毎日読書メモ(74)『THIS IS JAPAN :英国保育士が見た日本』(ブレイディみかこ)
ブレイディみかこ、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』は、自分で買ったが、この『THIS IS JAPAN:英国保育士が見た日本』(新潮文庫)は、父の本棚にあったのを借りてきて読んだ。カバーに、感想のように「判らん、おもろない、よく勉強し!」と書き込んであり、父の心にはあまり響かなかったようだが、わたしは興味深く読んだ。
2016年8月に太田出版から刊行された本を2020年1月に文庫化した本で、2015年の夏、英国で保育士をしながらライターをしていたブレイディみかこに、出版社が、東京に来て自分の興味あるジャンルについて取材して書いてみてほしい、と依頼して作った本。取材対象は労働争議、貧困問題、保育園、デモなどの政治運動など。藤田孝典さんなどとも話をしており、やはり父の本棚にあった『下流老人』『続・下流老人』(朝日新書、感想はこちら)とつながるものがあった。日本においては、草の根の社会運動は、末端の各論になっていて、政治へのコミットをしようとしていない、という全体的な傾向があり、ブレイディみかこはそれを問題視しているが、『続・下流老人』の中で藤田孝典が、老人への貧困への対策として、政治が何をすべきかを提言していることに違和感を感じた、わたし自身の読みにも問題があった、ということを、『THIS IS JAPAN』を読んで認識した。今そこにある危機を、もぐら叩きのようにつぶしていても、問題の根源的解決にはならないのだ。長く英国に住み、労働党と保守党が政権交代しながら、時に緊縮財政を、時に大きな政府を運営している状況を眺めてきた作者が、日本の政治の在り方、社会の在り方について感じた疑問を綴る。階級社会が厳然と存在し、混じり合わない英国と、目に見える住み分けはないのに、自分を「普通」「中流」と思っている人が、健康で文化的な最低限の生活を営むのに困難を感じる状況が自分たちのすぐ脇にある日本。
末端からの働きかけとして、この本の中で何回も言及されているスペインのポデモスや、日本のSEALDs、ポデモスは今も活動を続けているが報道される機会はぐんと減っており、SEALDsは2019年で活動を終えている。山谷や、横浜寿町での貧困支援の運動も、支援する人される人双方の老齢化が問題となっている。コロナ禍以前に刊行された本なので、解説(荻上チキ)も含め、状況が悪化している現況には当然触れていないが、社会問題が更に増大していることは想像に難くない。
ブレイディみかこの声にもっと耳を澄まし、「他人の靴をはく」エンパシーについて考えてみなくてはならない。
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