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読書記録
最近の読書記録。
したたかな寄生
成田聡子 著
Amazonでいきもの本を中古で買っていると、次から次へおもしろそうな本がおすすめされ、気づいたらあれもこれも読みたくなって購入している。これもその中のひとつだ。全然知らないで購入。寄生生物ってこわ気になるよね。
いろんな寄生生物の生態が読みやすく紹介されていて、知らないことだらけでとても面白かった。宿主を操る系の寄生は脳を操作しているっぽいんだけども、どうやって操作しているのか不思議。
そして特に、昆虫の寄生は容赦ないって感じで恐怖だった。昆虫こわい。
腸内細菌の興味深い話も出てきた。腸の細菌が私たちを操作しているかもという。ドーキンスの利己的な遺伝子しかり、何かの影響によって自分の気分や考え事を乗っ取られていたり操作されていたりするということが多分にあるのかもしれないと思うと、私が純粋に思う、ということってこの世にあるのだろうかという気持ちになってくる。このあたりはもっと知っていきたい次第。
生物多様性を問いなおす
——世界・自然・未来との共生とSDGs
高橋進 著
今年は魚のこと、生きものや細胞の話はもちろん、生物多様性、SDGs、環境問題のことをもっと知っていきたいと思っている。そんな中で読んだご本。
とてもわかりやすくて面白く、夢中になって読んだ!
そもそも生物多様性とは何か、また生物多様性がなぜ必要なのかという点に説得力があったし、長い歴史の上での先進国と発展途上国との対立関係、それぞれの国の文化や方針の違い、貧困問題など、とても複雑に絡み合って、生物多様性、環境保全における問題が一筋縄にはいかないことがようくわかった。
特にエコツーリズム、保全地域に住む地域住民の方々の協力なくしてはやっていけないぞということがあったんだけど、それは以前読んだ石城謙吉さんの「森はよみがえる」でも強く書かれていたなというのを思い出す。
また宗教観の話にも言及していて、割とアジア一帯で根付いているアニミズム、自然信仰の大事さにも触れていた。こういう感性を育くむことも重要になってくるという。このあたりは熊楠も神社合祀反対運動の中で強く言及していたなと思い出した。
とにかくとても説得力があって、鮮やかにまとめられていて素晴らしいご本だった。著者の高橋さんのご意見に大きく頷くことばかりだった。
WHAT IS LIFE?(ホワット・イズ・ライフ?)生命とは何か
ポール・ナース 著 竹内 薫 訳
本屋さんの生きもの関連書コーナーにいつもいる黄色い本。
生命とは何か。シュレディンガーと同じ、とても勇気のあるタイトルをつけているので、どんなまとめになっているのか気になっていた。
細胞内のことや遺伝子、DNAの仕組みの解明などこれまでの生物学の歴史に沿って自身の経験と共に語っていくという感じ。細胞の話はこれまで他の読書でも読んできたところだったので、ふむふむと改めて読み進めていく感じだった。
著者ははじめて一般向けの本を書かれたようで、それはコロナ禍以降、倫理的な観点から専門家の意見を無視したり、そのために感染症対策が遅れたり、そんな現代社会に危機を感じたからだと訳者は言っていた。
多面的に物事を捉え、憶測や先入観で判断せず、冷静に考えることは大事だと思う。物事を深く考える。そういったことを大切にするためには、著者の言うように科学を知ることはとてもいいことだと私も思う。
以下は私がとても熱くなった本文中の引用。
われわれ生物学者は、もっと広く、心理学、哲学、人文科学からの知見を受け入れるべきだろう。コンピューター化学も役に立つ。現在の最も強力なAIコンピュータープログラムは、生命のニュートラルネットワーク(神経回路)が情報を扱う方法を非常に単純化した形で模倣するように作られている。
人工のコンピューターシステムは驚くほどに高速にデータを処理しているが、抽象的、あるいは想像的な思考、自己認識、または意識に微かに似た兆候さえ示していない。こうした精神的なものが何を意味するのかを定義することすら、非常に難しい。こうった部分は、作家や詩人やアーティストが、助けてくれるだろう。
