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「人を育てるのは、難しい?」ナノ・ユニバースに聞くスタッフ教育と、人材育成の未来

この文章は、CXやNPSについて初心者でもわかりやすいように、同じくCXやNPSに関して初心者であるライターに、エンゲージが依頼したレポートエッセイです。

誰かに何かを”教える”、他人を”育てる”ということは、どの分野においても総じて難しいことだと思う。
それは教える側も、教わる側も、違う一人の人間であり考え方や感じ方が違うからである。
私のような感覚派は特に、誰かに自分の感覚を共有し、教え、そして育てるという行為がとても難しく感じてしまう。

そんな私が、先日参加したオンラインセミナー「DX時代の店舗体験とスタッフ教育とは?」で見えた”未来の教育”について、イベントレポートと共にまとめていこうと思う。

セミナー概要
2022年5月19日(木)開催
株式会社エンゲージ・ピーシーフェーズ株式会社共催のオンラインセミナー
「DX時代の店舗体験とスタッフ教育とは?」
ナノ・ユニバースの店舗運営責任者が登壇

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今回の登壇者3名の紹介から始まったセミナー。
なんといってもあの有名な「ナノ・ユニバース」から話を聞けるということで、ワクワクと同時にしっかりと吸収して帰ろうといういい緊張感が生まれる。

登壇者紹介

株式会社TSIナノ・ユニバース事業部 店舗運営セクション セクション長
木村 亮介氏
2007年、株式会社ナノ・ユニバースへ販売スタッフとして入社。店長、エリアマネージャーを経験し、本社へ異動。人事マネージャーなどの役職を経て、株式会社TSIへの一社統合後、現在は店舗運営セクション長として、ナノ・ユニバース全店舗を統括指揮。

ピーシーフェーズ株式会社 shouin事業本部マーケティング&セールス部
飯島 雄輝氏
新卒で大手個別学習塾のFCに入社。教室長として店舗運営全般に従事。その後人材会社での法人営業、コーディネート業務を経てピーシーフェーズへ入社。自社ツールを用いた店舗スタッフ育成コンサルティングの後、現在は各種セミナー企画運営に従事。

株式会社エンゲージ 代表
藤谷 拓氏
2010年よりNPSを活用したロイヤルティ(顧客体験:CX=Customer Experience)向上事業に従事。 2019年に小売(アパレル)・流通業をメインしたCXとEXのコンサルティング会社(株式会社エンゲージ)を設立。代表取締役に就任。


株式会社エンゲージの藤谷氏はまず、株式会社エンゲージの紹介に加え、小売業の実態、そしてその上で重要なポイントを話し始めた。
これは藤谷氏が何度も繰り返し伝えたいと言っていることで、小売業の厳しさや、その上で大事にしていかなければならないこと、進化していかなければならないことが分かりやすくまとめられている。
詳しくは前回のイベントレポートにまとめているので未読の方は下記リンクより読んでほしい。

コロナ禍に溢れる「触れない」の中で、お客様の心に「触れる」大切さ―イベントレポート(noteリンク)


ナノ・ユニバースの生の声

そしていよいよ、ナノ・ユニバースの店舗運営責任者である木村氏の話が始まった。
どんなことでも、”気づき”を得られるような話ができれば、と口を開いた木村氏。
大まかに分けられた三つのテーマが提示され、セミナー参加者にどのテーマが一番聞きたいかを投票ボタンで募るシステム。
これはオンラインセミナーならではで、とても良いなと感じる。(実際のセミナー等では、手をあげたりしにくいものである)

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投票結果は、3番のスタッフ教育についてが過半数を占めていた。
実際、私も全て気になるがどれかと言われると…と、③に投票させていただいた。やはり、教育について気にしている方が多いのだ。
そう思いつつ、最初のテーマについて話し始めた木村氏の声に耳を傾ける。

1:DX時代のCXのあり方

ナノ・ユニバースがなぜエンゲージのNPSサービスを導入したのか?その背景を語ってくれた。
藤谷氏も常日頃言っている通り、ファッション業界・小売業は厳しい状況にある。その上、ナノ・ユニバースは元々ECサイトで購入されるお客様の割合が高かったのだそうだ。

そして追い打ちをかけるように、コロナが流行し、実店舗の売り上げが下がってきた。
本部の販売チーム、マネージャーが集まり、「ここから脱却するにはどうすればいいのか」と話し合った結果、あるテーマを掲げることになったのだ。

