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毎日読書メモ(171)『シーソーモンスター』(伊坂幸太郎)

伊坂幸太郎を新刊で追い続けるのは結構大変なので(図書館で予約して待っているといつまでも順番が回ってこず、他の本の予約が出来なくなる)、あんまり新刊情報に敏感になりすぎないように気を付けているのだが(と言いつつ今日の新聞に『ペッパーズ・ゴースト』の書評が出てきたのが気になる、すごく気になる)、一昨年刊行された『シーソーモンスター』(中央公論新社)が図書館の棚にあるのを見て、うわ、存在すら気づいていなかったと焦りつつ借りてきた。

バブル時代を舞台にした「シーソーモンスター」と、近未来を舞台にした「スピンモンスター」の2編から成る。どちらも、伊坂幸太郎お得意のシークレットミッションを帯びた人々が暗躍する物語だが、なつかしの近過去を舞台に、企業コンプライアンス違反に巻き込まれ苦境に陥る男と、同居する妻と母の予想外に激しい確執、専業主婦になった妻が、夫に隠していた秘密ミッションを描いた「シーソーモンスター」は、ディストピア未来を描いた「スピンモンスター」を読んでいると、なんと牧歌的な、と思えてしまう(実際にはかなり暴力的な事件も起こっているのに)。

「スピンモンスター」では、自動運転車の事故で家族を失った2人の少年が長じて再会し、お互い対立する気持ちを抱かずにいられない。1人は警察組織に身を投じ、1人は手紙の配達人というアナログな仕事をしているが、配達を頼まれた手紙がきっかけで、大きな陰謀に巻き込まれた水戸が、無実の罪に問われつつある経緯が、「お前、オズワルドにされるぞ」の『ゴールデン・スランバー』(新潮文庫)を思い出させ、超管理社会の恐ろしさが身に迫る。追いかける檜山も、自分たちの対立を意識しつつ、何故自分たちはこうして再会してしまうのだろうと苦悩する。世情を攪拌し、人と人との対立をあおることで、社会は発展する、と、「シーソーモンスター」の中でも語られ、それが更に顕著な形で提示される「スピンモンスター」の世界に吐きそうなほどの恐怖を感じつつ、水戸と手紙の届け先だった中尊寺の逃避行を読んで手に汗握る。そして、2つの物語をつなぐ、宮子の明るさ、強さ、正義感が、ひそやかな救済か。

宮子と姑の対立を、海族(青い眼)と山族(とがった耳)の対立になぞらえているのを読んで、このたとえはなんだろう、と思い、「スピンモンスター」では水戸が海族、檜山が山族に分類されていて、なんだか不思議だったのだが、これは、中央公論新社130周年記念の文芸誌「小説BOC」の創刊記念の螺旋プロジェクト、という小説群の共通テーマだと、巻末の解説を読んで知った。原始から未来まで、9つの小説を8人の作家が発表した/発表するらしい。「シーソーモンスター」「スピンモンスター」それぞれ、完結した物語だが、他の小説を読むと海族と山族の対立の歴史をたどる、ひとつながりの物語になるらしい。という訳で、また読まねばならない本が増えたね、というオチでした。

原始:ウナノハテノガタ 大森兄弟

古代:月人壮士 澤田瞳子

中世・近世: もののふの国 天野純希

明治:蒼色の大地 薬丸岳

昭和初期:コイコワレ 乾ルカ

昭和後期:シーソーモンスター

平成:死にがいを求めて生きているの 朝井リョウ

近未来:スピンモンスター

未来:天使も怪物も眠る夜 吉田篤弘

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