毎日読書メモ(31)『去年の雪』(江國香織)
こぞの雪いまいずこ、というと中原中也。
この本の冒頭で引用されているのも中原中也と同根のヴィヨン「だけど、去年の雪はどこに行ったんだ?」
江國香織『去年の雪』(角川書店)は、めまぐるしく入れかわる登場人物たちの心象を重ねた先に、時代を超越した思念が見えてくる、不思議な物語たち。
登場人物は100人を超え、しかも現代ー1970年代ー江戸時代ー平安時代とめまぐるしく入れかわる。車に乗るときに鴟尾(とびのお)に脛をぶつけて痛い、と書かれていて、鴟尾って何、と思ったら牛車のパーツだった。え???、人々の感情は、時代を超えて普遍的であることを、情景描写だけ変わってもそれ以外の本質が変わらないことで語っているのか。
時空を超えた人の声が聞こえてきたり、そこにあると思っていたものが急に失せたり現れたり、朱色の羽が混ざった烏が別の時代のささやかな物品(アイスバーのあたり棒とか)を別の時代に運んだりする。その中にさしはさまれる、死者の感情。すべてが届かない遠くにあるのに、すーっと寄ってくる瞬間がある、その様子を切り取った、断片の数々。
昔から、江國香織の小説の登場人物たちは、感情移入できない、不思議ちゃんばかりだと思ってきたが、せいぜい2-3ページずつの断片の中で語られる感情の中でも、やはりお友達になりたい、と思える人はいないな、と思う。じゃあお前が友達になりたいと思うのはどういう人なんだよ、と突っ込まれると、つまり、みんな、一人ずつ他者に対する異人であって、わかりあえるというのは幻想でしかないということなのだろうか、と、思えてきた。
孤独を埋めるのは、肉欲、そして自分の中の幻想なんだろうか。
触れて実感できるもの、そして現実を超越した、不思議な感覚、それらの中でしっかりと立つことで、登場人物たちは存在感を持つのか。
さして長い小説ではなかったが、時空を超える体験をして、随分遠くへ行ってきたような思いになった。
1月に書いた、江國香織『彼女たちの場合は』の感想はこちら。
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