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「CX(顧客体験)において、No.1になろう」


原点にして頂点とも言えるこのテーマ。
ここに向かって頑張ろうと意気込む中、とある社員が発言した言葉が、サービス導入の一歩となる。

「自分達の現在地を知ることが大事なのではないか?」

木村氏は、山登りに例えてこう話した。
山頂というゴールを決めた後、そこから最短距離・ルートを調べ、途中で問題が発生したら即座に対応できるよう、”備える”ということがとても重要だ。
その備えをするためには、今自分達はどのあたりにいるのか?問題は発生していないか?これから起こる課題は予想できているか?そこを知らなければならない。

そこで必要になったのが、お客様の声を実際にデータとしてリアルタイムで確認できるエンゲージのサービス。
それは例えるならば、山登りアドバイザーや山岳ガイドのような存在なのだろう。

今まで本部から見て「この店舗は良いね」という話が出ることは多かったが、それはお客様目線でも良い店舗なのか、実際にお客様の声を収集して確認することが大事なのだと木村氏は力強く言った。そのために、エンゲージのサービスはうってつけだったのである。
まさに、CX No.1ブランドを目指す上で重要なポイントであったと言えるだろう。

2:VOC(NPS)活用の店頭の変化(成功体験と失敗体験)

続いて、NPSサービスに取り組んでから起こった変化についての話となった。
60以上あるナノ・ユニバースの店舗の中で、まず6店舗から開始したという。そこでまず起こった課題が、なかなかお客様の声の回収率が上がり切らないというものだったそうだ。
しかし、ある店舗にすごくポジティブに取り組むスタッフがいて、そのポジティブさが自然と他のスタッフに伝わっていき、その店舗の回収率が上がっていったとのこと。
木村氏はすぐにその店舗にインタビューをし、その動画をトライヤルしている全店に回した。他の店舗はその内容を見て前向きになり、全体の回収率があがったそう。なにより、この早い取り組みがその店舗の認知称賛にもつながり、さすが!と感じた。

「この店舗は良いのに…君たちももっと頑張らないと」で済ませてしまわず、即座に上層部が対応してくれる企業がどれほどあるだろうか。
木村氏は、スタッフ全員が取り組みに対してポジティブに受け入れるということはなかなかない、だからこそ本部がしっかり見ている、フォローを入れるというシステムが重要だと言った。

課題解決のために
エンゲージのシステムは、リアルタイムでお客様の声がデータとして現れてくる。だがその強みは、「まだ結果が現れてこない、変化がでない」というデータを見ているからこその焦りに繋がってしまうこともある。

それを解消するために…

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ナノ・ユニバースでは”NPSに対するサイクル”と称し、三カ月に一度出力されるレポートを元に、週単位・月単位でどう変化したのかを会議で管理し、さらにそのデータから改善した変化に基づいて質問やディスカッションをするというシステムを組み込んだ。
そうすることで、焦りを感じているスタッフやマネージャーが話し合いでそれを解消する場が出来るだけでなく、改善と変化を着実にデータとして実感できるようになったのである。

その点については、藤谷氏も「三か月に一度出るレポートを見て、その時のみ話し合う」となってしまうクライアントもある中、会議に組み込んで「やっていかなきゃ」と皆に浸透させていくシステムはすごく良いと頷いた。

何に対しても、継続することは難しい。
いかに継続させるかを考え、そして実践できる企業がCX No.1ブランドになっていくのだろう。

3:CX向上のためのスタッフ教育の仕方について(ナノOSとは・教育体系と手法)

そして話は最後のテーマ、スタッフの教育についてに移行した。
木村氏は、エンゲージのNPSサービスについての教育だけではなく、ナノ・ユニバースで行っているトータルの教育システムについて話してくれた。

まず、ナノ・ユニバースはブランドを立ち上げて20年以上にもなる企業だ。誰もが知っているブランドであり、店舗数も多い。それに伴って従業員数は400名ほどとなる。
その上各地に店舗があるため、地方・地域ごとの文化や店舗の伝統のようなものが受け継がれているという。
今までは、その伝統も大事だし「みんな違ってみんないい」の方針だったそうだ。

しかし「CX No.1ブランドになること」をテーマにした時、それだけではなく全店舗で一定以上の基盤と考え方を作っていかなければいけないと決意したとのこと。
さらに時代はDX化し、色んなツールが増え業務は多様化している。今までのようにはいかないと「ナノOS(ナノ・ユニバースオペレーションシステム)」を作り、導入したそうだ。

