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TSIによる”ファッションエンターテインメント”の創造と未来に向けた挑戦

「イタリアンを食べたいな」と思った時に頭に浮かぶレストランは?
「車を新しくしたいな」と思った時に頭に浮かぶ車種は?
「インテリアを見直したいな」と思った時に頭に浮かぶショップは?

人が何かを買いたい、欲しいと思った時に、パッと頭に思い浮かんでくるお店やブランド、商品があると思う。
それはいつも通っている所だったり、新しく出来て気になっていたお店だったり、メディアで紹介されていたブランドだったり。
かくいう私も、元気が欲しい時に食べようと頭に思い浮かぶデザートのお店があったりする。

誰しもが持っている何かを欲するときに”つい思い浮かべてしまうもの”。

今日はそんな商品を提供しよう、そんなブランドになろうと努力し進化し続けるファッション業界の古豪・株式会社TSIの話を株式会社エンゲージのセミナー内で聞いた。

そうなるためには何が必要で、NPSやVOCをどう活用しているのか。
TSIが発表した中期経営計画「TSIイノベーションプログラム2025」(略してTIP25)の中身を紐解きながら、エンゲージのオンラインセミナーレポートとして話をまとめていこうと思う。

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セミナー概要
2022年9月13日(火)開催
株式会社エンゲージ主催のオンラインセミナー
─ TSIの未来に向けた挑戦 ─
「missionは組織変革」

TSIイノベーションプログラム推進担当者がその背景を語る
パーパス「ファッション・エンターテイメント」が目指す未来とは?


登壇者紹介

株式会社TSI TIP推進ディビジョン イノベーション統括部 シニア・スクラムマスター
加賀谷 三平氏
通販企業から2008年 ㈱サンエー・インターナショナル入社 複数の百貨店キャリア系ブランドにてFMD兼DB担当後、 ㈱TSIホールディングス転籍 情報システム部 CRM担当 / 2015年 事業戦略本部 NPS導入推進担当 / 2019年マーケティング室長 /2021年カスタマー・エンゲージメント部長/2022年6月よりTIP推進Divイノベーション統括部シニアスクラムマネジャー
中期経営計画TSIイノベーションプログラム2025(TIP25)達成に向け組成された変革プロジェクトチームのマネジメントに従事

株式会社エンゲージ 代表取締役
藤谷 拓氏
2010年よりNPSを活用したロイヤルティ向上事業(NPS)立上げ、2019年に小売(アパレル)・流通業をメインしたCXとEXのコンサルティング会社(株式会社エンゲージ)を設立。代表取締役に就任。

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セミナー開始後、主催であるエンゲージの藤谷氏が登壇し、株式会社エンゲージの紹介に加え、今のファッション業界を取り巻く環境について聞かせてくれた。
※株式会社エンゲージの会社紹介ついては、私が初参加した際のセミナーレポートにて詳しく書いているので、未読の方は是非下記を読んでほしい。

コロナ禍に溢れる「触れない」の中で、お客様の心に「触れる」大切さ―イベントレポート(noteリンク)

カルチャートランスフォーメーション

世の中の変化は常あれど、コロナ禍やウクライナ情勢等未曾有のことが起き続けている今を”VUCA時代”という。
変動的で、不確実性で、複雑で、曖昧…その頭文字をとった言葉だ。
どの業界もその変化に翻弄されており、ファッション業界もまた然り。
過去に上手くいっていたことでも、現在では通用しないことが当たり前になってきている。
”カルチャートランスフォーメーション”という言葉があちこちで飛び交っているらしいのだが、今までやったことのない挑戦、カルチャーにチャレンジし、大きく変わることが必要なのだ。
藤谷氏が先日訪れたフランスで体感した話でも、シャネルやルイヴィトン、カルフール、そしてフランスの大手スーパーであるモノプリ…世界的大ブランドがまさにそのことを体現するように、お客様の声を聞き、それを活用する取り組みに力を入れているそう。
「とにかく顧客の話を聞かなければいけない」
それが今、VUCA時代の中でおこなう一番良いマーケティングだという。

