見出し画像

6月を歩く

歩きながら、考え事をしている。

雨。昨日も雨なのに、今日も雨。「東京 天気」で調べると、15時から快晴になると、豪語していたのに、17時。雨。「止みなよ」と思う。まぁ、ギリ歩けそうな量だし、歩く。公園に生えている木も、水の飲み過ぎか、吐きそうな表情に見える。そういえば、いつからだろう。雨が「楽しくない」と思い始めたのは。雪はまだ楽しい。かなり楽しい。同じ濡れるタイプの天気なのに「今日、雨か」と、ネガティブなイメージに囚われている。次の予定の事を考え「濡れるのは不都合だ」と思っているのだ。危険予測。怪我や虫もそう。物事がファンタジーに見えなくなったのだ。大人になってしまった。このまま大人が進んで行くと、将来、自分の娘が「パパ、道でプリンセスが困っていたから連れてきた。今日家に泊めてあげよう」とデカいドレスを来た、見知らぬプリンセスを拾ってきた場合「怖えから捨ててこい」と言ってしまいそうだ。良くない。雨、楽しまなくちゃ。



歩きながら、考え事をしている。

美術館。絵画。後ろで手を組み、一枚一枚、丁寧に見て周る。感情的な絵に、感銘を受けているタイプの男に見られたいので、凄く凄く、時間をかけて、顎に手を当て、遠くから全体を眺めたり、たまに何かに気が付いたかのように、絵に顔を近づけ、しかめっ面で一点を凝視したり、頷くか、傾げるかをしながら、丁寧に見て周る。「これもしかして」と、先程の絵との繋がりを感じ取ったかの様、急激に戻ったりする。後ろに続く客が、腫れ物を見るかのような目線で、僕を抜いて行く。その度「おれの方が感銘を受けている」という自信が生まれる。美術館、良い場所だ。



歩きながら、考え事をしている。

犬。しば犬が、歩いている。昔、友人が「しば犬は、ミサイルに見える」と話していた。その時は「は?」とおどけてみたが、今ではすっかり「ミサイル」に見える。寸胴な体。鼻先だけ尖ったフォルム。愚直に真っ直ぐ歩く姿。ミサイルだ。こういうことが、たまにある。言い続けられると、だんだん寄って行く。友人に「女優の波瑠、お前好きだろ?」そう言われた。僕は「まぁ普通かな」と答えた。そこから波瑠のポスターや、CMを見かける度「おい、波瑠だぞ」と通達され続けた。毎回毎回「うん、まぁ」と言ってみたが、今では、街で波瑠を見かける度、足が止まる。駅の柱。デッカい波瑠。あぁ、おれ、波瑠、好きだ。そして、この文章を書いた事によって、犬と波瑠がつながる。これで、犬を見る度、ふと気付く。波瑠が好きだと。そして、ミサイルを見る度に、ふと気付く。波瑠が好きだと。いつもいつも、波留を思い出す。ヒスブルの歌詞みたいになった。これでヒスブルを聴く度、波瑠を思い出す。どんどん波瑠が好きになる。



歩きながら、考え事をしている。

炎天下。真夏日。これは、大量に汗をかくチャンス。普段、運動しない分、ココで一気にまくる。サウナスーツを装着。外にでる。5分後、死ぬ。やっちまった。想定では、行ける気がしていたのだ。散歩終わり、Tシャツを絞る想定しかしていなかった。「熱中症」は字面でしか知らなかった。これは想定できなかった。まずい、死ぬなこりゃ。ただなぁ、もう引き返せないんだよなぁ。Tシャツを絞ったときの「うお、すんげぇ量」と呟く、アレやりたいんだよなぁ。よし、なるべく日陰を進もう。普段より、水に目が行く。いつもの散歩コースなのに、知らない風景が目に入る。幼稚園、こんなところにあったか?砂場、太陽などもろともせず、奴らは真剣な顔で穴掘っている。何をそんなに掘る。バケツの水を使い、山状に盛った土をペチペチ固めている。そんな事に使うくらいなら、その水、おれにくれ。コイン洗車場、こんなところにあったか?あぁ、洗車機に入りたい。なんでも良いから、水に濡れたい。暑い。項垂れてベロが出る。これ、野良猫ってどこに隠れてんだ?ヤマダ電機とかで涼んでんのか?無理だろ、この暑さ。


歩きながら、考え事をしている。

紫陽花が、タイヤに植えてある。古い日本の街並み。川を中心に、街が栄えている。中央の川の流れに従うように、水草が揺らめいている。風、音、鳥、全部が涼しい。手漕ぎ船に乗った、和装の新郎新婦が流れてくる。石橋の上から参列者が「おめでとう」と言いながら、写真を撮っている。関係のない観光客も乗じて「綺麗」と言いながら写真を撮っている。新婦は、この日の為に仕上げて来たのだろう。皆んなに見られて満足げな顔で、お淑やかに手を振っている。新郎は、恥ずかしそうに扇子で顔を仰いでいる。「恥ずかしくて、死んでも無理」僕なら言ってしまいそうだ。その言葉は、この新婦からしたら、MAXに冷める発言だろう。僕の嫁は「結婚式なんて金が掛かるだけでしょ」と鼻で笑っていた。この人で良かった。しかし、樹木希林が昔「結婚式はあげなさい。皆んなに見てもらって、覚悟が決まるから」と言っていた覚えがある。この星において、樹木希林だけは絶対。結婚して7年経つが、結婚式はあげるべきか否か、まだ正解を迷っている。


歩きながら、考え事をしている。

歩いても、歩いても、迷いや納得いかない自分は無くならない。絵画を眺めて、分かっているフリをしてる時は無かったのに。もうこんな時間か。あぁ、帰るのめんどくさい。

明日も歩くか。

いいなと思ったら応援しよう!

遠藤ビーム
サポート機能とは、クリエイターの活動を金銭的に応援する機能のようです。¥100〜¥100,000までの金額で、記事の対価として、お金を支払うことができるようです。クリエイター側は、サポートしてくれたユーザーに対して、お礼のメッセージを送ることもできるそうです。なのでお金を下さい。

この記事が参加している募集