毎日読書メモ(232)『ぬいぐるみさんとの暮らし方』(グレン・ネイプ、新井素子、土屋裕)
天下の奇書、グレン・ネイプ『ぬいぐるみさんとの暮らし方』(新井素子・土屋裕共訳、新潮社)を久しぶりに出してきて読んでみた。訳者が偶然手に入れた原書"The Care and Feeding of Stuffed Animals"は、版権を得て翻訳作業に取り掛かった時点で既に入手不可能となっていて、訳者も出版社もボロボロになった本のコピーを取って、それで作業していたという。作中で言及のある、STUFF(Stuffed Toys’ Union and the Friends of the Furred)という団体も、訳書刊行の時点でもう活動を停止していたらしい。
「ユリイカ」の2021年1月号が「ぬいぐるみの世界」という特集を組み、将棋の渡辺明九段がインタビューを受けていたり、勿論新井素子もぬい写真付きでインタビュー受けている。でも、ぬいぐるみがブーム、という感じはないよね。ただひっそりと、生活の中に根付くぬい。
本書の目次。
ぬいぐるみは生きている、と心から信じ、ぬいさんと対話しながら暮らす新井素子だからこそ訳せたこの本。
家に連れ帰り、他のぬいたちと対面させ、馴染ませ、家の中を案内し、本人(本ぬい)がいたいと思った場所にいるようにさせる。気晴らしに一緒に外出したり、絶えず心の交流を心がける。ぬいぐるみへの感情移入のない人が読んだら、呆れ、3ページくらいで放り出すであろう。
読んでいて、自分が実践できているかと言うと出来ていないこともあるが(沢山あるが)ぬいぐるみと暮らすというアプローチを自分の生活の諸相に転換させると、それは「どう生きるか」というライフスタイルのひとつの指針になっている。鑑としてのぬいぐるみのCare。
生あるぬいとの対話は自分の声を聴くことでもある。
共訳者土屋裕(SF関連のフリーライター)のあとがきを読んでいて、
と書かれているのを見て、思い出したのは伊坂幸太郎『ガソリン生活』(朝日文庫)、ものを思い、喋る自動車の物語は、ある意味、新井素子のぬいさんにすごく通じているかも。
原書の刊行が1983年、この訳書の刊行が1989年。第2章の「ぬいぐるみの選び方」で、ぬいぐるみが家にやってくるシチュエーションとしてUFOキャッチャーの言及がないところに時代を感じた(クレーンゲームにぬいぐるみが入るようになったのは1980年代後半らしい)。表紙も含め、本に収めらた写真の多くは新井素子または土屋裕の私物らしいが、30年以上たって眺めると、ぬいぐるみにも時代感があるね。
ぬいぐるみの最後について語る巻末。
「老ぬいは死なず、ただ消えゆくのみ」
わたしの家にある何匹かのぬいにもしあわせなぬい生を。
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