こういう今までの殻を破り、新たなことに挑戦する姿勢が今の大ブランド”ナノ・ユニバース”を作ってきたのだろう。

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ナノOSでは新たな研修システムを取り入れた。
まず対面の研修から全国どこでも受けることのできるオンライン研修に変更した、もちろん研修用の資料も最初からzoom用に合わせて作る。
指導者や受講者が移動するコストや時間が、劇的に削減できるそうだ。

そして、その研修内容も素晴らしい。
まず、研修対象者は全社員。
社歴が長かろうが、役職がついていようが、全ての社員に同じ研修を受けてもらう。
研修内容には、有給等の勤怠管理の話や、コンプライアンスなどの基礎的なものも含まれている。意外とこういう話はスタッフからの質問が多かったりするらしく、全員が研修を受けることでその質問に使われる時間が解消されるという副産物もあった。
初心に帰るではないが、新入社員以外にも基礎的なことから研修を受けさせてくれるのはとてもありがたいことだと思う。
研修の最終にはテストもあるとのことで、改めて身が引きしまるのではないだろうか。

「CX No.1ブランド」を目標にする覚悟

ナノOSでは、一人一人のスキルアップ以外に、問題解決ができるフレームワーク基盤を学ぶという目的もあるそうだ。
何か問題が起こり、課題が出ると、それをどう解決するかを考えなければいけない。それを、フレームワークとして学ぶ。
あらゆる問題で、そのフレームワークを基盤として考え、解決に導くことが可能になり、それを知っているか知らないかで問題解決力が違ってくるのだろう。

木村氏の話を聞き終えて
スタッフを育てる、という研修の目的だが、紐解いてみるとそれはブランド全体を育てるという地盤の上で行われている。
そして、現場だけではなく本部が即座に動きフォロー・カバーが出来る体制が出来ている。会社全体が、さらに高みへ登っていこうという意気込みを持っていることが、今日の話を聞いて実感した。
目標として掲げている「CX No.1ブランド」になるために、着実に歩みを進めているのだなと感じさせられる。
それはきっと、遠くない未来に達成してくれるのだろうと思う、有意義な話であった。

★Q&A

こちらのオンラインセミナーでは、随時質問を受け付けてくれている。
それをセミナー内で回答してくれるのはとてもありがたい。簡略的ではあるが気になる質問ばかりだったので、まとめさせていただいた。

★「お客様の声の回収率はどれくらい?」
木村氏「トライヤルでポジティブな店舗だと週で30パーセントを超えてる。(現在)ボトム店舗でもしっかり配布をすれば3パーセントほど」

★「フランチャイズとか代行店はどうしている?」
木村氏
「運営を任せている以上、やってもらう。CXという分野においてちゃんとできているか、アナウンス力があるか(回収率)をスコアで見ることができるし、代行店側も評価してもらいたい気持ちがあるので協力的」

★「効果を実感できたのは、スタートからどのくらい?」
木村氏
「トライヤルの半年で。結果で見ると、NPSの高い店舗がやはり売上が高いので、半年くらいがあればデータが分かる。小売業だと基本半年で出るのではないか」

★「行っている研修は内製?それによる具体的な変化は?」
木村氏
「昔も少しは外部講師を招いたりということがあったが、今後は増えていくイメージで考えている。NPSによる具体的な変化は、細かいところで言えば今まで店舗で使ってなかったワード(研修で使用されたもの)が流行ったり、しっかり見てくれているのが分かった」

★「研修後テストを行うと言っていたが、どういうテストか?」
木村氏
「基本はデジタルのテスト。20分くらい時間をとってグーグルフォームでやっている。講師にすぐ点数が届くので、その場で称賛ができ、満点をとってから次の研修を受けるシステムなので、ステップアップするようなイメージが湧きやすく好評」

★「研修の対象者は全員?」
木村氏
「全員。パート・アルバイトは時間的に厳しい部分もあるので必須にはしていないが、基本的には全スタッフ、全社員受けてもらっている」


コロナ時代の教育の変化とDX活用

そしてここからは、ピーシーフェーズ株式会社の飯島氏が登壇し、コロナ禍における色んなもののDX化、そしてそれに伴う教育の変化やデジタル化するトレンド、そして今後の展望について話してくれた。

