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食べるのがど下手【摂食障害①】

私は摂食障害だ。

非嘔吐(嘔吐恐怖症)の拒食症+ASDのこだわりの強さが重なって、特定の許可食(自分が自分に許している食材)しか食べられない。

16歳から一人暮らしを始めて以降、紆余曲折を経て、47歳目前の今でも食べるのがド下手くそだ。

キッカケはどこだろう。
生まれた時から、だと思われる。

ネグレクトで育った富澤は、白米とふりかけ、漬物、たまに出る魚の干物だけを食べて育った。

誇張なしに、これしか食べたことがなかった。

両親は子育てに興味なく、母方の祖母が食事を与えてくれていたのだが、このルーティンのみだったのだ。特に不満もなく、米だけは祖母の実家からただでたらふく貰えるので、常にごはんだけはあった。


お腹空いたら、いつでも塩おにぎりにしてくれたり、ふりかけご飯にして食べたりで、お米で育った。


幼稚園に上がる少し前、父方の親戚へ遊びに行くことになり、父に連れられて初めてよそのお宅のごはんを食べた。


お肉、お味噌汁、卵焼き、その他いろいろ。
愛知で喫茶店をやっていた叔母の家では、とにかく色々と食べさせて貰えた。


ここで私は人生を左右する大失敗をした。


初めて食べるものが美味しすぎて、「遠慮なく食べてええんよ」の笑顔をそのまま信じ、お腹いっぱい食べてしまった。おかわりもした。

その場では褒めて貰えて、幸せで、こんな美味しいものがあるのかと感動し、3日間の滞在が天国のようだった。

このとき富澤、4歳。

楽しい時間はあっという間に終わり、明日帰るという日の夜。客間で寝ていた私は催して起きた。

トイレに行き、途中の居間で父と叔母が話している声がして、聞き耳を立てた。


「史帆はいやしい」

「食べ方が汚い、意地汚い」

「遠慮も知らん、みっともない」

「大食いの女の子はいかんで。豚か牛のように食べて、どういう躾しよる」

「もう連れてこんで(連れてこないで)」

嫌悪感に歪んだ叔母の顔と、無表情の父の顔。

いやしい。

意地汚い。

大食い。


言葉の意味はこのときよくわからなかったが、いい事ではないのはわかった。

外の世界を知らなかった私は、自分の振る舞いがおかしいと知らなかった。



父は翌日何も私には言わなかったが、与えられる食べ物の量は減った。

祖母が隠れておにぎりをくれるようになった。
いつもお腹が空いていた。

そして両親が離婚し、父方の実家に行ってからは、ごはんが貰えなくなった。

黄色くなったごはん、魚のアラの煮たやつがごはんだった。祖母は田舎の男尊女卑を絵に描いたような人だったので、父にしか用意しない。

私は余った食材があれば食べられるけど、悪くなってるものも多く、よくお腹を壊した。

学校の給食だけが命綱の生活が続き、中学になった頃にはこっそり年齢を誤魔化して、賄いのみとの交換条件で皿洗いのバイトをしていた。

高校に上がり、敷地内の物置で一人暮らしをした。
バイトをして食いつないだ。世間体だけは気にする父は学費は払ってくれるが、生活費はこない。

でも祖母の干渉がないだけ、楽だった。
このあたりの食生活は、ほぼ賄い。物置には台所がない。人生でいちばんきっとマトモな食事だったと思う。仕事できないときは、スーパーの半額を狙ってた。

そして高校を出てすぐ、実家の田舎を出て、隣県の都市部に出た。
しかし仕事はまったく続かず、ディスコミュニュケーションで同僚や上司と会わせられず、仕事を転々とする。食べるのに困り、時に悪いこともした。

このときに出会ったのが、今も寄り添ってくれる友人Hだ。人の紹介で会い、家に呼んで貰えて、本を読ませて貰う仲だった。

そこから手作りのご飯を用意してくれるようになり、毎日のようにたらふく食べさせて貰えた。

私の家庭料理はHのごはんだ。
人に作って貰える、暖かくて傷んでいないごはん。
給食とは違う、おかずとごはん。

甘い卵焼き。ショウガ焼き。
柔らかめのハンバーグ。
名前のつかない、なにかの美味しいおかず。
日によって味付けがちょっと変わるお味噌汁。

自分以外の人と食卓に座り、食べるのも初めてだった。子供の頃は、ずっと1人で食べていた。
家族と一緒に食べた記憶がない。
おかげで私は今でも、話をしながら食べられない。
人とのごはんは緊張してしまう。

Hごはんは富澤の人生の中で、大切な宝物だ。

20歳になって、いよいよ追いつめられ(仕事で)東京へ1人で上京した。
偏った食生活で(安いファストフード生活)太った。そして、バイト仲間や知り合いに「デブはキモい」「ありえない」「近くにいないで欲しい」と言われるようになった。


痩せなきゃ。
そうだ、私は意地汚い、大食いのいやしい人間だった。こんな姿を晒すなんて、恥ずかしいのだ。
ごめんなさい。


そうして拒食症へまっしぐらに走って行った。



つづく


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