何のために我々は存在しているのか

そんなVUCA時代の最中、”パーパス”や”ミッションビジョン”に立脚したビジネスが注目されているらしい。
NPSという概念の生みの親であるフレデリック・F・ライクヘルド氏の「winning on purpose」という新たな書籍を翻訳して読んでいる最中だという藤谷氏。
(セミナー後半で、藤谷氏が翻訳し読んでいる最中という上記「winning on purpose」が、実は日本語訳版が出版される予定だと加賀谷氏が伝え、驚いてそれを待つことにするという和む場面があった)
見えないものを見える化し、ロイヤリティを可視化する。吹き荒れる変化の風の中、2014年からはさらに可視化したものを改善し、行動に移す強いリーダーシップが必要だということが書かれている。
”何のために我々は存在しているのか”──そう常に自問自答し、それに応え続けることが重要なのだ。

私たちが企業へと届ける、一つ一つは小さいかもしれない声。その声をしっかりと聞き、行動に移しているのが本日話を聞くTSI。
ここからはその行動力の中心ともいえる加賀谷氏が登壇。
そして本セミナーは、加賀谷氏を中心に藤谷氏との対談形式で行われたので、分かりやすくまとめていきたいと思う。

【TSI 加賀谷三平氏登壇】(会話箇所:敬称略)

本日のアジェンダ
①組織変革とイノベーション推進の背景は?
②新purposeの定義とその中身は?
③それらとNPS、VOCとの関係は?

株式会社TSIホールディングス 会社概要
2011年6月1日設立
■経営理念
『私たちは、ファッションを通じて、人々の心を輝かせる価値を創造し、明日を生きていく歓びを、社会と共に分かち合います。』
■VISION
『時代の流れを先取りする、最高のクリエーションとライフスタイル提案を通じて、世界で最も愛されるグローバルグループを目指します。』
■パーパス
『ファッションエンターテインメントの力で、世界の共感と社会的価値を生み出す。』

何か一つでも、今日ここで話を聞いてよかったと思えるポイントを拾ってくださると嬉しい、と話し始めた加賀谷氏。
そんな真摯な言葉から、対談がスタート。

藤谷『本題に入る前に一つ。繊研新聞に、前回本セミナーに登壇いただいたBEAMSの山崎氏とNPSについて話す記事が載っていましたよね』

加賀谷『見ていただいたんですね。NPS導入のきっかけや、運用について山崎氏と話が出来て、とても貴重な時間でした』

※その興味深い記事は2022年9月7日の繊研新聞、WEB版にも本誌にも「NPSの歩き方」というタイトルで掲載されているので、ぜひ一読してほしいと思う。

未来に向け、パーパスを設定

加賀谷『アジェンダの1つ目、組織改革やイノベーション推進についてお話させていただきますね。
まず、NPS導入を開始したのは、2015年です。当時の経営陣が”変革をしなければいけない”と強く思っていたのが始まりでした。背景も変革の方向性も世によって違っていますが、変革をすること自体は常に必要です。
 現在もコロナ禍に始まり、ウクライナ情勢などが世界中に大きな影響を与えています。そんな中どう向き合うべきなのか。経営陣を中心に、相当な時間をかけて話し合いました。
 そこで、2025年までという具体的な期限を設定し、「これを達成しよう」「こういうことをやろう」「こういう意味があるからやろう」という方向性が決まりました。その中で下記の共通テーマ/キーワードを生み出したんです。

