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【一日一文】吉田兼好「花はさかりに、月はくまなくをのみ、見るものかは」
9月16日。
鎌倉末期の歌人・吉田兼好の「徒然草」より、一文をご紹介します。
「徒然草」は、日本を代表する随筆の一つ。
「つれづれなるままに」から始まる冒頭文に、なじみのある方も多いのではないでしょうか。
花はさかりに、月はくまなきをのみ、見るものかは。雨に向かいて月を恋い、垂れこめて春の行方を知らぬも、猶(なお)あはれに、なさけ深し。
咲きぬべきほどの木末(こずえ)、散りたりしほれたる庭などこそ、見どころ多けれ。
桜の花は満開のときだけ、月は満月のときだけ見るものでしょうか。
「そうではない」とはっきり主張しています。
雨の日に、見えない月を恋しく思うこと。
暖簾を下げて家にひきこもり、春の行方をただ思い浮かべること。どちらも趣が深いとつづっています。
これから咲こうとする花の梢も、散ってしまった庭も見どころ。
月のありようも同じです。
新月も満月も、雨の日も雲ひとつない日もひとしく見どころなのです。
ありありと、四季の情景が目に浮かびます。
命あるものも、月のありようもそのまま受け入れ、すべてを肯定する温かさにみちたまなざしに癒やされました。
美意識の何たるかを言葉にしたこの随筆が、現代まで詠みつがれていることに感謝したいと思います。
昨晩は、雨中に新月でしたね。
ついつい、月の存在を忘れがち。
太古から私たちの周囲をまわる月に思いをはせ、今晩は空を見上げたいと思います。
「一日一文」不定期に更新を始めます。
哲学者・木田元(きだ げん)氏編纂の本「一日一文」から、心にとまった先人の言葉をご紹介したいと思います。
ひとつは自身の学びのため。
ひとつはすこしでも豊かな気持を分かち合うため。おつきあいいただけると幸いに思います。