なぜ日本人の環境意識は低いのか? (前編)| 【月刊 学校法人】連載企画 2023年9月号
月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。
転載元:月刊 学校法人(http://www.keiriken.net/pub.htm)
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教育テックで変える未来社会(第6回)
なぜ日本人の環境意識は低いのか?
~社会課題の解決に活かす「教育テック3.0」~
はじめに
前回(第 5 回)の連載では、「教育テック2.0」 として、エピソードや記録、経験や感覚重視の教育学をテクノロジーの活用でサイエンスにする課題解決型の学問体系の必要性について述べ た (8月号p.21、「図1 教育テックの定義」を参照)。
「教育テック3.0」
「教育テック3.0」は、教育界のみならずカーボンニュートラルや貧困問題、健康寿命の延伸などの社会課題の解決のための研究と実践に応用することと定義している。ただし、「教育テック3.0」には確立された研究や実践の方法が存在 しているわけではない。今後、研究・実践の双方で新たに開拓していくべき分野であろう。
本稿では、持続可能な開発のための教育(ESD: Education for Sustainable Development)と SDGsの関係性、日本でのESDの展開、ESDによる教育効果の現状について検討した上で、日 本でESDが進まない理由と対策について述べる。
日本人の環境問題への意識は低い
日本人の環境問題への意識は、他国に比べて高いと思っている方が多いであろう。しかし、 実は非常に低いことが明らかになっている。環境問題を含む社会課題の解決への意識について5か国を比較調査した「ソーシャルグッド意識調査」(2020年12月、電通・電通総研)によれば、 日本・イギリス・アメリカ・中国・インドのソー シャルグッド意識(社会に良いインパクトを与 える企業の活動や製品を支援する姿勢)は、日本が最も低い結果となった(図1)。
その中でも、「⑤環境負荷が低い商品や、フェアトレードの商品は多少高くても選ぶ」は、他の4か国よりもかなり低く、「そう思う」と「ややそう思う」 の合計が39%という結果であり、中国・インド とは2倍以上の開きが出た。
一般的な日本人の感覚として、先進国である イギリス・アメリカよりも低くなる結果はやむを得ないとしても、新興国である中国・インド よりも低位になったことは驚きであろう。ESDによる教育が行き届き、その効果が上がっているのであれば、このような結果にはならなかったはずである。もちろん、学校教育だけがソーシャルグッド意識を高めるのではないことは承知している。例えば、中国は監視社会であり、 インターネット上の行動はもちろんのこと、街中に監視カメラが設置され自動的に信号無視などの些細な法令違反等も取り締まることができるほどの状況であるので、教育による意識改革の成功というよりは、監視により強制的に意識付けが行われていると推察される。当然中国のような過度な監視社会は、我が国では到底受け入れられるものではない。やはり、自らの自由意思によりソーシャルグッド意識が高まることが望ましい。
世界でのESDの展開
ESDは Education for Sustainable Development の略で、「持続可能な開発のための教育」と訳されており、社会課題の解決に貢献する教育を実 するために重要な概念である。
ESD は、持続可能な開発に関する世界首脳会議(ヨハネスブルグ・サミット、2002 年) において、日本が提唱し、世界各地で始まった経緯がある。ESDとは、気候変動、生物多様性の喪失、資源の枯渇、貧困の拡大等人類の開発活動に起因する様々な現代社会の問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、 身近なところから取り組む (think globally, actlocally) ことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指して行う学習・ 教育活動である。ESDは持続可能な社会の創り手を育む教育といえる 2)。
SDGs (Sustainable Development Goals)は、 ESDよりも後に登場した「持続可能な開発目標」 で、2030年までに達成すべき17の目標からなり 、国際連合(UN)が2015年に採択した(表 1)。
SDGs 4番目の目標「質の高い教育をみんなに」
特に、教育に関しては、SDGsの4番目の目標「質の高い教育をみんなに」で「すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」と定義されている。 SDGsは、ESDの国際的な実施枠組みである「ESD for 2030(持続可能な開発のための教育: SDGs実現に向けて)」として、2019年11月の第40回ユネスコ総会で採択され、同年12月の第74回国連総会で承認されており、SDGsで定められた17の目標は、ESDの持続可能な開発のための教育の中でも位置付けられている。
ESD for 2030
具体的には、ESD for 2030の下で取り組まれるべき行動を示すロードマップがユネスコにより公表されている。それによれば、5つの優先行動分野 (1政策の推進、2学習環境の変革、3 教育者の能力構築、4ユースのエンパワーメ ントと動員、5地域レベルでの活動の促進) 及び6つの重点実施領域 (1国レベルでの ESD for 2030 の実施(Country Initiative の設定)、2 パートナーシップとコラボレーション、3行動 を促すための普及活動、4新たな課題や傾向の 追跡(エビデンスベースでの進捗レビュー)、5 資源の活用、6進捗モニタリング)が提示されるとともに、それ以前からの主な変更点として、 SDGsの17の目標全ての実現に向けた教育の役割を強調、持続可能な開発に向けた大きな変革への重点化、ユネスコ加盟国によるリーダーシップへの重点化が謳われている4)。
このように、ESDは、SDGsの17の目標を含む持続可能な開発のための教育である。ESDが対象にする社会課題は、SDGsよりも広く、 SDGsに明記されていない社会課題についても対象となっている。
また、SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」は教育分野を対象にしている。SDGsのその他の目標では、教育についての言及はあるものの、目標3「すべての人に健康と福祉を」 や目標13「気候変動に具体的な対策を」のター ゲットの一つとして述べられているに留まる。 ESDでは、17の目標全ての実現に向けた教育の必要性について言及している。 ただし、こうした学校教育におけるESDの実践が行われていても、SDGsの17の目標と現状を照らし合わせて見れば、各目標での厳しい現状や、達成どころか遅々として進まないことが国連自身によって報告されているのが現実である. 5)。
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【参考文献】
1)電通総研ホームページ https://institute.dentsu.com/articles/1635/
2)出典:文部科学省ホームページより引用・一部編 集。
https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm 3)https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/sdgs_logo/
4)出典:文部科学省ホームページより引用・一部編
集。https://www.mext.go.jp/unesco/004/1339970.htm
5) 国連広報センターホームページ「SDGs 報告2022」参照。 https://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/ sdgs_report/
転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm
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