『ファッションエンターテインメント創造企業になる』

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 ここからがアジェンダ2つ目のパーパスの策定とその中身の話になるのですが、上記のテーマを実現するために作られたパーパスが、”ファッションエンターテインメントの力で、世界の共感と社会的価値を生み出す”というものでした。実は、パーパスを策定したのはTSIというグループになって初めてのことです。今までは、複数ある事業会社がこれまで培ってきたものや価値観を尊重していたので、それらを一つにまとめるのは難しいと考えていました。そんな上で、ブランドの多様性を尊重しつつ、同じ方向に船を漕いでいくためには何が必要か考え、このパーパスが必要だと気づきました。
これが組織変革、そしてイノベーション推進に至る背景ですね』

藤谷『そんな中で、加賀谷さんが任された”TIP推進ディビジョンイノベーション統括部”。その”TIPとはどういう意味ですか?』

加賀谷『社内的な用語なのですが、今期発表した中期経営計画の”TSIイノベーションプログラム2025”の頭文字をとって名付けたものです。発表した計画を、実際に具体的な行動に移し、目指しているものを形にしていくために、今期初めて設立された部署となります』

藤谷『なるほど。加賀谷さんはその部署内での役職が”スクラムマネージャー”となっておりますが、これはあまり聞きなれない役職名ですね』

加賀谷『そうですね。主にシステム開発などの界隈で数年前から役職名等で使われはじめている言葉なのですが、名の通りラグビーのスクラムが元となっており、まさに共に力を合わせて前に進んで戦うという意味です。我々も、そのような強いチーム、強い組織を作るという意味で使っています』

ファッション・エンターテインメント

加賀谷『そしてそのチームで、”ファッションエンターテインメント創造企業”を目指しています。こちらも弊社の造語なのですが、私はこの言葉を初めて聞いた時から「これはどういう言葉なのだろう」と考え、そして今も考え続けています。
 この言葉は、何か提案や発案があった際、”ファッションエンターテインメント創造企業としてふさわしいものか”と判断する意思決定の元となっています』

藤谷『ふさわしいかどうかの判断というのは、今までの判断基準と変わったということでしょうか?』

加賀谷『そうですね。今まで統一されたものがなかったので、何か議題や立案があった際、これをやるかどうかの判断を個人、または各事業に任せてきました。引き続き尊重はしつつ、グループとして2025年3月期までにやっておくべきことなのか、という大きな基準ができました。

 ”ファッションエンターテインメントの力で世界の共感と社会的価値を生み出す”と、普段の仕事の中でこの言葉を口に出して使っているわけではありません。多くの仕事がある中で、根本を辿っていくとこの言葉にたどり着く―─そんな言葉です。それをどうやって知ってもらい、共感・理解してもらい、定着させ、行動に移せるようにしていけるか。
 パーパスという言葉も、今流行りのようにあちこちで聞きますが、個人的には始まりが流行りからでも良いと思っています。そこから定着させ、文化にしていけばいい。私はパーパスを市場に対する宣言・約束事だと思っているので、ファッションエンターテインメント(人の心を魅了して離さないもの)として、今の仕事、商品、サービスは当てはまっているのか、皆で話し合っていくことが大事だと感じています。そうして、社内にそれらをどう浸透させていくか、そして状況の確認、改善について常に考えています。

 お客様に何かを浸透させていくにもプロセスがありますが、社内に対しても同様のそれがあります。認知・理解/共感・行動・定着の4つがポイントですね。それにより、グループの行動指針を理解しつつ、各ブランドはどうあるべきかという発言や議論が現在行動として現れ始めています。定着とは、文化として根付くこと。文化になるために、今動き始めたことをどのようにして中期経営計画の目標として実現させていくか。簡単ではありませんが、行動に移していけば必ず実現すると信じています』

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全ての中心はお客様

藤谷『では、アジェンダの3つ目、NPS/VOCの話にまいりましょう。中期経営計画発表前から導入されていましたが、NPS/VOCについて詳しくお話いただけますか?』

