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【エッセイ】給食のおばさんになったわたし
│「給食のおばさん」になったわたし
わたしの仕事は保育園の給食調理員です。
この仕事を始めるまで、給食調理員って名前があまりピンとこなかったのですが、みなさんはどうですか?
国内で、「食べられないくらいマズい給食問題」を聞いたことがありますが、ありがたいことに、わたしが子供の頃、保育園、小学校、中学校と毎日美味しい給食を出してもらっていました。
あんなに良い記憶を与えてくれた方たちなのになぜ名前にピンと来てないか…考えました…
(はっ!給食のおばさんって呼んでた!)
わたしは何を隠そう、30代後半ですから、子供たちから「おばさん」と呼ばれても良い年齢なのですが、呼ばれ慣れていないと、やはり抵抗があるもので…。
実際にそう呼ばれたら傷つくかもしれません。(総称であって、面と向かって呼ぶことはまずないと思いますが。)
結婚のタイミングで、仕事と家事を両立するにあたり、心の余裕が欲しくて、フルタイムからパートの仕事に転職したいと思っていたところ、ちょうど求人していた知人が声をかけてくれて
その給食のおばさんに、わたしはなりました。
幸い、先生たちはわたしのことを
◯◯さんと名字で呼んでくれて
幼い園児たちには
「ご飯を作ってくれる人だよ」
「給食の先生だよ」
と教えてくれています。ほっ。
│調理師でも栄養士でもないわたしの仕事
調理員のわたしは、園の調理室で、栄養士さんが考案した献立にそって、0〜2才の園児、1〜19名にお昼ご飯とおやつを作っています。
シンクが3つある以外は、いわゆる"業務用"の物はなく、一般家庭と一緒です。
コンロが2口、冷蔵庫が1つ、オーブン機能付きの電子レンジ1つと、炊飯器が1つです。フライパンや鍋も一般家庭にある物と同じ大きさの物を使います。
わたしは、コンロの1口を離乳食用、もう1口を幼児食用として、同時進行で調理しています。
卵・小麦・乳アレルギーの対応食、離乳食はそれぞれの園児に合わせた食材・形状の食事を提供します。
さらに園によって先生から食材の大きさや味の濃さ、盛り付け方、汁物の温かさなど、それぞれの要望があるので合わせて行います。
食器洗浄・片付け、調理室・調理器具を清潔に保つ事も、園児たちに安全な食事を提供するための大事な作業です。
│資格よりもわたしを助けてくれたもの
普段から自宅でも料理をしているとはいえ、子供のいないわたしにとって、幼児食や離乳食を作ることに関しては全くの初心者。
もちろん、事前に前任者から指導も受けましたが、絶対に迷惑をかけてはいけないと思い、自分でインターネットサイトや、ベネッセコーポレーションの『離乳食 新百科』(わかりやすくてとても良い本です!)を見て勉強したり、通信講座で「食育実践プランナー」、「離乳食・幼児食コーディネーター」の資格を取得したりしました。
でも実際に調理を始めてみて、分からないことや困ったことが起こった時、わたしを助けてくれたのは資格ではなく、先生や自分の母、友人の言葉、さらにはインターネット上の会ったことのないママさんパパさんたちの記録。
そして、ちゃんと美味しい給食ができているだろうかという不安に答えてくれたのは
いつも食べてくれている園児たちでした。
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│やり方次第で苦手が得意に
わたしは元々どちらかというと料理は得意ではありませんでした。
でも、調理の仕事を始めて数ヶ月後、難なく作業ができるようになっている自分に気が付きました。
余裕ができれば、子供たちが食べやすい味、食材の大きさ・固さなどに留意し改善することや、先生からの要望にしっかり答えることもできます。
単に作業自体に慣れたということも大きいと思いますが、同時期にやっていた大規模施設の調理補助・盛り付けの仕事は、1年が経過しても一向に慣れることが無かったので、きっとこの少人数向けの給食調理が、わたしに合っていたのだと思います。
自分に合ったペースや、やり方がつかめれば、こんなにストレスなく快適に物事を進められる!
更に丁寧な仕事ができる!
もし、料理は得意ではないからと、知人からのあのお誘いを断っていたら、知ることは無かった感覚でした。
苦手意識が覆った出来事でした。
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│体は食べた物でできている
今まで、完全自己流だったわが家の自炊。
調理の仕事を始めてから、バランスの良い給食献立を自宅でも参考にするようになりました。
思い起こせば…
外食はほとんどせず、食卓には毎日バランスのとれた野菜たっぷりのおかずを何品も出してくれていた、わたしの母。
母を褒めると
「料理は慣れだよ。」とか「誰でもできるよ。」
などと言いますが、それを
毎日、何十年も継続することは、当たり前じゃない、すごいこと
だと、今ならよくわかります。
健康第一といいますが、本当に言葉通り!
何をするにも1番大事なのは健康です。
わたしと家族の健康の源を作ってくれたのは、紛れもなく母。
作る側の大変さ、食べる者への思い、その食事の大切さを知って、感謝の気持ちがあふれています。
給食や母の料理のように完璧にはできなくても、できるだけのことを自分にあった形で無理なくしていきたいと思っています。
自分や夫の健康を考える大事なきっかけになりました。
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│わたしだからできること
わたしがこの仕事に就いたのは2020年、ちょうど日本でコロナが広まり始めた頃。
就職自体が決まったのはもっと前でしたから、偶然にも影響が少ないといえるこの環境に置いていただけたことには感謝しかありません。
わたしの家族や友人には医療従事者、飲食業者、接客業者がおり、その大変さと影響の大きさを日々感じていました。
わたしはというと、マスクや消毒は職業柄必要なことでしたので、抵抗感・違和感は全く無く、プライベートもその延長で受け入れられました。
また、基本的に調理、洗浄作業まで一人体制なので、万が一のことがあっても人に感染させてしまうリスクは最小限に抑えられるという安心感がありました。
同じ「食事の提供」でも一般の飲食店と違い、平日はもちろんのこと、土日祝日も、例えひとりでも園児の登園があれば仕事があるという、とてもありがたい環境にいた自分。
それと同時に、このコロナ禍でもその不安やストレスを抱えながら、働き続けている園児の保護者や先生たちがいるという事実を間近で実感する立場にありました。
子供たちには以前と変わらず笑顔で接しながらも、毎日、幼い生命を守るために奮闘していたことを、わたしは知っています。
わたしは先生たちとは違い、普段は子供たちと接する機会はほとんどありません。
ですが、コロナの事だけではなく、ニュースで子供関連の事件・事故を目にした時、園で避難訓練があった時など、わたしはその度に自分も子供たちの命を守る一員だと思い知らされましたし、自覚もしています。
今年8月、台風の影響で大雨警報が出ていた日、保育園の周辺でも浸水があり、園児を迎えに来る保護者と対応に追われる先生で慌ただしい雰囲気でした。
外の様子がすぐ見えない調理室にいたわたし。
スマートフォンで台風情報を見て不安な思いをしながら、自分だからできることを考えていました。
それは…
いつものように給食を作り、提供をすること
でした。そうすることが、園児たちに安心を与えられるのではないかと思ったのです。
当たり前のように思えることですが、非常時にもいつもと同じ日常があることで、人がほっとすることもあるはずだと。
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当たり前だと思ってきたことが覆されてきた、この数年。
だからこそ、様々な大切なことに気付くことができるようになった気がします。
家族との時間、人との関わり方、人への感謝の気持ち、健康、自分らしい働き方・生き方などなど。
色々なきっかけをくれたこの仕事と
支えてくれたみなさんに
わたしは今、感謝しています。