と呼ぶべきか。いや実際、将軍職なのか。
「あの、そのカタナは武士道とか何か?」
「事後処理についてはこちらのアリストテレスにガイドラインを作成させましたので、そのように行ってくれれば円滑かと思います。」
当然だけど、こちらから側にマイクはない。
「それでは、あとはこちら側で。」
組み立てた四脚歩兵が一斉に動き出す。いくつかはその場に残った。きっと説明書も見ないでやつに組み立てられたからだろう。
掃討作戦はむごいほど正確に行われた。
最後はテロリストたちは自決するか、逃げたあげくに俺たちの取り付けた機関砲の餌食になるか。
暇だったので、俺たちは作戦指揮車に戻って、その後の行方をモニター越しに観察していたのであった。 立派な突入班だ。
リストアップされたテロリストが次々にデリート済みフォルダに移されてゆく作業をこうして眺めると、なかなか滑稽だ。リストを作成し、掃討する作戦は自分たちもやったことがある。
3時間後にはすべてのテロリストがデリートされた。
「さて、俺たちの出番だ。」
パネルを突き破ると、そこは一面の草原だった。
アトーデ。廃棄物の街。草原に点々と配置されたそれらは、何を語ることも無く朽ちてゆく。
その中でも一際大きい、向こう側のかつての戦略爆撃機Bー52「ストラトフォートレス」の廃墟の脇に4WDを止める。
初めてこれを見たときは写真で見たイメージよりもかなり小さいくて落胆したが、コックピットの座り心地は最高であり、むき出しになった(私がむき出した部分も多いが。)配線の色とりどりなマトリクスに何度も心を洗われる印象をうけた。今や、アトーデ一番のお気に入りだ。
ドアを開けて後部座席へまわる。
開かない。
あ・・・搭乗者認証システム。
END
ゴンゴンゴン!ゴン!ゴン!
「ちょっと!何!誰か!誰か!助けて!ここどこよ!」
全く、年甲斐も無く男っぽいんだから。
ちょっと面白いから見てようかな。
内側からなら普通に開くはずだ。何に戸惑ってるんだろう。
ガン!ガン!
「もういや、誰か助けてよ・・・。」
案外涙もろいみたいだ。これ以上は私の良心が痛むので、後部座席に近寄る。
「あっ。」私に気がつく。私が閉じ込めたと言って怒るか?それとも、私が助けにきたと思って感謝するか?
「またお前か!なんてことすんのよ開けなさいよ!」
前者だ。可愛げのないやつだ。
「ちょっ。待ちなさい!戻ってきなさい!」
「それ、ガチャガチャやってみなよ!」
「なんだって?」
「だから。」
ガタン。開いた。
「お姉ちゃんさ、普通の車に乗ったことないとか?」冗談のつもりが、図星だった。
「あなたが脱がしたの?」やばっ。
「あーちょっとまって!」
ガタン。ドアが閉まる。その瞬間。このふたりは草原の真ん中に取り残された。
「ねぇ。」その姿を責めるなら、私の勇敢なアドベンチャーの話をしようか。
「これ、もしかしてBー52?」
「そっちかい!うんそうだよ!」このひとは自分の格好やここにいる理由よりも大昔の戦略爆撃機を優先するか。まぁ私もそうかも。似てるとこあるのかな。
「ってことはここが、アトーデ。」
「その名前、覚えててくれたんだ。」
「うん。そういえば私、駅であなたを待ってて、あなたが遅れてきて、そのあと、バスに乗って、あれ?」それ、捏造。
「さぞかしいい夢を見てたんでしょうねぇ。」
「取り敢えずさ。見てるこっちも恥ずかしいから。ほいっ。着なよ。」私の上着を投げる。
「ねぇあなたが脱がしたの?」こんなんじゃいつまで立っても噛み合ないので。
私の勇敢なアドベンチャーを披露する。
「そうだったの。ごめんなさい。」
2人がいるのは付け根から折れたBー52の右翼部分の上である。
「いいのいいの!なんかさ、ほうっとけなくて。」
「ありがとう・・・ございます。本当は怖かったよね。いいんだよ。私なんて他人じゃない。」
「それ、助けたあとで言うかなー。」
「あの、なんか私、あなたを誤解してました。」
「それは・・・どうも。」思い出したら、こみ上げるものがある。
「あ、うるうるしてるの可愛いね。」
「なっ引っ掛けたな!」
「いえ、褒めたんです。そんなつもりは・・。」急に切なくなってきた。これで終わり。もう会えなくなる気がして。どうしてこう思うんだろう。
「ねぇ、お姉ちゃん。これからもお姉ちゃんって呼んでいいかな。」夕日が眩しい。
「え?えぇ。いいですよ。」
「ねぇ。お姉ちゃん。ちょっとだけ、甘えてもいいかな。」
「んふっ。唐突ですね。いいですよ。」
肩に寄っかかってみる。そのまま、腕をお姉ちゃんの腰に回して倒れ込む。
「ほんとは怖かったんだ。」草原に浮かぶ破棄物の作り出すシルエットに見蕩れてしまう。
「たくさんの人を、見殺しにした。」
甲高い音で、低空を爆撃機が通過してゆく。
後頭部に手が置かれ、撫でられる。
「ここ、本当にすてきな場所ね。」
お姉ちゃんの中でうなずく。自分がうんと小さくなって、お姉ちゃんの掌の中へ入ってしまう想像をした。
「私ね、あなたといい友達になれる気がするわ。」
「ずっと一緒にいて。」
「え?」
「ずっと一緒にいて。お願い。」
「いいよ。」
第2章へ 続く