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2024年東海地方巡礼の旅~前編~注連縄がない神社を参拝しよう。


はじめに

伊勢神宮に参拝するために、北海道の札幌市から伊勢志摩東海地方へ旅行に行った。ライフワークである一宮のご朱印集めも同時に遂行する。神道最高の聖地である神宮への参拝をとおして本物の神道の信者になれるだろう。神道の場合は"信者"ではなく"氏子"になるのが本来だろうが。

日程:

2024/10/09(水) - 10/16(水)(八日間)

目的:

  • 伊勢神宮に参拝する。

  • 周辺の一宮を参拝する。

  • 三重四天王寺でご朱印をもらう。

おもな訪問地:

  • 伊勢一宮 椿大神社(参拝できず)

  • 熱田神宮

  • 三重四天王寺

  • 伊勢神宮(外宮と内宮そのほか)

  • 志摩一宮 伊雑宮

  • 志摩一宮 伊射波神社

  • 伊賀一宮 敢國神社

  • 伊勢一宮 都波岐奈加等神社

  • 尾張一宮 真清田神社

  • 尾張一宮 大神神社

  • 美濃一宮 南宮大社

  • 三河一宮 砥鹿神社

  • 遠江一宮 ことのまま八幡宮

  • 駿河一宮 富士山本宮浅間大社

  • 遠江一宮 小國神社

  • 一畑山薬師寺 岡崎本堂

10/09(水) 札幌→名古屋→四日市

今回も新千歳空港から安いPeachの便に乗った。運賃は7040円。わたしの道外旅行はいつも、数か月先の格安のPeach便を予約するところからはじまっている。
こんなに安い飛行機がなければ一生涯にわたって北海道から出られなかった。Peach様に足を向けて寝られない。

中部国際空港セントレアの天候は晴天だった。気温も高いし、内地はいまだ夏みたいだった。札幌はもう肌寒くなってきていたのだが。

荷物の受取りロビーには旅客を歓待する招き猫がたくさんいた。こういうところに内地と北海道の差を感じる。北海道だと初音ミクやゴールデンカムイになるので、歴史の古さのちがいを感じた。内地にある日本らしい伝統の息吹に触れるたびに札幌との生活感のちがいを思い知っている。本物の古式ゆかしい日本の伝統は、札幌にあまりない。

それはそうと、自分の荷物が出てくるコンベアを間違えて、べつのコンベアの周りでなかなか自分のリュックサックが出てこないことに業を煮やしてしまった。空港の職員に談判しようかとまで考えたが、幸いにも自力で誤解に気付いて、正しいコンベアですぐにリュックを発見した。あぶない、あぶない…

熱田神宮

飛行機が少々遅れたので、予定していた伊勢国一宮椿大神社へ行けなくなった。
予定を変えて、今日は名古屋市内の熱田神宮を参拝することにした。熱田神宮の祭神は天照大神、素戔嗚尊、日本武尊、宮簀媛命、建稲種命であり、依り代は草薙御剣である。織田信長が桶狭間の戦いのまえに参拝したのも熱田神宮である。折角予定が空いたならばここにいかざるをえまい。

『神宮前』駅の前。
熱田神宮の境内マップ

さすがは名高い熱田神宮である。境内社と各種の施設がたくさんある。

東門の鳥居

鳥居は白木づくりで、榊が柱に据え付けてある。あとで伊勢神宮で聞いたが、注連縄が大陸から伝わってくる前の風習がこの榊らしい。草薙剣を擁する熱田ともなれば、かくも古式がゆかしいのだ。札幌に籠っていては、こんな鳥居があることを一生涯知らなかったであろう。

境内には人が多い。さすがは名高い熱田である。

宝物館を観覧したが、見るだけで全身の皮膚が切り裂かれそうな刀剣がたくさん収蔵されていた。自分は宗教文化が専門なので、自分で所有するならば刀よりも剣がいい。そんなことを考えた。

