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【ExperienceDay 2021 開催レポート】幸せになる力を、ともに:予測不能の時代を生きる

※本セッションのアーカイブ視聴はコチラからどうぞ

私たちはどうしたら“幸せ”になれるのでしょうか。幸せとは、つかみどころがないものだからこそ、そう簡単に変えられないと思うかもしれません。しかし、近年の研究によって、幸せの根幹には訓練や努力によって身につけられる要素があることがわかってきています。

本セッションには、テクノロジーを使って人を幸せにする研究を行なうハピネスプラネット代表の矢野和男氏(以下、敬称略)が登場。幸せになるための心の持ち方や、幸福度が高く生産的な組織をつくるためのヒントについて論じました。

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変化し続ける時代において必要なのは、旧態依然としたやり方からの脱却

今日は、「幸せになる力を、ともに:予測不能の時代を生きる」をテーマにお話をさせていただきます。私は日立製作所に38年勤めたのち、昨年「ハピネスプラネット」という会社を創業しました。“人をいかに活性化し、幸せにするか”ということが、この変化の時代においてとても大事だと確信していまして、人の活力を精神論ではなくテクノロジーで高め、幸せにしていくことに取り組んできました。

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はじめに、私は変化が大事だと思っています。ドラッカーは、約50年前に書いた著書『創造する経営者』のなかで「ひとつは、未来は知り得ない、もうひとつは、未来は今日存在するものとも、今日予測するものとも違う」と言っています。良い文章ですが、現実の世の中を見てみると、これを真正面から受け止めて経営あるいはマネジメントをされている企業や政府はないと私は思っています。どちらかというと、未来はある程度は予測できて、それを前提にこれまでの予算制度やルール、PDCAなどが運営されてきたと考えています。

しかし、コロナ前から、あるいはコロナ後はますます、この変化が加速していきます。この変化に向き合うために一番してはいけないのは、“昨日までこうやってきたから、今日も明日も同じようにやろう”という態度です。変化が起きているなかでは、それに適応して合わせていくこと、あるいは柔軟性を持って新しいやり方を考えることが必要になってきます。

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何が起きるかわからない状況においては、実験と学習を業務の基本にしていく必要があります。大きな目的はきちんと決めたとしても、その手段は状況に合わせて柔軟に変えることを前提にしつつ、変化に向き合っている現場の一人ひとりが自己完結的に機動力を持って判断できるようにしなければなりません。しかしこれは決して楽ではなく、前向きで自律的な人づくりにしっかり投資をすることが必要です。

ところが我々は、会社づくりの基本として、PDCAをはじめとする標準化された業務を横展開して、その通りやればいい、やるようにしなさい、というやり方を続けてきました。間違った判断をしないように、内部統制やチェックリストをしっかりつくり、設備や工場にお金がかかる分、人はできるだけマニュアル化してオペレーションできるようにしようという発想が、長年続いてきたと思います。

幸せの根幹にあるものは自分の力でコントロールできる

いまは変化を真正面から受け止めて、やり方を変えるべき時です。効率化のための従来の仕組みはもちろんいらなくなるわけではありませんが、それを強調すればするほど、予測不能な変化に立ち向かう原則がさらに大事になります。

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前向きな人や組織に対する科学的なデータに基づく研究が、この20年くらいで非常に盛んになっています。そこでいろいろなことがわかってきて、ひとつは、我々は普通は「仕事がうまくいけば幸せになれる」「病気にならなければ幸せになれる」と考えがちですが、実は因果関係が全部逆だということです。

幸せだと仕事がうまくいき、幸せだと生産性もクリエイティビティも高い。幸せだと病気になりにくく、なっても治りやすい。幸せな人が多い会社は離職が少なく、幸せな人が多い会社とそうでない会社では、利益にも差が出る。こういったことが研究によって明らかになっています。

特に大事な発見は、我々は幸せとは外から与えられる境遇のように考えがちですが、それは実はそんなに影響が大きくなくて、もっと重要なのは、幸せの根幹には訓練や努力によって身につけられる要素があるということです。そして、こういうことにテクノロジーが重要な役割を発揮するわけです。

幸せがどこから来るのかについてさまざまな研究をされているSonja Lyubomirsky先生によると、我々のなかにある性格的あるいは遺伝的な、なかなか変えにくい部分も、幸せに影響を与えているということです。しかし逆に言えば、それ以外の部分は我々が変えられるのです。