彼らは当事者として、創造的な考え方の根底にあるものを探り、感情の状態を明瞭に言い表し、「存在」が本当は何を意味するのかを掘り下げてくれるだろう。こうした現象を議論するにあたって、文系と理系とのあいだに共通の言語、あるいは少なくともより知的なつながりがあった方が有利だ。
科学的かつ情報的なシステムとして進化したわれわれは、なぜ、どのようにして、自らの存在に気づくようになったのか。想像力と創造力がどのように発生したかを理解するために、われわれは想像力と創造力を総動員する必要がある。
進化とは何か ―ドーキンス博士の特別講義―
リチャード・ドーキンス 著 吉成 真由美 訳
子どもたちに向けたレクチャーをご本としてまとめられたもの。
ドーキンスは以前、利己的な遺伝子を読んでびっくりしたので、また別の本も読んでみたいと思っていた。
やっぱりとっても面白く、ドーキンスの生命の話を読んでいると、本当に私が存在していることや生まれてきたことのすごさを実感させてくれる。
私はこの世に生まれてきたことにについて深い喜びやら感謝みたいなものをほぼ感じたことがない人間だけど、ドーキンスの話を聞くと自分の存在を前向きに受け止められて、そして何て世界って面白いんだろう!と思う。
利己的な遺伝子では、ドーキンスの主張を聞いた学生がショックを受けて落ち込んだとか、なんのために生まれたのか悲観的に思わされたというエピソードがあったけど、私にはむしろ逆に感じさせてくれている。
世界や生きものの不思議さ、面白さがきゅっとつまった、楽しい1冊だった。
掃除婦のための手引き書 ――ルシア・ベルリン作品集
ルシア・ベルリン 著 岸本 佐知子 訳
生きもの本の隙間に小説も読もうと話題になっていたこちらを読んだ。短編集。
読み始めはうーん、なんともないお話だな、という印象だったんだけど、読み進めていくとだんだんとその良さがわかってくる。
生活の手触り、話すまでもない印象、形のない苦しみや悲しみ。
生きているということだ、と思わせてくれる文章だった。
人が体験したこと、思ったこと、記憶、それらはすべていつか棺桶だ。
生きていることは詩なんだと、感じさせてくれた。
岸本さんの翻訳の文章もとても素晴らしいと思った。
生物多様性 「私」から考える進化・遺伝・生態系
本川達雄 著
高橋さんの生物多様性を問いなおす、を読んで大枠がわかったけども、いろんな主張を聞いてみたいと思ってAmazonのおすすめで出てきたので購入。
腑に落ちない点、著者の主張や感性に?となる部分もやや散見されたものの、高橋さんの歴史に沿ったお話とはまた違い、生物学者らしい観点がちりばめられていて、生物の生態やそれに関わる仕組みなどはとても興味深く読んだ。特に珊瑚礁について、珊瑚は生態系にとってすごく大事らしい、ということはなんとなくしか知らず、どうすごいのかが詳しく書かれており、驚いた次第。珊瑚って本当に大事だ‥と深く感じた。
結びの章は倫理的な観点から生物多様性の重要性を説いていて、少しむちゃな感じ、苦しいように感じた。生物多様性のご専門ではないなか、なんとか結ぼうと苦戦されている感じだった。
進化の法則は北極のサメが知っていた
渡辺佑基 著
ザ・現場という感じで、著者のいろんな国での研究・調査の様子、体験がありつつ、知らなかった知識がたくさん散りばめられており、冒険的なわくわく楽しい読書で一気にするすると読んでしまった。
南極に調査小屋で2人きり1ヶ月調査を行ったり、バイカル湖近くの村でガソリンスタンドまで2時間かかるという僻地に赴いたり、ホホジロザメを誘き寄せて背鰭に記録計を取り付けたり。野生動物の調査の様子は本当に大変そうだ。
だけどそんななかで調査がうまく進んだり、研究に進展が見られたときの言葉にならない感無量な様子がこちらにもとても伝わってきた。
こちらもどきどき同じような気持ちになる、生き生きした文章だった。
月の客
山下澄人 著
山下さんの文章は映像っぽい。切り貼りしたスクラップのような。
記憶や意識の流れ、私という個の存在や境界に思いを馳せる読書体験だった。
そこにはいつも月がいて、知久さんの月がみてたよ、を思い出した。
エマル