『くさなぎ広場』

参拝者が水辺で休憩して腹ごしらえができる広場である。本宮を参拝するまえにここで食事をすることにした。

が、食事のまえに『剣の宝庫 草薙館』を観覧した。ここも刀剣がたくさん収蔵されていた。

撮影が許されていた体験コーナーにはでかい太刀があった。来館者が持ち上げることができる。挑戦してみたが、たしかに重かった。自分の腕だけで保持するのも苦しいだろう。振り回すのは人間にできる所業でなかった

こちらは普通のサイズの脇差である。

それから本旅行で最初の食事をした。『おすましきしめん』には何が入っているのですかと聞いたら、予想通りに湯葉だった。この前、日光で食べたあれか。値段も手ごろなので、これにした。

おすましきしめん。湯葉入り。

西日本のうどんはうまい。自分にはこういうものが一番の御馳走だ。

手水場
本宮の拝殿

かくして熱田神宮の拝殿に参拝をした。この段上で拝殿を撮影しようとしたら、警備の人に「石段の上では撮らないでください」と注意された。石段の下ならばいいらしい。

境内某所に遮光器土偶の像が立っていた。『眼鏡の碑』……

これがいったい何なのかはわからなかった。

新宮坂神社

熱田神宮を南門から出て、神宮駅にもどる途中で小さな祠をみつけた。住宅の隣にあったが、ご祭神も社の名前もわからない。とりあえず柏手を打っておいた。

あとで(この記事を執筆しているときに)Googleマップで調べると『新宮坂神社』という名前であることがわかった。

鳥居の鳥木の下にセミの抜け殻がへばりついていた。

秋葉山圓通寺

さらに神宮駅にもどる途中で、いい感じのお寺をみつけた。あいにくともう閉まっていたが、札幌の中心部にある成田山札幌別院新栄寺みたいなのでワクワクした。

真っ赤な毘沙門天様。

名古屋駅

ピーナッツをまぶした餅を名古屋駅で一つ買った。一度に十個は食べられそうなほど美味かった。

四日市市ゆきの電車に乗るまえに名古屋駅西口のソフマップに立ち寄った。札幌からソフマップがなくなって久しい。十八禁PCゲームの専門店など、いまやレトロな店である。ありがたい。

わが青春の匂いがする。

四日市

18時40分に近鉄四日市駅に到着した。十分弱をかけて『APOA HOTEL 四日市』まで歩いた。ホテルのチェックインの時間は18時30分である。遅れたことをフロントで謝した。

シンプルなビジネスホテルである。

『てらや』

ググってみると、四日市の名物に"とんてき"というものがあるらしい。土地の名物料理には期待しないことにしているが、ほかに食べたい店もなかったので"とんてき"の店に行ってみることにした。

『トンテキ定食(バラ)』2000円

ほかのメニューにくらべて少々高めな、とんてき入りの定食を頼んだ。とんてきとは、ニンニクが効いたソースを豚肉のステーキに絡めたものである。濃厚な肉とニンニクの味わいが口内に充満して、こんなものがあれば白米とキャベツがいくらでも食べられた。札幌にもとんてきが食べられる店はないか。

豚肉とニンニク!

ごちそうさまでした。値段以上の満足があったので、土地の名物も悪くないものだと見直した。

10/10(木) 四日市→津→伊勢市

四日市駅で電車に乗って津で降車した。伊勢神宮にむかう前に、津駅の近くにある四天王寺に参るのだ。

なぜ伊勢神宮を目前にしてここに寄り道をするのかというと、津の四天王寺が聖徳太子の没後1400年を記念したご朱印を出しているという広告を『ホトカミ』でなんども目にしたので、ぜひとも自分もご朱印をもらいたくなったのだ。札幌では華があるご朱印をくれるお寺になかなか巡り会えない。