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我々がともすれば幸せを決めると思いがちな外から与えられる境遇、例えばボーナスが上がったとか上司から評価されたとか、こういうことはその瞬間は当然うれしくなりますが、あっという間にもとのベースラインに戻ってしまい、持続しません。しかし、持続的な幸せの部分は、我々が変えられるのです。

持続的であるということは、我々が身につけられる一種のスキルのようなものです。これをデータで非常に綿密に研究したのがFred Luthans先生で、未来が見えていない時に道が見つかると信じられるかどうかが大事なのだということです。

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また、それに対して踏み出して行動を起こせるか。当然うまくいかないこともあるので、それに逃げずに立ち向かえるか。どんな状況であっても前向きにポジティブに見て楽しめるか、そして前向きなストーリーを自分で組み立てられるか。こういった力を「Hope(信じる力)」「Efficacy(踏みだす力)」「Resillience(立ち向かう力)」「Optimism(楽しむ力)」の頭文字をとって、内なるHERO、4つ合わせて「Psychological Capital(=心の資本)」と呼んでいます。

よく見てみると、我々の幸せの根幹には、“幸せ”という言葉から受けるイメージとは全然違うものがあります。人生は決して楽なことばかりではありません。困難に対して前向きに立ち向かう力や、それが習慣づけられている行動力が、幸せの根幹にあることがわかってきています。

幸せになるための心の資本「HERO」を持つことを阻む要因

では、人がこの「HERO」を持つことを阻む要因は何でしょうか。業務の「効率化」を推進するあまり、意図せず「幸福化」が犠牲になっていたのではないでしょうか。「HERO」がなければ未来を前向きにつくっていけないので、効率化と幸福化の両方を重視する会社や社会にしなければならないと私は思っています。

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皆さんの会社では、「幸福化」が行なわれているでしょうか。なかなかいまの会社はそうなっていないと思います。「効率化」はもちろん必要ですが、「幸福化」がなければ、それは未来をつくる力を犠牲にしていることになります。これはもともと、一人ひとりの心あるいは行動のなかにあります。もちろん我々は一人で生きていないので、人との関わりにもこの「HERO」の要素があります。

こういうことをデータで研究するために、我々は人の行動やコミュニケーションを計測するデバイスを開発しました。例えば、誰と誰がコミュニケーションをしているか、組織で人と人がどのようにつながっているかといったデータを収集・解析してきました。さらに、心理学の手法を用いて、幸せをはかるデータも組み合わせて分析した結果、いろいろなことがわかってきたんです。

幸せで生産的な集団に見られる4つの特徴「FINE」

不幸せで非生産的な集団では幸せな人が周りを不幸せにしていて、幸せで生産的な集団では幸せな人が周りも幸せにしています。幸せな人たちには共通の特徴があり、不幸せな人との違いは実は意外なところにあります。幸せで生産的な集団においては、業務や業種にかかわらずコミュニケーションにおける4つの共通点が見られます。

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1つめは人と人とのつながりです。例えば、不幸せな組織では、特定の人がいろいろな人とつながっているのに、他の人たちはまったくつながっていない。このように、つながりの数に格差があるのは、不幸せな組織の特徴です。幸せな組織では、いろいろな人たちが均等につながりあっているのです。

2つめは、会話の頻度です。時間軸上で見てみると、不幸せな組織の特徴は、会議の場では会話があるのに、それ以外の場ではまったく会話がありません。一方で、幸せな組織では短い会話が行なわれる頻度が高いのです。

仕事をしていると、いろいろなことを質問したくなったり確かめたくなったり、伝えたいことが出てきたりします。そういうことは計画してできるものではありませんが、自分が率直に発言できない雰囲気だと不幸せな組織になるリスクがあります。

そして、3つめは非言語のコミュニケーションです。我々は言葉でコミュニケーションしているようで、実は9割以上は非言語の要素で影響を与えあっています。声のトーンやリズム、目の動きやジェスチャーなど、こういうものは我々が本能的に持っている能力です。

我々は、共感や信頼を表現する時には必ず体の動きも同調させます。逆にいうと、拒絶感や不信感を持っている人に対しては、無意識のうちに同調することを避けています。つまり、不幸せな組織では同調してこない、幸せな組織では同調して体がよく動いているということになります。

4つめは発言権です。不幸せな組織では、特定の上司やベテランばかりが発言しています。組織のなかで、新人や門外漢の人でもいろいろな気づきを発言できれば、新しい事業につながる可能性があるのです。

