教育経営学の視点から展望する教育テックの可能性(後半) | 【月刊 学校法人】連載企画 2023年11月号
月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。
転載元:月刊 学校法人(http://www.keiriken.net/pub.htm)
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教育テックで変える未来社会(第8回)
教育経営学の視点から展望する教育テックの可能性
~学校経営の遠隔化、学校評価のビッグデータ化、事務職員のキャリア開発~
▼前編はこちらからご覧ください
英国教育水準局Ofstedに学ぶ
学校評価の国際的な議論と日本での動向
日本で学校の外部評価導入が議論されていた頃 5)、筆者は文部科学省の学校評価のあり方を検討する調査研究協力者会議のメンバーだった。 会議では、英国版の査察的な外部評価に賛同する委員もいたが、筆者は支援機能の強いニュー ジーランド型の仕組みを支持していた 6)。議論の流れは、民主党政権の誕生によって「第三者評価」に決着する方向で進んだ。
日本における外部評価の課題と反対意見
全国の学校を5年周期で悉皆的に訪問調査し、 その評価結果をもとに学校をランキングするという手法に、コスト面からだけでなく、個々の学校の自律性を脅かすものとして筆者は強く反対していた。それから数年、Ofstedの動向に関心を持っていなかったが、日本教育政策学会の依頼を受けて、Ofstedをレビューすることになった 7)。
Ofstedの評価システムの進化
それによって驚かされたのは、Ofstedが試行錯誤を重ねながら、査察結果を困難校の発見に重点化してきていることであった。そこには、OECD教育インディケータ事業の成果を活用しながら、それまでに蓄積された「優れた学校」の取組に基づいて査察指標を明示し厳格に対処するという姿勢と、自己評価フォームによって全国共通の様式を確立しえたことが大きな要因としてあった。
教育データベースの構築と利用
さらにその背景には、データベース化が進展したことが挙げられる。各校から提出される自己評価報告(PANDAレポート;Performance and Data)を Web入力に切り替え(ePANDA)、 しかもそのデータをオンライン上で閲覧、分析できるようにし、自治体でもデータ活用が進むとともに、教育省がデータベース EduBaseを構築し、学校情報を一元管理できるようになったという、まさに教育DXの成果があった。そして、改善が停滞している学校をすばやく発見し、 介入できるようになったのである。
日本における教育テックの利用展望
こうした試みを日本に転移させるには、教育 テック2.0を用いて日本の学校に応じた評価指標を開発し、学校情報を一元管理できる仕組みを少なくとも都道府県単位で構築していくこと が必要だと思うのである。
職業クライシス時代の事務職員
AIと学校事務職員の未来
AIの発達が、定型的業務を主たるものとする職業の存続を脅かしている。学校に眼を向ける と、事務職員の姿が真っ先に浮かんでくる。もちろん、事務職員の側もそれに気づいて、地域コーディネーターや企画業務を担う学校経営スタッフへの転換も視野に入れて、キャリア展望を描くようになっている。この先どうなっていくのかの予測は立て難いが、確かに定型業務を主たる業務にしていると、やがて職業淘汰の対象になっていくのは明白である。
文部科学省の新たな通知とその内容
そんな折、文部科学省は 2020年に「事務職員の標準的な職務の明確化に係る学校管理規則参考例等の送付について(通知)」(2初初企第15号)を発出した。 そこには、副校長・教頭の多忙化を念頭に、「校務運営への参画を一層拡大し、より主体的・積極的に参画」するという事務職員への期待が随所に込められていて、校務の中で主として事務職員が担う標準的な職務の範囲を示す別表第一だけでなく、事務職員が他の教職員との適切な業務の連携・分担の下、その専門性を生かして、 積極的に参画する職務を別表第二に掲げている。
ICTの活用と教育事務職員の役割
また、環境整備に関して、「事務職員に過度に業 務が集中することにならないよう、庶務事務システムの導入や共同学校事務室や共同実施の仕組みの活用等も含めて業務の効率化を進めると ともに、共同学校事務室等におけるOJTの実施による事務職員の育成及び資質の向上等、学校事務の更なる効果的な実施や事務体制の強化に努めること。」との注意を促し、さらに「新たな 職務を踏まえ、資質、能力と意欲のある事務職 員の採用、研修等を通じた育成に一層努めるこ と。特に、GIGAスクール構想の実現に相俟って、学校におけるICTを活用した教育活動をより充 実していくために、事務職員に期待される役割 は大きいところであり、ICTに関する研修の充 実・育成に一層努めること。」を示して、ICT活 用に関する研修、能力向上を示唆している。
教育CIOの導入とその課題
実際に示された別表第二には、「教育活動に関すること」として「カリキュラム・マネジメン トの推進に必要な人的・物的資源等の調整・調達等(ICTを活用した教育活動に資するものを含む)、教育活動におけるICTの活用支援」などが示され、さらに「情報管理に関すること」 として「情報公開、情報の活用、広報の実施、 個人情報保護に関する事務等」が示されている。 こうした例示は、おおむね教育テック1.0に留まるものではあるが、事務職員の今後を展望するならば、教育テック2.0を見越した展望を定める必要があろう。
本連載第 2 回(2023 年 5 月号)において、教育CIO (Chief Information Officer)が不可欠で あるが、教育長や校長には時間的にも専門的にも教育CIOを務めるには無理があるとの指摘があった。同感である。そこで養成をということ になるのであるが、これまでの筆者の学校コンサルティング経験に照らすならば、これまでそ の学校に無関係であった者がいきなり教職員に受容されるとは思えない。教職員は、子どもを保護しようとして外部者に対して警戒的であり、 教育CIOという耳慣れない職種は個人情報保護の視点からもいっそう警戒されるであろうことは想像に難くない。 筆者が、地域コーディネーターとしてその学校に投入しようとした地域住民が受け入れられ るようになったのは、その住民が学習アシスタ ントとして担任をサポートしたり、放課後支援室でチューターを務め、担任と固有名詞で児童を語れるようになってからのことであった。そ れだけ、担任児童への保護姿勢が強いとも言い うる。
こうした状況下で、全国の学校に教育CIOの配置を促すには、学校に慣れ親しんだ人物であ ることが求められるし、職務内容からすれば、 教育活動を相対化できる位置に立脚しているこ とが必要である。その意味で、事務職員のキャリア展望に教育CIOを位置づけるのは有効であろうと思われる。
さらなる展望
以上、教育経営学の視点から展望できる教育テックの可能態を探ってきた。まだまだ、他に も考え得るであろう。ただし、紙媒体とデジタ ル媒体とでそれを読む認知構造が異なるという指摘 8)もあるように、目的に応じて、デジタル とアナログの適度なハイブリッド環境を整備し ていくことが必要なのだと思われる。
6 月に日本教育経営学会の第 63 回大会が 3 年 ぶりに対面形式で開催された。一部に Web 配信 を採り入れたり、配付資料をクラウドにアップ したりといった開催であったが、全国的に参加 者を募り、なおかつ資料閲覧の便宜を図るとい う点で確かにコロナ前とは異なり、直接的な対 話も可能という点では、2 年間の W e b 開催とも 異なる手応えや便利さを実感した。筆者として は、O C C 教育テック総合研究所での学び直しを 通じてさらなる可能態を展望しつつ、目的に応じた適度さを探っていきたい。
転載元:月刊 学校法人 http://www.keiriken.net/pub.htm
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