四天王寺

津駅から十分ほど歩いた。
白砂と緑松と蒼天のコントラストが美しい。

紅しょうがみたいに真っ赤な稲荷神社があった。明治の廃仏毀釈によって神社に付属していた神宮寺は廃止(暴徒によって破壊)されたが、お寺のなかの神祀はそのままだったそうだ。神仏習合はまだ完全に滅んでいない。

鐘を衝いていいという許可が出ていた。折角なので、そっと衝かせてもらった。

ペット供養の碑。ペットフードと飲用水、おもちゃがお供えしてあって微笑ましい。

卒塔婆に「交通遺児を励ます会 供養祭」「三重県猟友会追善供養」と記されている。

「入れ歯供養祭」

いろいろな供養があった。本場のインドに無生物の入れ歯の死後を気遣う習俗があろうはずがない。これらは万物に遍在する道を信じる中国思想によって濾過された日本仏教ならではの菩薩行である。インド人の死生観は日本人よりもずっと淡白な印象がある。
日本において完成された日本仏教は世界のほかの地域にない、日本にオリジナルの宗教である。かけがえのない信仰として後世に受け継いでいかなければならない。

本堂

本堂の内部の撮影も許可されていた。このお寺は太っ腹である。来てよかった。

三面大黒天。

大黒天、毘沙門天、弁財天が融合していらっしゃる。

聖徳太子様
季節のご朱印が勢ぞろい

いただいたご朱印を撮影するためのディスプレイもあったので、もらいたてのご朱印を撮影してみた。いがぐりと黄色い銀杏が秋らしい。至れり尽くせりの観光寺である。
うーむ、なぜ聖徳太子様のご朱印をもらわなかったのか、いまになって疑問がわく。しかし、この『お姫様の祈り』ご朱印で完全に満足している。

このご朱印のお姫様のモデルは平安時代の物部美沙尾という人物だそうだ。病を癒す霊験あらたかな薬師如来様のご利益を頼まんがために、この四天王寺の薬師如来像の建立を発願なさったらしい。完成を見ずして亡くなったそうだが。

物部美沙尾さんの願いによってつくられた
薬師如来様
(重要文化財)

かつて廃仏のために戦った物部氏の女性の願いによって仏像が建立された物語は、古代の怨念がおおいなる和解を遂げた証として語り継ぎたい。

境内に立っていたパネル

境内のパネルにこの四天王寺の由緒が記されていた。全文をここに書き写したい。

昔々のこと、一人の皇子がこの場所を訪れて、神々と約束した祈りの地と定めました。
この場所こそが、神と約束した祈りの地。
聖徳太子が建立した寺院の噂は広まり、多くの人々が祈りの場所としました。

大乱が国を覆った時代には人心も荒み、祈りの声が途絶えた時期もありました。

長い時が流れて荒れ果てた無人の寺院跡に、一人の旅の僧侶が立ち寄りました。
太子の建立と伝わる寺院のなんと荒れ果てた事よ。
私がここを再び祈りの地としよう。

この地が祈りの場所だったことが思い出されると、数え切れないほどの人々が心の拠り所として、時代と共に様々な祈りを神仏に届けてきました。

外国との戦争で寺院は焼け野原となりました。
しかし、ここが祈りの地であることを忘れる者は、もう誰もいなかったのです。

日本文化はなんど滅びても再建されてきたからこそ今があるという所感を得た。これから訪れる伊勢神宮の遷宮はその象徴である。というわけで、津駅にもどって伊勢市にむかった。

伊勢市(参道)

ホームに降立った途端にこれである。巡礼者に親切な町だ。

味がある、駅舎の名札

JR伊勢市駅から出たら、伊勢神宮外宮への参道がすぐそこからまっすぐに伸びていた。

外宮への参道

いい感じの参道のおかげで、非日常へ入るムードが高まった。宗教はときに行楽である。どかんと食欲をそそる松坂牛が巡礼気分を吹っ飛ばしてくれるが、それもまたいいい。

喫茶『ビアンカ』

"バターブレンドコーヒー"なる、バターが入ったコーヒーを出す店があった。世界で唯一だと自称している。気になったので飲んでみることにした。

バターブレンドコーヒー(豆三倍)

