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毎日読書メモ(15)『鎌倉うずまき案内所』(青山美智子)

Facebookで入っている、読書のグループで、青山美智子『鎌倉うずまき案内所』(宝島文庫)をすごく褒めた投稿があったので、読んでみた。鎌倉はわたしの心のふるさとなので、それもあって、鎌倉の小説が読んでみたいと思って。

読み始めたら、主人公の設定が意外と陳腐で、あれれ、と思う。例えば、自分が希望していた編集部に配属されずくさっている若い編集者、大学に行かずにユーチューバーになりたいという息子の気持ちについていけない母親。

連作短篇で、それぞれに悩みを抱えた各話の主人公たちが、鎌倉の一角で、ふっとエアポケットみたいな場所に迷い込み、そこで鎌倉うずまき案内所の御託宣を聞く。解決のキーワードと、青いうずまきが描かれた飴1個を土産に現実に戻り、ご託宣に即効性はないが、ふと気づくと、キーワードを手掛かりに内なる危機を脱出している。

面白いのは、最初のエピソードが平成31年、そこから1話ごとに6年ずつ時間が戻っていき、最後は平成元年の物語。オーバーラップする登場人物が多く、既にその人の未来の姿を知りながら、若い時の姿を知る、という読書。巻末に「平成史特別年表」が付いていて、それを見て、え、見逃していたけど、この人もこのエピソードに出ていたの、と、慌ててページをめくってみたり。丁寧な因果。その過程で、すべての登場人物がいとしくなり、物語に寄り添いたくなっていく。その時代の風俗とか事件とかもきちんと挿入されており、自分の平成史をあらためて振り返ることも出来た。

多くの人が自分自身にかけてしまっている呪いが、自分に枷をかけてしまっている。それを解放することで、自由で無限大の可能性に自分を賭けることができるようになるのだ、と、それぞれのエピソードが語っている。悪人のいない、ちょっと綺麗ごとみたいなこの物語が、わたしたちを解放してくれようとしていることを感じる。

鎌倉小説、というほど、鎌倉の魅力は語っていない気もするが、鎌倉にはこういう魔法があってもおかしくないよね、というのは納得。

青山美智子の作品を読んだのは初めてだが、今年の本屋大賞で2位だった『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)も読んでみなくては。

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