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#27 追い込み漁の部屋

資生堂の「花椿」に投稿した。

今日の午前9時までが締切だった。まえから投稿しようとは思っていたのだが、なかなか書けずにいた。長篇の詩には取り組んではいるが、一篇で完結する短めのを書くのが、非常に苦手なのだった。

しかし、その苦手の理由もわかった。結論から言えば「締切」がないせい。結局は「完成」させにいくという切迫感のようなものが足りていなかったようだ。さすがに昨夜から今朝にかけては、かなり時間をかけて取り組んだ。

そもそも、今回書いた詩の素材はそれこそ数日前に集めたもので、一気に書いたものだ。それから、推敲に推敲を重ねて、昨日、公園に再び行くことでさらに味付けをした。それを家に持ち帰って、画面や印刷したものとにらめっこしながら直し続ける。

何度も何度も読み返して、違和感のある部分、無意味な部分、響き合いがもう少しだせる部分、盛り上がりに欠ける部分、意味不明な部分などなどにどんどんと線を引いていく。しかし、うまく直すことができない。

もう一度読み直して、自分で詩の解釈をしていく。これってこういう話なんじゃないのか……いや、それだとありきたりだし……と、自分と対話しつづけているとあっという間に時間が過ぎていく。

今回、一番迷ったのがタイトルだった。困った。タイトルどうしよう。といって、部屋のなかにある詩集を見まわして手にとってパラパラとめくっていく。ん、あれ、と目をひくものがあった。

ジョン・キーツの全詩集だった。イギリス土産に買ってきてもらったもので、キーツの詩がぜんぶ入っていて£3.99。日本円で600円するしないかというところ。安い。英語はそんなに読めないのだけれども、ペーパーバックの質感とかも好きなのでたまにペラペラと見ては、英語の発音練習のように声に出してみたりする。かなりおもしろい。

こういうときに、手元にいろいろあると助かる。そして、その詩の冒頭の一節を和訳したようなものが今回のタイトルになった。一見、関係ない話なのだが、その詩が示してくれた方向性に、今回書いている詩も直してみて、スパイスのようにきいてきた。

しかし、夜の頭ではもう限界になり、深夜1時すぎには眠くて仕方なくなった。明日は9時に締切で、8時から仕事だから、そうすると……夜のうちにやってしまいたかったが、朝起きてすぐのすっきりした頭に賭けることにした。

6時。アラームが鳴って目覚める。え、もう朝?と思いつつ、そうだ、詩!と思って飛び起きて、水をがぶのみして、歯磨きだけして、iPadに向き合う。うーん、なるほど、なるほど? ここもダメ、あそこもダメ、これもダメ……まずい、終わらない。

焦るな、焦るな、何かあるはずだ。あ、そうか、リズムがよくない。と、もう一度声に出して読みなおして、ここだ、というところを直していく。7時半。まずい、ひとまず印刷。あ、ここ、直ってない、もう一度、あああ、ここ、おかしい、あああああ、あれ、よくない? いいよね、これ。よし!

という流れで、8時の仕事が終わるまえになんとか完成をして、投稿フォームに貼り付けて、終了。というのが、今回の一篇完成までの流れだった。久しぶりに、最後の追い込みをして、睡眠時間を多少削り、脳をフルドライブさせて書いた。

こういう追い込みは、文学フリマのときの中島敦論を仕上げたとき以来だった。中島敦論をまとめるのに、それこそ徹夜したり、本当に大変だった。おかげで、自分のものがあと一冊あるだけになったのでありがたいが、そういう追い込みが、何かを完成させるのだった。

ひとまず、評価されるようなものが書けたのかはわからない。きっと、他にもたくさんの詩を書いている人たちが力作を投稿しているだろうから、数日で書き上げたもので太刀打ちできるともあまり思っていないが、久しぶりに「完成」させられたっていうことがなんだか嬉しかった。

それも、自分らしい語り口のものになった。最近は、他の人の詩を真似ようとしている感が強く、結局書けなくて挫折しっぱなしであったが、結局は自分が語れるようにしか語れないので、最後は開き直るしかない。

そういうわけで、五月末は締切が複数ある。「季刊びーぐる」や「文芸思潮」やら、いつもどおりの「現代詩手帖」や「ユリイカ」などなど。そんなに書けるとは思えないが、ひとまず今回の教訓で「締切」を意識して追い込み漁をしてみる。

あと、ここ2年間くらいで書いたものを一旦一覧にしてまとめてみようと、ワードファイルを整理して、それぞれの書式も整頓して、印刷してみた。A4の紙がもうなくなってしまったので、大量在庫のあるB5用紙に印刷してみると、ハンディでかえってよかった。

印刷してみると、かなりの量があった。90枚。だいたい25篇くらいで90枚なので、一篇長すぎだろ、とも思うが、長篇連作詩が入っているので、それらが半分くらい稼いでいる。まだ、「完成」していないものもあって、これをいい機会に読み返してみると、これ、おもしろいじゃん、というのがちゃんとある。

今年は、しっかりと「完成」させる。そこをしっかりやっていかなければ。

  *

次回の「蒼馬の部屋-dialog-」のお話相手が決定しました!
詩人の野々原蝶子さんをお迎えして、詩作活動について根掘り葉掘りうかがってみます。ご興味のある方はぜひお越しください。
13日の水曜日は#05 は monolog回(ひとり)です。

【蒼馬の部屋-dialog-】
#06 2020.05.17(SUN) 21:00〜
ゲスト:野々原蝶子さん
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詩集『永遠という名のくじら』(私家版)
「日本海新聞」にも多数投稿詩掲載。

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