バターのコクがある珈琲らしい。確かに濃厚でコクがあるが、バターの香りは感じなかった。豆を三倍つかうという、濃すぎる珈琲をえらんだからか。自宅に帰ったら自分でも珈琲にバターを溶かしこんで試してみたい。

赤福とほうじ茶

別の茶店に入って、伊勢名物の赤福を味わってみた。見たところ、白いお餅にこしあんを載せたもののようだが……
実際、これは餅と餡子だった。うん、こんなものだ。わかってた。餅がとても柔らかいのは素晴らしかった。

赤福をあえて食べたのは、電撃文庫の『半分の月がのぼる空』に登場したからだ。宿願が一つ果たせた。
『半分の月がのぼる空』はリメイクが出ているようなので、また読んでみたい気がする。小説自体が好きというか、電撃文庫の全盛期の時代を個人的に思い出す作品だ。小説の雰囲気と時代の雰囲気を同時に思い出す。
作者の橋本紡氏の作品では『リバーズ・エンド』も思い出深い。ただただ切なかった記憶しかないが。

外宮

内宮におわす天照大神のもとへと運ぶご飯を毎日作っている豊受大御神様をお祀りしている外宮に到着した。榊を貼り付けた、飾り気のない鳥居が圧倒的な社格を思い知らせてくれる。

手水場
「これより内での撮影は御遠慮ください」

本殿の様式は古代の豪族の館が原型となったらしい、伊勢特有の太古のものである。一般的な神社とは趣向が大きく異なっている。彩色も金箔もなく、素のままの木と草と石が組立てられている。見上げれば屋根の萱が落ちてきそうだった。

隣には遷宮のための空き地があった。

境内にある、式年遷宮を紹介する博物館『せんぐう館』にも入った。いまこの時もつづいている多くの人の絶え間なき準備と祭礼によって式年遷宮が成り立っていることがわかった。

目玉になっているのは伊勢神宮内宮の本殿の一部を再現した原寸模型である。学芸員の人が模型を前にして建物の解説をしてくれた。
「あなたはこれがどうしてだと思いますか」と指名して聞かれた一幕があったが、「わかりません」と答えると「そう、それが正解です!」と言われたので驚いた。伊勢神宮の人でさえわからないこともあるのだ。

倭姫宮

外宮をあとにして移動を始めた。伊勢市駅の方向にもどって月夜見宮に参拝しようかと迷ったが、時間の都合によって省略して、東へ1km先の倭姫宮へ向かうことにした。月夜見宮は明日の朝に参拝しようと考えていたが、けっきょくかなわなかった。伊勢市を再訪することがあれば参りたい。

コンビニで飲み物と氷菓を補給しながら歩いた。いまだにけっこう暑かった。

右は内宮への道。
倭姫宮への道はまっすぐである。

倭姫宮のまわりには神宮美術館、神宮農業館、徴古館("伊勢神宮の祭りや歴史に関する資料と美術工芸品を約13000点を収蔵")といった施設があったが、みな休館していた。残念であるが、その分、ゆったりと参拝ができた。

