名探偵カッレくん
40年ぶりくらいに、アストリッド・リンドグレーンの児童文学の名作、『名探偵カッレくん』シリーズを読んでみた(尾崎義訳・岩波少年文庫)。
昔好きだった本は、何回も繰り返し読んでいるので、大体の筋とか、特徴的な言い回しとか、ストーリーの中のくすぐりとか、挿絵とか、色んなことを覚えていて、読みながらどんどん思い出していく。旧友との再会のようだ。一方で、今こうして読むことで改めて見えてくるものとかもある。
物語の中でカッレ、アンデス、エーヴァ・ロッタといった主要登場人物たちの年齢は明示されていない。夏休み中の物語で、学校にも行っていないし、そもそも『名探偵カッレくん』(強盗犯人との対決)、『カッレくんの冒険』(殺人犯との対決)、『名探偵カッレとスパイ団』(国際的なスパイ犯による誘拐事件への巻き込まれ)の3つの事件が、同じ夏休みの中で起こったとは思えない一方、じゃあ連続3年の夏休みにそれぞれ事件に巻き込まれたのか? 既に『名探偵カッレくん』の時点で、3人は子どもながらに成熟した分別を持っていて、年を追ってもこれといった成長は見えないのである。
夢中で読んでいた小学生のわたしにとって、彼らは子どもながらに大変大人びていたが(そしてバラ戦争という本気の遊びのために、夜中に家を抜けだしたりしていた-これは白夜のスウェーデンでは夜遅くまで明るいからか? いや、結構暗くなって大人が寝静まってから戦いに出たりしていた気がするけど)、今改めて読んでも年齢不詳の子どもたちなのである。本気で取っ組み合いのけんかとかもしているし。
そして、どの事件でも、様々な偶然(物語上のご都合主義)にも助けられつつ、危機一髪ですばらしい活動をしていて、君たちは名探偵コナンに匹敵する強運と運動神経の持ち主だね、とか思ってしまう。
それでも久々とはいえ何回目かもわからないような再読で、記憶をなぞるとするすると物語が出てくるのに、それでも手に汗を握り、登場人物たちの正義感とか冒険心とかに心を打たれる。
一方、スパイ団に誘拐された大学教授は、「防弾軽金属完成-軍需工業の革命」という業績を海外に持ち出されそうになって事件に巻き込まれるのである。それを目覚ましい業績として、みんなが感心して見ているというのが、今思うとすごいことだな、と。スウェーデンってそういう感じの国? ちなみに作品が発表されたのが1957年からで、1960年にはもう最終巻『名探偵カッレとスパイ団』の日本語訳が出ている。発明した技術がたまたま軍事転用されたのではなく、最初から軍事目的...。今回読んで一番もやもやした部分。
カッレの本名はカッレ・ブルムクヴィスト。これは、スティーグ・ラーソンのミステリー『ミレニアム』シリーズ(早川書房)の主人公カール・ミカエル・ブルムクヴィストが揶揄的に呼ばれるあだ名でもある。つながるスウェーデン文芸。
リンドグレンの描いたスウェーデンと、『ミレニアム』の中のスウェーデンはまるで別の国のように恐ろしいけれど、でも『名探偵カッレとスパイ団』のスパイたちも、教授を海外に拉致しようとしていた...。1950年代後半も物騒な時代だった、のかもしれない。
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