ピーシーフェーズ株式会社
デジタルマーケティングから発展した会社で、主に流通・小売業のサポートをしていたが、人手不足であったり業務の多様化複雑化が進む中、一人一人に求められるスキルがどんどん高くなっているのが課題だと踏まえ、そこを解決するDXツール「shouin+」を提供している。

飯島氏は、店舗スタッフは「企業・ブランドを体現するエバンジェリスト(伝道師)」だと考えていると言った。
確かに、店舗のスタッフはそのブランドを背負っているといっても過言ではない。プレッシャーにも思えてしまうそれだが、大好きなお店のエバンジェリストになれることは、個人的にはとても誇らしいとことだと思う。

コロナ禍で研修はどう変化したのか。
以前は対面研修がほぼ100パーセントだったのが、今ではほとんどがオンラインに切り替わっている。元々集合にかかるコストや、研修中に問い合わせが来る等の課題はあったそうなので、それはポジティブな変化だと感じる。
リアルタイムでのオンライン研修が主となり、それを補助するツールとしてオンデマンド型学習(動画等)を取り入れているところが多いそうだ。

時間や場所の制約を受けずに、研修を受けられる仕組みが必要になった、と飯島氏は続けた。
研修全体を自己学習できる”学習領域”と、それをフィードバック・コーチングする”指導領域”の二つに分けることが重要だという。

そして最も重要だといってもいい、対人スキルの指導。
元々接客スキルというのは指導が難しい。指導側によって合格不合格が曖昧であったり、営業中に指導することの難点も多くあった。
それはオンライン研修になるとさらに難しくなる。例えば「感謝の気持ちをこめていらっしゃいませと言う」と文字で書かれていても、受け手によって基準が違ったりする。
そこを解消してくれるのが、「shouin+」アプリ。
「感謝の気持ちをこめて」「笑顔で」という受け手によって変わってしまう曖昧さを、動画で配信することによって同じ基準に引き上げてくれるシステム。
私がいいなと思ったのはその動画自体にピンをつけてコメントを残せるところだ。「口角があがっていていい!」というコメントを、口元にピン付して分かりやすく残せる。
こういうアプリや動画での勉強は、分かりやすさが一番大事だと思うので、こういうパッと見て分かるのはとてもいいなと思った。

動画で見て学び、クイズで理解度を棚卸することができる。そして受講者も動画をアップし、それを指導者がどこにいてもいつのタイミングでもチェックすることができ、フィードバックできる。
しかも、タイムラインがあって、そこに投稿し認知称賛するコミュニティのような機能もあり、どうしても孤独になってしまうオンライン研修でぬくもりや仲間意識を感じることができるのだ。
「shouin+」を導入した企業では、内定後の入社予定社員に動画を共有し、新入社員の教育の質をグンとあげた事例があったり、40時間かかっていた教育時間が20時間と半分に削減されたりと嬉しい声がたくさん上がっているそうだ。
ナノ・ユニバース木村氏も「入社したてですぐにお客様の前に立つのをどうしても怖がってしまう新入社員が多い中、内定時から情報を共有でき不安を取り除けるのはすごくいい」と頷いた。

そして最後に、今後の展望をまとめる飯島氏。
DX化といいつつ、どうしてもアナログな部分は絶対に残るし、基本的な取り組み方はそうそう変わらない。その中で、浮き彫りになった改善部分をいかに短期間で行うか等をDX化し、データ活用することが重要になってくるのだそう。
習得すべきスキルや作業を、多角的にデータ集約して随時アップデートしていくことが求められる時代になっていく。

厳しい小売業界の中で、いかに大事に残すところとDX化させていくところを見極め、機能させていくことが、ひいては業界全体の進化に繋がるのかもしれない。

人を育てるのは難しい?

今回のセミナーでは、人を育てるということについて、改めて考えさせられた。
冒頭で、私は難しい難しいと言ったが、そう言っているだけでは誰も育つことはない。

コロナ禍でオンライン化が進む中、それに適応するツールを開発する企業があり、それを上手く使い開花させている企業がある。
人を育てるということは、その人だけではなく、ブランド自体を育てること。そしてそれは、教える側である自分も育ててくれることなのだと改めて感じさせれた。

どうして難しいのか?どこを改善すればいいのか?何故難しいと思うのか?
そこを改善する”気づき”を、今日のセミナーで知れたように思う。

「難しい」を紐解いていけば、何が見えてくるのか。

もう一度問おう。人を育てるのは、難しい?