私立学校における働き方改革の現在地と今後の重点課題(前編) | 【月刊 学校法人】連載企画 2023年12月号
月刊「学校法人」に連載している「教育テックで変える未来社会」から、過去掲載された記事をnoteでご紹介させていただきます。
転載元:月刊 学校法人(http://www.keiriken.net/pub.htm)
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教育テックで変える未来社会(第9回)
私立学校における働き方改革の現在地と今後の重点課題
「始まりは、いつも労基署」
学校における働き方改革の進捗
読者のみなさんの学校・園(以下、学校)での働き方改革は、進んでいるだろうか。関連して、教員や職員の募集に苦労していないだろうか。わたしは、公立学校に加えて、私立学校や国立附属学校にもお伺いして、経営陣・管理職(理事、校長、事務長等)や教職員向けに講演・研修、コンサルテーションなどを行っているが、肌感覚としては、法人間、学校間での差が相当大きくなっているように思う。言い換えれば、働き方改革を通じて学校が活性化しているところと、停滞しているところが出てきている。
私立学校の労務管理と働き方改革の課題
残念ながら、私立学校の労務管理の実態や働き方改革の進捗状況についての調査は少なく、公表されているものもほとんどない。以下お話しすることが、読者の学校にもあてはまるかどうかは、ご確認いただきたい。本稿では、私立学校等のこれまでの働き方改革の問題点、課題を分析した上で、これからの姿(いわば「働き方改革 2.0」)を提案する。
働き方改革の転換点と対応
数年前までは、私立学校の多くも、公立に倣って、教員に固定残業代(教職調整額)の支払いのみとしているところが多かったし、タイムカードなどの時間管理すらしていないところも少なくなかった。土日の部活動(クラブ活動)などは、やりたい先生はやり放題という中学校、高校も多かった。だが、ここ数年ずいぶん変わりつつある。大きな転換点として、2点あると思う。
労働基準監督署の介入
ひとつは、労働基準監督署が調査に入っていることだ。客観的な勤務時間の記録がないこと、残業代の未払いがあることなどを是正指導され、慌てて、労基法対応や働き方改革に着手した学校法人もかなりある。
人材不足との戦い
もうひとつは、人材不足である。若者の人口が減少し、同時に民間企業の採用も旺盛なところも多いので、多くの私立学校も人材獲得競争真っ只中。企業では、週休3日や従前よりも高い初任給を打ち出すところも出てきているのに、私立中高等では、土曜授業や部活動、進路対策(補習や模試等)もあって、週休2日すらままならないところもあるし、経営上、そう高い給与を出すのも難しい。いくら教職に魅力があっても、労働条件で見劣りすると捉える大学生らもいる。また、かつては公立学校教員の採用倍率が高いこともあって、私立にも人材が流入していたが、昨今の事情は変わってきている。 1)
就活中の学生からの質問
読者のみなさんの学校、あるいは法人では、就活中の学生から、残業時間の実態や残業代支給の状況、有休消化率を質問されて、即答できるだろうか?
「やっていますよ」ポーズだけではダメ
労基法対策の実態と問題点
こうしたなか、多くの私立学校では、突貫工事で労基署対策を進めてきた。労基法を遵守することは当然なので、この動き自体は歓迎したい。だが、経営陣・管理職に問いたいのは、「労基署の指摘、指導をクリアーさえすれば、それでいいのか?」という点だ(図1)。実態調査もないので、断言できるものではないが、かなりの私立学校で起きているのは、労務管理と働き方改革の形骸化、労基署向けに「取り組んでいますよ」と取り繕うことではないだろうか。
残業の「見えない化」
この問題は2つに分解できる。ひとつは、残業の「見えない化」である。というのも、現実の時間外勤務のすべてに残業代を支給できるほど、法人の財務力はないところが多い。かといって、給与水準を引き下げるのは、現役の教員や事務職員等が納得しない。となると、起こるのは、一定の上限時間までしか残業代は出さない(出せない)ように運用することや、相対的に給与水準の低い非正規雇用(非常勤講師等)を増やすことである。
経営陣・管理職が把握する見かけの時間外勤務は減っていても、現実には、特に正規職員の業務量は多いままなので、虚偽申告(打刻しない等)や持ち帰り仕事が増加している。これが残業の「見えない化」である。年間の変形労働時間制を導入する学校も多い。確かに児童生徒の夏休み中などは労働時間は短く済むが、4〜6月などの忙しい時期には、変形労働を導入してもなお、時間外が多くなる日もある。また、育児や介護を抱える教職員も多くなる中で、変形労働時間制では働きにくい人もいるのではないだろうか。
教職員の「あきらめ感」
もうひとつの問題は、取組の形骸化と教職員の「あきらめ感」の広がりである。働き方改革、業務改善の抜本策には着手しないまま、やっている振り、もしくは会議の短縮などの小幅な改善にとどまっていることを指す。典型例としては、ノー残業デーを設けても、ほかの曜日にしわ寄せがいくだけ 2) であったり、ともかく校長、教頭は「早く帰りましょう」と呼びかけるばかりで、双方に(呼びかける方も、呼びかけられる方にも)ストレスが溜まっていたりする。
抜本策というのは、教員や職員の業務を大幅に減らすよう見直すことで、たとえば、部活動の精選と休養日の増加、一部の業務のアウトソーシング(たとえば、補習や模試監督)、学校行事の見直し、非効率な事務作業の削減などだ。また、生徒にはさまざまな習熟度や特性、個性があるのに、一律の問題集などの宿題を出して、そのチェックやコメント書きなどにかなりの時間を割くのも、わたしは疑問だ。ICTを活用して個別最適な学びに近づけていくことは、児童生徒の学習支援上もプラスになり、かつ教員の負担軽減になる可能性がある 3) 。
だが、部活動や進路指導、補習、学校行事などで、手厚く指導・支援していることを生徒獲得のPR材料にしている私立学校は多い。そのため、前述のような抜本策にはなかなか着手できないでいる。しかし、そうこうするうちに教職員が疲れ果てては、教育の質は高まらず、それは中長期的には生徒募集にもマイナスとなるはずだ。その上「うちの学校は変わらない、変われない」といったあきらめ感が漂うことになる。これでは、労力のかかる抜本策を進めることはますます難しくなり、悪循環である。
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