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ちゃんと好きだよ
2週間前に聞いた彼の言葉が、ずっと頭から離れない。
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彼と初めて出会ったのは、ちょうど半年前の、秋の匂いが微かに香るようになってきた頃だった。
通い慣れた立ち飲み屋で初めて見る人だった。よく笑ってよく喋る人で、きっといつも会話の中心にいるような盛り上げ役みたいな人。
第一印象はそんな感じだった。あと、左手の薬指に指輪をつけていて、スマホのロック画面は2歳くらいの子どもの写真だった。
私たちが仲良くなるまでにそう時間はかからなくて、いつの間にか彼は私の日常にごく自然に溶け込んでいた。
単身赴任中の彼が家族のところに帰る時以外は、2、3日に一度は仕事終わりに飲みに行って帰りはどちらかの家に一緒に帰った。週末には買い物をしたりカフェに行ったりしてデートをした。
彼といるのは楽しくて、一緒にいる時間が好きだ。でも、ふと罪悪感と不安に襲われる瞬間が時々ある。
このまま一緒にいたとしても、私が幸せになれる日はきっと来ない。最初から分かっていたことだった。
そんな私の不安は彼にも伝わっていたし、何より彼が一番分かっていると思う。
「もうやめる?」
いつか私がつい不安を口に漏らしてしまった時に彼がそう言ったけれど、私は首を横に振った。手放す勇気もなかったんだ。
そのまま時が流れて、だんだん連絡の頻度が減って、会う頻度も減ったけれど、会えばいつも通りだった。
2週間前、久しぶりに彼が私の家に来た。一緒にごはんを食べてお風呂に入って、寝る時に自然とそういう流れになった。
途中までしてから、なんだか急にとてつもない不安に襲われて、涙が出てきてしまった。
「大丈夫、ちゃんと好きだよ」
彼はただそう言った。好きじゃなかったら会いにこないでしょって。
私は返す言葉を見つけられなかった。そんな私を、彼は痛いくらい強く抱きしめた。
その言葉が嘘じゃないことは分かっている。私は彼が私のことが好きなのかが不安なんじゃない。2人のこの関係が、この先が、私の心が、不安なんだ。
悔しいけれど、この不安は私たちが一緒にい続ける限りは消えてくれなくて、私はそれを押し殺せるほど強くはない。
私だって、もっとちゃんと好きだよ。
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