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川端裕人『ドードー鳥と孤独鳥』(毎日読書メモ(552))

ドードーをめぐる堂々めぐり 正保四年に消えた絶滅鳥を追って』(岩波書店)で、江戸時代に日本に来ていたドードー鳥のルポルタージュを書いた川端裕人が、小説のフィールドで、ドードーと孤独鳥(ソリテア)の物語を書いてくれた! 川端裕人『ドードー鳥と孤独鳥』(国書刊行会)は、2024年度の新田次郎文学賞を受賞したサイエンスエンタメ小説。

インド洋のモーリシャス島で17世紀に絶滅したドードーと、その600㎞先のロドリゲス島で18世紀に絶滅したとされるソリテア(孤独鳥、ロドリゲスドードーとも呼ばれる)。ハト目ドードー科に属する唯二の鳥類である、2種類の飛べない鳥に心ひかれた二人の少女は、長じてそれぞれのアプローチから絶滅動物(主に鳥類)と、21世紀の人間がどう向き合うべきかを考えるようになる。

東京から、房総半島の百々谷どどたにという自然豊かな環境に引っ越してきた望月環(ボーちゃん)は、同じクラスになった生き物好きの少女佐川景那(ケイナちゃん)と親しくなる。環の父親が持っていた資料を読み、絶物動物について語り合い、百々谷を探検して作った地図に、ドードーやソリテアを描きこんでみたりする。
ケイナちゃんの家庭の事情で、別れは思ったより早くやってきて、二人のつながりは一旦切れるが、語り手である環の、ドードーをめぐる堂々めぐりの中に、再びケイナちゃんが登場する日がやってくる。

大学では物理学を専攻し、科学系の記事を書く記者として新聞社に就職した環は、日常業務と並行して、子ども時代から興味をひかれてやまない、絶滅動物についての取材を続けている。アリューシャン列島にいたステラーカイギュウ、アイスランド出張でナチュラリストたちと語り合うオオウミガラスの絶滅。アメリカ出張時には、北アメリカで20世紀初頭に絶滅したリョコウバトに関する取材も並行して行うことが出来、環は、絶滅した動物とのアプローチについて、生態学者、映像作家、環境活動家などと意見を交わす。
今、絶滅の道を歩んでいる希少動物たちは、人間が手を入れて「脱絶滅」を進めるのが正しいのか? 正しいとか正しくないとか、それは誰が決めることなのか?
博物館等に残ったはく製から、ゲノム解析を進め、現在の人類が見たこともない生き物も、全ゲノム解析が完了していたりする。例えばリョコウバトを復元したいなら、現存する種の中で一番近縁とされているオビオバトの始原生殖細胞に、リョコウバトに寄せた遺伝情報を入れ、胚に戻し、それを数世代繰り返すことで、リョコウバトの遺伝的要素を体細胞に宿したハトを得ることが出来るようになるという。
それと同じように、ドードーを復活させることもできるのか?(実際にそういうプロジェクトは進行しているらしい)
遺伝子操作した動物を野生に離すことにはいろいろ問題もあるが、では復活させた動物(どうしてもジュラシック・パークを思い出してしまうね)は、21世紀のわたしたちにとって、どういう存在なのか?

小説として読むと、これはボーちゃんとケイナちゃんのくっついたり離れたりのはかない関係が主軸となっていて、ストーリー的に弱くないか?、と思いながら読み進めていった。新聞記者を辞めて、サイエンスライターとして、ドードー情報を集めるウェブサイトの主宰者となった環(これは作者自身の経験が投影されているように感じられた)、獣医学を専攻し、鳥類を中心に様々な遺伝子情報を研究するケイナちゃん。コロナ下、行動の自由が制限され、かつて百々谷で住んでいた家に戻り、そこで執筆活動を進める環と、消息不明になったケイナちゃん、それぞれの形で、ドードーやソリテアたちの絶滅と再生に向き合ってきた二人の劇的な(大袈裟?)再会と、創造と、カタストロフと、再起。
小学生の二人が夢想したように、百々谷の森の中をドードーが歩き回る日が来るのかもしれない、と、遠い目で思う、これは、科学的知見にもとづく壮大なファンタジーだったことに、最後まで読んで気づく。

ハーバード大学生物多様性遺産ライブラリー所蔵の図版を中心とした、多くの絶滅動物の図が挿入され(白黒なのが残念)、ドードーとソリテア以外にも、ステラーカイギュウ、オオウミガラス、リョコウバト、クロアシイタチ、カリフォルニアコンドル、カカポ、オオサイチョウ、ペンギン、ヨウム、ヒクイドリ、ベニフウチョウ、カンムリバト、ミノバト、モーリシャスインコ、モーリシャスルリバト、モーリシャスクイナ、マスカリンオオバン、などの絶滅種、絶滅危惧種、現存種の様々な動物や鳥類の姿を、テキストを読みながら並行して眺められるのも実に幸せなことであった。

巻末謝辞によると、小説では房総半島にあることになっている百々谷のモデルは、三浦半島の小網代の谷だということ。岸由二さん、柳瀬博一さんの小網代の谷に関する本も読んでみようと思った。


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