加賀谷『はい。先ほどから変革やイノベーションという話をしていますが、その中心はすべてお客様だと確信しています。どんな変化があれど、それはお客様あってのこと。ですので、全ての物事はお客様目線で考え、推進していかなければなりません。
 個人的な話なのですが、私はスターバックスが好きで600回以上通うほどのヘビーユーザーでした。そこで感じたのが、スターバックスは”顧客の感動を増やす取り組みに投資している”ということです。購入前も後も含めた、360度の感動体験をいかに与えるのか、誰かに伝えたくなる感動を求めて続けている企業の代表だと感じました。私達もこうありたいと真摯に思っています。
 誰かに伝えたくなるほどの感動とはいったいどういうものか。それは、お客様の期待する満足を超えることです。お客様のニーズに合致した期待通りのサービスや問題解決をおこなうだけではただの満足にしかなりません。忘れてはいけないのは、その期待を超えること。想定を超えた局面でのサービス、お客様の期待を超えた特別なサービスを提供することが、誰かに伝えたくなるほどの感動なのです。
 しかし、最初に期待を超えたサービスが提供できても、同じことをやり続けていけばそれは”期待通り”になってしまいます。なので我々は常に進化をしなければいけない。期待を超え、都度立ち止まり考えることが必要です。そうすることで、お客様と長いお付き合いができます。一度購入していただいただけで終わりたくはない。そのために期待以上の体験を届けることが重要なのです。

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 冒頭で藤谷さんがVUCA時代の話をされていましたが、実際その通りで、決められた枠組みのみを求めていては、変化の波に飲み込まれてしまう。必要なのは、外部環境の変化を素早く察知し、機敏に考え行動し、変化の波を推進力に変えることです。そのために、これまで以上に重要性を増すのは人材の育成、過去の知識や経験の捉われず現在の環境に応じて学び続けられる組織・チームを作ることです。
 そこで有益なのが、変化の兆しを捉えるためのVOCであり、人材の育成且つ強い組織・チームを作るのに有効なNPSという仕組みです。だからこそ今後も続け、それらを活用してお客様の声に向き合いたい。理想論のようですが、こういった理想を掲げて議論ができるチームが強くなっていくのだと信じています』

藤谷『TSIがNPSを始めた頃はVUCAという言葉も、コロナもありませんでしたよね。この取り組みの中で、ビフォーコロナとアフターコロナで考えは変わりましたか?』

加賀谷『コロナ前だと、今話した考えは持てたかどうか分かりません。平和に思っていた世の中で、起こらないと思っていたことが目の前で広がる現実。その大きな変化を目にして、変わらざるを得ないと感じました』

藤谷『なるほど。TSIには何十万件というVOCが届くと思いますが、その中からどうヒントを得ていますか?』

加賀谷『継続していなければ、ヒントに繋がる変化を捉えられません。たまに見るだけでは、前と今の変化を捉えようがありませんよね。だからこそお客様の声に向き合うことは、やり続ける必要、そして価値があるのです。ヒントを得られる変化や動きは、パッと見て分かるものではありません。そこに気づく力を育てるためには、意識して言葉に向き合っていく必要があります』

藤谷『単語レベルでの解析で、以前はなかった言葉に気づくということですね。NPSの質問内容は定期的に変えているのですか?』

加賀谷『変化に乗っ取り今の内容でいいかという対話は常に進めています。お客様の声はありがたいことにたくさん届いていますので、その声から適切に変化の兆しを見つけるNPSにしたいと思っています』

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ブランドは体験の集積

加賀谷『私が今日一番伝えたくて、自分でもノートに書いて大切にしている言葉があります。それは”ブランドは体験の集積によって作られる”ということ。
 買い物をした瞬間だけではなく、それを着て楽しい場所に出かけて、いい経験をした記憶。オンライン上で素敵に紹介してくれた記憶体験……そんなたくさんの体験が集積されたものが、ブランドなのです。
 「NPSとはなんだろう?」と改めて考えると、ブランドを共創するコミュニティだということに至ります。一方通行ではなく、双方向で創り上げていく。そのために、期待の声よりも良い体験を行動で作っていきたい。そこに欠かせないのがお客様の声であり、今の状態を調べる指標であるNPSだと思っています』

