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教育経営学の視点から展望する教育テックの可能性(前編) | 【月刊 学校法人】連載企画 2023年11月号

 月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。
転載元:月刊 学校法人(http://www.keiriken.net/pub.htm

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教育テックで変える未来社会(第8回)
教育経営学の視点から展望する教育テックの可能性

~学校経営の遠隔化、学校評価のビッグデータ化、事務職員のキャリア開発~


日本の教育経営研究

学会の創設と初期の志向

 1958年に日本教育経営学会 1)は創設された。 そこに集った人々の研究領域は多様で、想いもまた様々であったと思われる。ただ、戦後教育改革の理念がこもった教育委員会法が改正され、 文部省、都道府県教育委員会、市町村教育委員会という教育行政の重層構造化に対して、学校 の自主性・自律性を護ろうとする意図が貫かれ ていたことは、当時の種々の論考を読んでみる と明らかである2)。

教育経営学研究の変遷

 それから 60年が経過して、学会員の知恵を結集させた『講座現代の教育経営』(学文社; 2018 年)全5巻が刊行された。その第3巻に『教育経営学の研究動向』があるが、その中には教育テクノロジーや教育 DXどころか、かつて (1960年代後半から1970年代)注目を集めた教育工学的アプローチさえも見当たらない。それ は、おそらく教育テクノロジーをマネジメントの視点で捉えうるほど学校へのインフラ整備が進んでいないからであろう。

教育テクノロジーの急速な進展

 コロナ禍によって前倒しされたGIGAスクー ル構想の展開によって急速に進んだタブレット端末の普及や、学校における働き方改革の支援として導入が拡がった校務支援システムによって、ようやく研究の口火が切られようとしているのが現状と言えよう。

日本教育行政学会の取り組み

 それに比して、教育条件の整備に視点を置く日本教育行政学会は年報第49号(2023年)に おいて、早くも情報通信技術の急速な発展に目 を向け、教育DXや児童生徒一人一台端末が及ぼす影響を問題とした特集を組んでいる。インフラ整備がようやく自治体レベルまで進行した証である。

そこで、本稿では教育経営学の視点から可能態としての教育テック利活用のマネジメントを検討していきたい。

1)筆者が現在会長を務めている日本教育経営学会は 1958 年に発足した。当初は「教育経営学会」と称していた。十 数名で始まったとされる本学会も、2023 年 10 月現在、会員数は 592 名に上っている。
2)例えば、吉本二郎『現代学校経営論』理想社、1959 年。そこには、学校の自律性を守り、教育行政からの不当な支 配を排除しようとする強い意志が読み取れる。

教育テック 1.0 がもたらしうるもの

教育現場でのデジタル活用の可能性

 学校経営の領域で考えてみるならば、当然に事務作業の効率化による余剰時間の捻出がある。 例えば、通学路の安全点検についても、実際に徒歩でせずともストリートビューを使ってみるのも一案である。保護者面談についても、オンライ ンシステムを用いれば多忙な保護者との時間調整もしやすいし、保護者にとっても学校との往復 時間が節約でき、仕事の合間に行うことが可能となろう。授業参観とてオンライン参観が実現され れば参加者増を見込めよう。

教育技術の活用事例と障害

 筆者の教職大学院で の指導例においても、Teams を活用した議事や 資料の事前配付によって印刷コストや会議内で 資料を配付する時間を削減することができた。
 しかし、こうした効果予測にもかかわらず実践が拡がっていかないのは、家庭の情報環境の問題もさることながら、教職員自身の内発的な動機が弱いことを痛感してきた。情報機器を活用することへの抵抗感をいかに軽減し、内発的に組織改善に取り組もうとするインセンティブを喚起していくかが今後の課題として浮かび上 がってくる。

地域学校経営の展望


地域コミュニティと学校の結びつき

 少子高齢化のあおりを受けて、学校の統廃合に歯止めがかからない。しかし、特に小学校は地域の人々にとって心の拠り所であり、コミュニティの核である。文部科学省内の会議でコ ミュニティ・スクールの議論をしている際に、 東日本大震災の折に避難所となった廃校に灯った明かりに涙する人たちが少なくなかったとの報告を受け、やはり学校の統廃合は避けるべき だと思った。

教育の地域間連携と新たな取り組み

 公立高等学校の廃校の速度はもっと速いが、町から若者がいなくなって活気がなくなったという声も強く、経済的ダメージも大きく傷跡を残している。 そんな話をある町の教育長と話して盛り上がったのは、一つの学校の枠を超えた授業づくりについてであった。その町には、中学校が2校、小学校が4校あった。小学校の場合は、いずれも単級学年で1クラス20名に満たず、4校の同学年児童を集めても40名を超えない規模であった。そこで、教える内容ごとに最適人数を割り出し、各学年、各教科の学習内容に応じて最適人数を構成し、学校間の垣根を取り払って 授業を進めようと考えたのだった3)。

教育テックの可能性と将来の展望

 こうする ことによって、各校に配置された各学年の学級 担任は4名であるが、一人が大人数の授業を行 えば3名の余剰教員が生まれる。この3名を他 学年の少人数授業に割り振れば、中規模や小規模のクラスを担当できる。ざっとこんな見通しで、単元ごとの最適人数を割り出す研究に乗り出し、その結果に基づき町全体の時間割を組み、 時間割に応じて町内バスで児童と教員を移動させ、授業へと繋ぐ構想を実現させていった。その結果、学力レベルは県平均を大きく上回る結果を引き出すことになった。中学校も同様であっ た。 極めてアナログ的な授業づくりの例であるが、 教育テック1.0を活かしていくならば、町内バスを使わずにオンライン授業で習熟度別クラス が実現し、教育テック2.0を用いれば教育内容に 応じた最適人数も割り出せ、教育効果ももっと 多様に測定できるであろう。さらに教育テック3.0が、教育を介した町おこしにも貢献できるのではないかと、三重県で始まっている仮想自治体の試み 4)をみて期待している。

図 1 五ヶ瀬町の G 授業システムの一例(五ヶ瀬町教育委員会提供)

3)宮崎県五ヶ瀬町の試みであり、当時の教育ビジョンとして打ち出された。その授業形態は「G 授業」と名付けら れていた。
4)三重広域 DX プラットフォームは、三重県中・南部の多気町・大台町・明和町・度会町・紀北町を連携させ、5 町 でひとつの仮想自治体「美村(びそん)」と位置づけ、共通のデジタルシステムを活用した魅力的な地域づくりを 推進している(https://www.dnp.co.jp/news/detail/20168817_1587.html)。

次の記事以降はこの【英国教育水準局 Ofsted に学ぶ】について記述していく。

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(著者紹介)
木岡 一明(きおか かずあき)
OCC 教育テック総合研究所 上席研究員。 専門は公教育経営学。学校評価、教育マネジメ ント研修、分散型リーダーシップなどを主に研究。 日本教育経営学会会長。日本教育制度学会理事、 日本教育行政学会前理事。学校法人東邦学園の外 部理事も経験したことがある。 摂南大学での勤務を経て国立教育研究所教育経 営研究部教職研究室長、改組に伴い国立教育政策 研究所高等教育研究部総括研究官になる。名城大 学大学院に大学・学校づくり研究科が新設された ことにより主任教授として着任。その後、研究科 長を務めた。名城大学定年退職後、現職。

転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm


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