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傾聴地蔵!?「傾聴するだけで何もしてくれない上司」を超えていくには?

こんにちは!Engagement Run!Academy講師兼コミュニティマネージャーの三浦です!


はじめに

ここ数年で、1on1やコーチングの普及により、日本の組織の管理職研修で、「傾聴」が広まってきています。

一方で、1on1などで話している時は、話を聞いてくれるのに、地蔵のように動かない、つまり頷(うなず)くだけで何も変えてくれない上司に対して「傾聴地蔵」という言葉も生まれているそうです。

実際に、管理職の方達からも、
「1on1の時間は取っているが、相手のためになっているか不安がある。」
「本当は、指摘もしたいが"傾聴しなくてはいけない"という思いがあって本音で話せている感じがしない。」
「研修で、傾聴は学んだが、全然できていなくて申し訳ない気持ちになる。」

などのお悩みを伺うことがあり、「傾聴地蔵」という言葉は、日本の組織の現状の一面を表現したものだと言うことができると思います。

さて、今回、お伝えしたいのは、「傾聴地蔵」は、健全なプロセスである、という捉え方です。その根拠を、技術的問題と適応課題を解決する2つのアプローチから考察してみたいと思います。

この記事は、1on1などのマネジメントに悩んでいるマネージャーの方を全力で応援したいという気持ちで書いています。そして、マネージャーとの関係に悩んでいるメンバーの方の何かしらのヒントになりましたら幸いです。

技術的問題と適応課題

技術的問題とは、新たな知識やスキルを身につけることにより、客観的な「正解」を導き出すことで、解決していく問題のことです。

例えば、「野球の知識やスキルがない」場合は、野球のルールやバットの振り方などの知識を得て、素振りなどの練習を積み重ねて、スキルを得ることで技術的問題は解決していきます。

一方、適応課題とは、自分や組織が無意識に持っている
思い込みや固定観念に気がつき、その奥にある願いに向かって、トライ&エラーを繰り返していくことで解消していく課題
のことです。

野球の例えでいうと、いくら練習しても試合に勝つことができない。そこに、「チームメンバーは信用できない。」という無意識の思い込みがあるとしたら、これは適応課題です。

この思い込みに気がつき、それでも試合に勝ちたい、という強い願いがある場合、例えば、「チームメンバーのことを信用してみよう」という新たな選択肢が生まれます。

無意識の思い込みやバイアスが顕在化すると、適応課題は解消に向かいます。

ここで、ポイントとなるのは、技術的問題と適応課題と独立しているというよりは、無数に混ざって存在していることが多く、それは、傾聴などのコミュニケーションスキルでも同様だということです。

傾聴を身につけるプロセス

傾聴を身につけようと思うと、初期に出てくる問題は、「傾聴の知識が不足している。」などの技術的問題があると思います。

日本のマネージャーに傾聴の知識が不足している問題は、近年のビジネス教育や1on1の普及により改善に向かっています。技術的問題は認知がしやすく、適応課題に比べると、早く解決することができます。

一方で、適応課題の要素となる思い込みは、無意識に存在するため、自力で気がつくことは難しいですし、頭で理解しただけでなく、腹落ちしないと解消しないので、時間もかかります。

傾聴地蔵とは、傾聴についての知識を得て、スキル習得のために練習をしている状態です。これは、野球のルールを覚えて、なかなかボールに当たらないながらも素振りなどで、練習を重ねている状態が健全であるのと同じように、健全なプロセスであると言えるでしょう。

さらに、
「1on1の時間は取っているが、相手のためになっているか不安がある。」
「本当は、指摘もしたいが"傾聴しなくてはいけない"という思いがあって本音で話せている感じがしない。」
「研修で、傾聴は学んだが、全然できていなくて申し訳ない気持ちになる。」

のような葛藤がある方達は、真摯に適応課題に向き合っているプロセスにあり、技術的問題のみに取り組んでいる段階から進んでいる状態と言えるでしょう。

傾聴地蔵を超えていくには?