お客様の声に集まる”人”への評価

加賀谷『”何か買おう”と思った時に、頭に思い浮かぶものやブランドたちのことをエポークトセットと言います。私達はそのうちの一つになりたい、出来れば一番先に思い浮かべられるブランドになりたいと考えています。そうなるためにNPSが必要です。
 よく「NPSって何のためにあるの?」と聞かれますが、それらに簡単に答えると、色々なことを進めていく上で重要であり、影響するものだといえます。その理由を具体的にいうと”批判者を減らす推奨者を増やす”ことに活用できるからです。批判者より推奨者のほうが、ブランドや時期を問わず推奨者の方が継続利用・年間平均買上金額・年間購入頻度が高いことが判明しています。ですので批判者を減らしていくことに力を注いでいくと、おのずと収益が増えていく。

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 「どこかのNPSを真似してもいいのでは?」という声もありますが、確かに同じ改善余地も存在します。ですが、推奨者の声には”人”が登場することが多いです。主にスタッフの名前ですね。〇〇さんの対応がよかった、〇〇さんのここがよかった等、人に対する推奨がとても多いです。弊社はたくさんのブランドがあるのですが、”人”に起因する推奨理由が各ブランドで違うのです。
 あるブランドでは「スタッフの的確なアドバイスが良かった」という声が多く、
 あるブランドでは「スタッフが親身になってくれて嬉しかった」という声が多く、
 そしてまたあるブランドでは「スタッフが優しい」「スタッフが気さく」「スタッフの知識が豊富」…
 似ているようで、推奨理由が少しずつ違いました。複数のブランドを持つ弊社だからこそ気づけたポイントだと思っているのですが、このようにブランドごとで推奨理由は変わってくるので、やはり自分達で自分達のお客様の声を聞いて行動することが、一番重要だと実感しています』

加賀谷氏は力強く最後の言葉を締めくくり、対談は終了した。

ここからは、セミナー中に集まった質問への回答となる。
ピックアップされた質問を簡単にまとめた。

★Q&A(敬称略)

Q.最前線のスタッフは顧客の変化をより肌で感じていると思いますが、VOC以外に本部がそれらを汲み取る仕組みはありますか?
A.(加賀谷)市場調査をおこなったり、市場におけるブランドや生活者の変化を捉える取り組みをしています。

Q.NPSは様々なKPIに関連や相関があると思いますが、一番相関があるのは何ですか?
A.(加賀谷)弊社は多くのブランドがあり、ブランドごとに違ってくるのでどれが一番だと断言することはできませんが、推奨者ほど多く訪れてくれるということは共通していると思います。

Q.店舗スタッフがVOCの取り組みを”自分ごと化”するために、効果的な事例はありますか?
A.(加賀谷)回答の対象を個人にしていることですね。アンケートの対象をブランドでもなく、店舗でもなく、スタッフ(私)にすることで自分ごと化しやすい環境が作れると思います。
 上から指示するだけではスタッフが自分ごと化しづらいので、役職等関係なく共にお客様と向き合って「嬉しい声が届いたね」「ここは直したほうがいい」「あそこはどうすればいいかな」と考えるシーンをいかに多く作れるかが大事です。それは地道にやり続けていかなければならないと思っています。

Q.ブランドによって推奨理由が異なるそうですが、理由の本質はどこもスタッフ(人)なのでしょうか?
A.(加賀谷)リアルな店舗において、お客様が接する時間が多いのはスタッフなので、影響度合いはかなり大きいです。ECは別ですが、リアルな店舗では本質的にスタッフが体験をどう提供できるかが重要になってくるので、自ずとそうなっています。どんな世の中になっても、人が介在しているということは重要であり、本質的な部分だと思います。

