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三崎亜記『博多さっぱそうらん記』(毎日読書メモ(401))

朝日新聞の読書欄で、斎藤美奈子が都道府県別読書メモを連載しているのだが、福岡県編の際に三崎亜記『博多さっぱそうらん記』(角川書店)の紹介をしていて、急ぎ読んでみた。福岡出身にして在住の作者が満を持して描いた博多小説。元々はRKB(福岡のラジオ局)での朗読劇を元に形成された小説。市の名前は福岡。駅の名前は博多。博多というエリアが福岡に対抗し、アピアランスをあげようとする怨念と、福岡と博多の融合を目指す人々の対決を裏世界で繰り広げ、それを、リアル世界に生きるかなめと博がどのように救済するかを描いた、博多世界SF。
2016年11月に、博多駅前の大通りで道路の広い面積が陥没するという事件が起こっており(実話)、それを元に、明治初期に福岡の地名を福岡と博多で争った結果、駅名だけで妥協した博多が、もっと自分たちの名前を出したいという動きをした結果がリアル世界にダダ洩れになった、その悶着を、博多地域の神社やお祭りにちなんで展開していく。
博多について詳しい人なら、頭の中で小説世界を描いてくすっと笑うだろう。書籍編集者には是非、狭義の博多エリアがわかる地図を掲載してほしかった。博多と福岡の戦いを、地図の上で確認できるともっと理解が深まったと思う。櫛田神社を始めとする、博多地域の伝統ある神社の数々、そして、博多地域最大の木造座像である福岡大仏と、戦時中の金属供出で消えてしまった博多大仏の対決とか、博多で生まれ育ったかなめが知らない史実を、中学時代に転校してきて必死で博多知識を吸収した博の博覧強記ぶりでカバーして、その知識が2人を正解の方へ向かわせる。
中学時代に資料収集中にドツボにはまった博のトラウマは「よかよ」だった。博多弁ネイティブなら聞き分けられる「よかよ」(Yes, I will accept it と、No, no longer acceptable)を聞き取れておらず、文化祭の出し物をふいにした博は、当時いい感じになっていたかなめとの仲も、コミュニケーション障害でふいにしていた。10年ぶりに再会した、博多勤めのかなめと、博多地域での大規模再開発のデザインのために来訪した博は、裏世界の神々たちに翻弄されながら、博多と福岡の融合を目指し、博多が抱える怨念を解放することに尽力する。博多対福岡の対決は、小説上はやや牽強付会的であるが、博多に馴染もうと博多知識と蓄えた博と、ネイティブ博多民のかなめの融和と協力によって少しずつ突破口が見えてくる。広い心で博多の気持ちを代弁するかなめのおばあちゃんもグッジョブ。
原作がラジオ朗読劇(博多弁ネイティブの役者によって演じられたらしい)ということで、かなり飛躍した展開が続くが、作者の博多愛を活き活きと再現したはちゃめちゃな戦闘劇に、博多についての知識のあまりない読者も心わしづかみにされる、愉快なSF劇となっている。福岡名物にわかせんぺい(二◯加煎餅)のパッケージに入っている、赤いアイマスクも出てくるよ!
これまで、三崎亜記が構築してきた、都市や建造物をめぐるSF世界を愛してきた読者なら猶更、作者のSF世界のベースがリアル世界でも再現されたことに喝采を送ったと思う。
ハンの者とカタハネの対決とか、マイヅル様と旧博多驛驛長の因縁とか、細かい仕掛けを堪能し、福岡市の一部となった博多というエリアの歴史を思う。
そして意固地になったかなめと博のラブストーリーに幸あれ。そこの部分は最初からダダ洩れだったとも言えるけど、「よかよ」の呪いに翻弄されていたのが、最後に解決してよかったねぇと、こんなのネタバレでもなんでもないよ。

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