「傾聴地蔵」が健全なプロセスだと捉えたときに、次の問いが出てくるのは自然な流れでしょう。「では、その先に進むにはどうすればいいのか?」つまり、技術的問題を解決するための知識やスキルだけでなく、適応課題を解消するためアプローチがあるのか?という問いです。

ここでヒントとなるのが、自己内省のアプローチ、そして「NVC」やコーチングなどのコミュニケーション手法です。加えて、実は部下もコーチングスキルを身につけることで、1on1は格段に深みを増していきます。


NVC(Nonviolent Communication)とは?

NVCは「Nonviolent Communication」の略で、日本語では「非暴力コミュニケーション」と呼ばれます。アメリカの心理学者マーシャル・ローゼンバーグ氏が提唱した、自分と相手の両方の気持ちやニーズを大切にしながら対話するためのコミュニケーション手法です。

NVCが大切にする4つのステップ

  1. 観察:まず、頭の中にある「解釈」や「判断」をいったん脇に置いて、起きている事実をありのまま見る。

  2. 感情:その状況に対して、自分はどんな感情を抱いているのか? 相手はどんな感情にあるのか?

  3. ニーズ(願い):それぞれの感情の裏には、どんなニーズ(大切にしたいもの)があるのか?

  4. リクエスト:お互いのニーズを踏まえた上で、具体的に「次にどんな行動をとってほしいのか」をリクエストする。

たとえば、1on1の場面で部下が遅刻ぎみになっているとします。

  • 「遅刻してくるなんてやる気がないんじゃないの?」という判断や批判の言葉をぐっとこらえ、まず「今日は開始時刻の10分後に来たんだな」という事実を捉える(観察)。

  • 自分は「どうして遅れてきたんだろう?」と疑問や不安を感じているのかもしれない(感情)。

  • その裏には「1on1の時間を大切に使いたい」というニーズがある(ニーズ)。

  • 部下との間で「今後、時間通りに来られるように何か工夫できることはある?」と相談してみる(リクエスト)。

このように、対話のなかで「感情とニーズ」を意識的に扱うことで、攻撃的・批判的にならずにお互いを理解し合うコミュニケーションがしやすくなります。


1. 自分の気持ち・ニーズを見つめる(自己内省のステップ)

NVCではまず、「自分がいまどんな気持ち(感情)を抱いているのか」「何が満たされていないと感じているのか」という“自分のニーズ”に意識を向けることから始めます。
1on1の場面で言えば、「傾聴は大事だけれど、本当はこう伝えたい」「相手の反応が気になって、自分が言いたいことが言えない」など、葛藤を感じる瞬間があるはず。そうした違和感こそが、あなた自身の大切な感情やニーズに気づくサインです。
「相手に貢献したい」「もっと指摘してあげたい」「自分も安全でいたい」など、人はさまざまなニーズを持っています。まずはそれに気づいてあげましょう。


2. 相手への共感を補強する(共感のステップ)

ただ頷くだけの「傾聴地蔵」から一歩踏み出すために重要なのは、「相手がいまどんな気持ちで、何を望んでいるのか」を具体的に想像し、言葉にしてみることです。
NVCでは、相手の感情やニーズを推測して伝えてみることを推奨しています。たとえば「今のプロジェクトで不安があるのかな?」「もっと安心して働きたいと思ってるのかな?」と問いかける。相手も「そうなんです!」と気持ちを開きやすくなりますし、「ちゃんと自分に関心を持ってくれている」と感じやすくなります。


3. 自分の言葉で伝える勇気を持つ(自己表現のステップ)

NVCでは、自己共感と相手への共感のうえで、最後に「正直な自己表現」をする段階があります。
「しっかり傾聴してあげなくては」と思うあまり、言いたいことや必要だと感じる指摘を飲み込んでしまうと、1on1の場は「ただ受け身になるだけ」になりやすくなります。
たとえば「あなたの話を聴けて嬉しかった。私もプロジェクトの進め方に不安があるから、一緒に検討したいんだ。どう感じる?」と伝えるように、自分の感情やニーズを相手に共有することで、互いの関係性はより深まります。


4. コーチングスキルは上司だけのものじゃない

効果的な1on1を実現するには、マネージャーのスキルだけでなく、部下自身がコーチングの基礎を身につけていることも重要です。たとえば、部下が「相手の(上司の)気持ちを聴こうとする姿勢」や「問いかけによって気づきを促す質問力」を持っていると、会話が一気に双方向になります。