Q.パーパスの浸透をはかるために、現場スタッフや本部社員を対象とした取り組みは何かおこなっていますか?
A.(加賀谷)パーパスに限ったことではなく、TIPの浸透を図るための取り組みはおこなっています。色んな立場になって考え、どうすればそれを目にする機会が増え、話し合わずにいられない状態にできるかと話し合い、それを改善行動に移し、その後また浸透できているかを図る。「パーパスって知ってますか?それについて話し合ってますか?」と答えやすい聞き方をしていますね。
(藤谷)声を聞いて改善し、そしてまた声を聞くというサイクルは、VOCのアクションと似ていますね!

Q.NPSをやってて一番良かったことはなんですか?
A.(加賀谷)基本的にすべてが良かったと思っています!
 そんな中で、特に目に見える形で現れたのが、数年前に作成した「あなたにとってお客様の声はどういうもの?」というたくさんのスタッフによる映像の完成を見た時ですかね。スタッフにとってのお客様の声が何なのか、フリップのような形でスタッフが手に持ち一人3秒ずつくらいで発表するような映像だったのですが、実際にお客様の声を聞いて改善活動をし続けてくれているスタッフの声に触れた瞬間で、とても感動しました。
(藤谷)(お客様の声は私にとって)「ビタミン!」「勇気!」というような内容でしたね。私も感動しました。
 そして私も色んな会社でNPSの取り組みをサポートしていますが、お客様の声を聞いて無駄だったなと感じているクライアントは一つもありません。必ず何かの気づきはありますし、それによってこうしなければいけないというポイントが常にあります。

Q.顧客ロイヤリティや顧客満足度の数値は、どれくらいの期間で変化を見ていますか?
A.(加賀谷)そうですね…毎日見る必要はなく、NPSのスコアとしては三か月に一度程度で良いと思います。満足度の項目は週一くらいで見ていますが。やはりサイクルを回すにはある程度時間がかかり、改善した結果が見えてくるのは早くで二、三か月後だと思いますのでそのくらいの頻度で良いと思います。

Q.NPSはスタッフの処遇改善の指標として活用してますか?
A.(加賀谷)NPSのスコアを目標として掲げているケースはあります。が、その辺りはよく考えて活用する必要があります。NPSの基本取扱いにも処遇関連は注意が必要だと記載されているように、不正につながっては元も子もないので、透明性を持ってやれるかが重要ですね。
(藤谷)処遇に使うのは、目的やカルチャーまで昇華させた後のほうが良いですね。

そして最後に、藤谷氏が何度も口にしている”今日聞いていただいた中で、何かヒントになったものを一つでもいいからアクションとして起こしてほしい”という願いを告げた。
今日加賀谷氏の貴重な話の中から学んだことを、心の中だけで消化せず何か一つでも行動に移すことで、変化が生まれる。そう切望する藤谷氏の言葉でセミナーは締めくくられた。

期待を超えた先に…

買い物をしに店舗に行った時、期待通りのサービスが受けられると私はとても満足である。
あんな服が買いたいな、この服に合うジャケットを見繕ってほしいな。
そんな期待に確実に、絶対に応えてくれるブランドというのは、なかなか無いように思う。

しかし、そんな中で期待通りの満足をさせてくれるだけではなく、それ以上の体験を提供しようと取り組む会社があることを知った。
どんなスタッフが、どんな体験をさせてくれるのだろうと、ワクワクと心が躍る。
その気持ちこそが、”ファッションエンターテインメント”であるのだと心にすとんと落ちたのである。

そのようなワクワクの集積がTSIという大きなファッションブランドの結晶となり、そのきらきらした気持ちが”頭に思い浮かべる店・ブランド”に変化していくのだと感じたセミナーであった。

今一度思い浮かべてみようと思う。

「そろそろ新しい服を買いたいな」と思った時に、一番に頭に浮かぶブランドは?