徴古館

倭姫は垂仁天皇の皇女であり、伊勢神宮を開いた女性である。のちに日本武尊にも会っている。月夜見様を差し置いても、まずは倭姫様に挨拶をしたかった。

外宮のほうとちがって人が少なかった。この倭姫宮の近くには皇學館大學もある。静かな信仰と学びの場といってよかろう。

倭姫宮

倭姫様の存在を想った。天照大神の居所を築いて常しえの祀りを創始した、その人物の影をこの時に重ねた。

月讀宮

倭姫宮を出て南下したすぐそこに巨大で白い鳥居があった。どちらの神社に所属する鳥居なのかはわからなかった。

謎の巨大鳥居

月夜見ならぬ月読様のお社にやってきた。祭神はもちろん同じらしい。

四つの宮が並んでいて、順序が指定されていた。順序どおりにお参りさせていただく。

一 二
四 三

スーツを着た参拝客が多かった。団体だろうか。

猿田彦神社

ここは伊勢神宮を構成するお社のなかでも、普通の神社に近い雰囲気のところだった。三貴子を祀った社ではないからだろうか。

天宇受売命を祀った、境内社の佐瑠女神社。

手水舎にはシールがたくさん貼られていた。芸能の神である佐瑠女神社があるせいか。高いところまでよく貼ったものだ。

水の出が悪くてじれったい作り。

神社によくあるあの電子案内板があった。表示灯株式会社というところが作っている『神社・寺院ナビタ』というものらしい。2024年3月末で全国146の寺社にあるらしいが、体感ではもっとたくさんある気がする。柳川市の三柱神社にもあったのを覚えている。

昭和十一年までご神体があった場所らしい。

拝殿のつくりが一般的な神社のそれなので安心した。神宮のほかの社ですでにみた、白木が黄金色に輝くあれは渋すぎて疲れる。慣れ親しんだこちらのほうが普段使いの神社にいい。

猿田彦神社のすぐちかくに萌える海女さんのスタンドがあった。細長い生き物を手に持って、顔のそばで液体をはねかけさせている。

おかげ横丁

伊勢神宮の本尊である内宮はあと少しである。まだ時間にゆとりがあるので、参拝客をもてなす門前の商店街『おかげ横丁』をしばし散策した。神宮の神様(遠方からくる参拝客の財布)のおかげで栄える横丁だ。

真珠塩キャラメルナッツクレープ
キャラメルソースがかかった、カリカリのナッツがうまい。

内宮

午後三時半が近づいたころにようやく、内宮への参道に入った。清浄なる緑と砂と水と空のなかで日本神道最高の聖地へと歩む。人は多すぎもせず少なすぎもせず、ほどよい賑わいがあった。

五十鈴川に架かる橋。

この参道にはまんなかに二本の線が引かれているが、この線の外側には江戸時代まで住宅があったそうだ。明治期に神宮の威信を保つためにどかされたとか。

参道はけっこう長い。

とうとう着いた。ここが伊勢神宮の本尊たる皇大神宮の足下である。石段からは撮影が禁じられている。拝殿の様式はこれまでみてきたように、古代の豪族の館を転用したものである。賽銭箱はなかったが、賽銭を投げ込むスペースが設けられていた。参拝者が勝手に賽銭を置いていくのでそうしているらしい。
天照大神がそこに臨在していることを想って柏手を打った。

天照大神の荒魂を祀る社。
池には泳ぐ錦が。
フローズン甘酒。参拝のあとは御神酒がうまい!

神宮会館

今夜の宿である神宮会館に入った。神宮に属する一般財団法人の伊勢神宮崇敬会が運営しているホテルである。ここに泊まるのが今回の旅で一番の楽しみでもあった。伊勢海老付きの一番豪華なプランで予約したのだから。

十五世紀に途絶えた遷宮を再開するために尽力した尼僧の方々がいたことを知った。慶光院は伊勢にあった臨済宗の尼寺であり、住職が五代にわたって変わるなかで、順次に宇治橋、外宮、内宮の遷宮のために勧進をおこなってくれた。
明治二年になって残念ながら廃仏毀釈のせいで廃寺となったが、神宮によって買い取られて今でも職員の宿舎として使用されているらしい。恩義を忘れてはならない。