  • 「今の話、○○さん(上司)はどう感じていますか?」

  • 「このプロジェクトで何を一番大事にしたいですか?」

このような質問が部下から出てくると、マネージャーも「自分の気持ちや考え」を改めて見つめ直すきっかけになり、結果的に“お互いが学び合う”1on1へと成長します。


5. 上司と部下がともに高め合うトレーニング方法

5-1. 斜め1on1

直属の上司や部下同士だけでなく、別の部署・チームの人同士で1on1を行う取り組みです。

  • 部下が別の部署のマネージャーと1on1し、客観的な視点やアドバイスをもらえる。

  • マネージャー同士も、部下の状況を共有しあうことで、新しい発見が得られる。

普段の関係性が違う相手との対話は、「思い込み」や「固定観念」が外しやすく、適応課題に向き合う上で非常に効果があります。

5-2. ピアコーチング

職場の仲間(ピア)同士がコーチ役・クライアント役・オブザーバー役を交互に務めながら、お互いをコーチングし合う方法です。

  1. 2〜3人のチームを作る

  2. コーチ・クライアント・オブザーバーを交替しながらセッションを行う

  3. コーチ役はNVCを意識しながら相手の感情・ニーズを引き出す問いかけを試してみる

  4. 終わったら、クライアント役とオブザーバー役からフィードバックをもらう

  5. ローテーションして全員が体験し合う

コーチングとはそもそも「相手の内面にある答えを引き出す」関わり方です。自分がコーチ役・クライアント役両方を経験することで、質問力も回答力もバランスよく育ち、1on1の場で自然に活かせるようになります。


6. 心のスペースを整える ~ 瞑想のススメ

忙しい中で1on1をしていると、余裕がなく「傾聴しているフリ」になってしまうこともあります。そこで、心のスペースを整えるための具体例として、簡単な瞑想やマインドフルネスの実践をおすすめします。

  • 1分間呼吸瞑想
    1on1の前に1分だけ、ゆっくりと呼吸に意識を向けます。息を吸うとき、吐くときの感覚をただ感じ取る。

  • 歩行瞑想
    会議室に行くまでの移動時間に、足の裏の感覚に集中しながら歩いてみる。急いでいても頭の中を整理しやすくなります。

  • 簡単なストレッチや肩回し
    体をほぐしながら呼吸を整えるだけでも、心身のリラックスにつながり、1on1で相手の話に集中しやすくなります。

ちょっとしたことですが、身体と心を整える時間を持つことで、1on1の場に「今ここ」で臨めるようになり、相手との関係性が深まりやすくなります。


7. 小さな実験を繰り返す

傾聴やコーチング、NVC的な関わり方は、頭で理解してもすぐには身につきません。大切なのは「小さな実験を繰り返す」こと。

  • 「今日は相手の感情を推測して言葉にしてみよう」

  • 「次回は自分のニーズをひとつだけ正直に伝えてみよう」

  • 「月に1回は斜め1on1やピアコーチングの場を持ってみよう」

このように少しずつ取り組むことで、自分と相手の両方の視点を尊重し合える“動きのある傾聴”へと自然とステップアップしていきます。


まとめ

「傾聴地蔵」を超えていくためには、「ただ聴く」だけではなく、自分と相手の感情やニーズを大切にして対話することが鍵です。その中心的なアプローチとしてNVC(非暴力コミュニケーション)があり、感情やニーズを言葉にする練習を通して、「本当に分かり合える会話」が育まれていきます。

さらに、そのスキルをマネージャーだけでなく部下も身につけることで、1on1が「一方的に聴く・指導される場」から「互いが学び合う場」へと発展していきます。斜め1on1やピアコーチングなどの場を活用して、社内での学び合いの輪を広げるのもよい方法です。

加えて、瞑想などのマインドフルネスの取り組みで心のスペースを整えると、一層落ち着いて相手に向き合えるようになります。完璧にできなくても大丈夫。日々小さな実験と実践を繰り返しながら、組織全体で「動いてくれる上司」と「主体的に考え、行動できる部下」を育てていきましょう。


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