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この4つ、「Flat」「Improvised」「Non-verbal」「Equal」の頭文字をとって「FINE」といいます。先ほど出てきたように、幸せになるためには「HERO」が大事です。その前向きな心を自分だけ持てればいい、自分だけ幸せになればいいというわけではなく、周りも幸せになっていけるようにコミュニケーションをとり、幸せになる力を信じて踏み出して立ち向かって楽しむべきです。こういうことができる風土やコミュニケーション、マインドを持っている組織が幸せな組織だということがデータからわかっているのです。

「FINE」を実現するポイントは、社内のあらゆる方向へのコミュニケーション

では、なぜ「FINE」を実現できないのか。いろいろな組織において、悪気があってそうなっているわけではないはずです。例えば、組織図を思い出してみてください。階層的に構成されていて、実際のコミュニケーションも組織図の通りに行なわれていることが多いでしょう。

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いまは1on1をもっとやらなければならないと言われていますが、上司と部下のコミュケーションだけをやっていると、部下のつながりを上司が独占してしまうことになりかねません。これは、不幸せな組織になることがデータで実証されたコミュニケーションです。だから、横や斜めといったコミュニケーションも推奨しなければなりません。組織では上下関係が必要な場合もあるので、これはかなり意識的にやっていくことが大切です。

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また、知能とはひとりの個人にあるのではなく集団のなかにあるということも実証されています。例えば、チームで協力しあわなければ解けない問題があった場合に、パフォーマンスが良いチームとそうでないチームを分けている要因が何なのかを調べた研究があります。

その研究では、個人のIQは集団レベルの知能には無関係で、むしろ相手の感情がわかる、あるいはそれに応じて的確な発言権を割り振れる人たちが集まっていると、インテリジェントで生産性の高い集団になるということがわかってきたんです。

スマートフォンアプリ「Happiness Planet」を使った取り組みで利益向上を実現

「HERO」と「FINE」の両方が高い挑戦的な組織をつくろうとする場合、どちらの要素も科学的な知見を使って上げることができます。

人の行動変容を促そうとする時、「人はなかなか変わらない」と感じる方は多いでしょう。しかし実は、ちょっとした習慣によって変えられることが、さまざまなデータや研究によって実証されてきています。

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我々が開発した「Happiness Planet」というアプリを使い、83社約4300人を対象に調査をしました。具体的に何をしたかというと、アプリを通して毎朝「チャレンジ宣言」をしてもらうだけ。その日どんなことに前向きに挑戦するかを選んで宣言します。おそらく1日1分もかかりません。

これを3週間続けたところ、「HERO」の前向きな心の数値がすべて上がっていたのです。「HERO」の提唱者のLuthans先生が考えた生産性の業績との換算式によると、33%の「HERO」の向上はおよそ10%の利益向上に相当するということで、とても大きい数字です。たったこれだけの取り組みで仕事も変わるんです。

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例えば、昨日100個のできごとを経験したとします。そのうち99個が良いことだったとして、1個でも悪いことがあると、ネガティブなことに注意が向きがちです。これは、自分が置かれている状況を見るフィルターやレンズが歪んでいるんです。これを矯正しなければなりませんが、それはちょっとしたことで変わります。どこを切り取って認識するかによって、いくらでも違う世界をつくれるのです。

毎朝1分だけでも前向きなことに注意を向ければ、世の中は違って見えます。この原理の根幹にあるのは「Optimism」、日本語では楽観性です。これについてもたくさんの研究があって、最近では、「Optimism」が高い人たちとそうでない人では寿命が約10歳も違うことが、『PNAS』というアメリカの科学誌で発表されています。

ものごとをポジティブに見ることができれば、変化を脅威ではなくチャンスとして捉えることができます。変化があっても新しい道を探って行動を起こせるので、生産性も業績にも好影響がもたらされるのです。

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例えば、日立グループの法人営業の600人を超える人たちに約4ヶ月アプリを使っていただいたところ、受注達成率が27%高まるという成果が出ました。こういう前向きな取り組みを、それぞれの組織のミッションとアラインしたかたちで、商社ならお客様を幸せにして自分たちも幸せになろう、あるいは小売なら工夫して挑戦していい店舗にしていこう、コールセンターなら離職率を下げよう、というように行なっていくことができますし、実際に活用が始まっています。

“幸せ”は自分たちの力で改善できる

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“幸せ”という一見あいまいなものが、近年の研究やテクノロジーによって、極めて具体的なものになってきました。そしてそれは、自分たちの力で改善できます。予測不能な時代において、常に実験と学習が必要で、それを行なうのは“人”です。幸せになるためには、人を前向きにしていくことが必要だと考えています。今日お伝えしたことは、最近出版した『予測不能な時代』という著書に書いていますので、よろしければご覧ください。

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