泊まった部屋。

居室はイメージ通りの和室である。いつも泊まっているカプセルホテルとビジネスホテルとは広さが違う。一人で泊まるにはもったいないほどだ。

入浴してから、食堂のラウンジにむかった。浴場はシンプルだが清潔で快適な普通の大浴場だった。

今回の旅で一番贅沢な夕餉が始まる……

三重の果実酒は美味しくいただきました。ああ、自分の人生にとってはめくるめく最高のディナーである。

前菜の皿。
右上が鮫を干した「鮫たれ」。
伊勢海老海鮮鍋。
伊勢海老は食べづらかった。
造り。
わーい、伊勢海老が刺身で食べられる!
茶碗蒸しと蓋物。
牛陶坂焼き。
鮑天婦羅。
白御飯。
土瓶蒸し。
メロンと無花果甲州煮。

本館一階のロビーの売店で買ったビールで一日を締めた。居室で携帯で動画を見たりしつつ、明日は早朝参拝があるので早めに就寝した。

10/11(金) 伊勢市→鳥羽市→伊賀市

早朝参拝

五時四十五分に起床した。今日は六時半から神宮会館の早朝参拝がある。
本館一階のロビーに降りると、すでに人が集まっていた。フロントで受付をして、時間になったら案内の人といっしょに出発した。

内宮にむかっていっしょに歩みながら、案内の人が神宮のことについて話をしてくれた。宇治橋を渡った直後の参道脇に住宅があったこともこのときに聞かせてもらった。

五十鈴川

昔はこの五十鈴川で禊をしていたらしい。ガンジス川とちがって綺麗な川だからありがたい。

内宮の遷宮用の御敷地

内宮に参拝してから、隣の御敷地で「ここから本殿を撮影していいですよ」と言われた。ゆるいものである。

帰りに、内宮へ参拝する"お馬さん"をみた。那須の御料牧場からきた馬であり、老後を神宮の牧場で過ごすらしい。写真は、神職に手綱をとられて内宮の石段の下で天照大神に挨拶をしてから戻ってきたところである。貴重な儀礼をみせてもらった。

神宮の朝食

神宮会館に帰ってきたら朝食が待っていた。じつは一刻もはやく次の目的地へ出発したい状況だったが、もちろんありがたく神宮会館の朝食をいただいた。じっくりと。

堅実な和食である。
最高の朝食だ。
ここにも甲殻類が!
湯豆腐。
大豆たんぱくと三つ葉が最高の御馳走だ。

神宮会館を出たら、フロントの人が追ってきた。なんと、宿泊料を支払っていなかったらしい。普通のホテルのときは先払いが多かったので気がつきませんでした! ごめんなさい!

伊勢国一宮 伊雑宮

神宮会館の近くでバスに乗って、志摩市の川辺駅で降りた。伊勢国一宮の伊雑宮に参拝する。ここも伊勢神宮を構成するお社の一つである。伊勢市内よりもずっと長閑な田舎だった。

伊勢神宮のご朱印はいずれもシンプルである。東照宮のご朱印を思い出す。これが本来のご朱印なのだろう。

伊雑宮周辺

自販機で飲み物を補給しながら伊雑宮周辺を散策した。史跡がこのあたりにはたくさんある。真夏よりはずっとましだが、それでも少々暑くて、秋らしくなかった。

『志摩の三大石神 上之郷石神』
立札には『旧産土神』とも。

石神様なる神様をみつけた。どれが石神様かはわからなかったが、すべて石神様なのだろうか。この出会いに感謝して柏手を打った。

『倭姫命旧跡』
『天井石 鏡楠』

『里人はいう 倭姫命の遺跡』……なんだか物々しい。近くのパネルに由緒が書かれていた。

大正末期に樟脳をとるために楠が切り倒されたのだが、根元から平たい石(天井石)と鏡、勾玉などが出土したそうだ。付近の住民は倭姫にまつわる遺蹟ではないかと噂をした。ちょうど倭姫宮が建設されていたときだったが、出土品は官憲に取り上げられて遺蹟としての研究も禁じられたようだ。

しかし現在に至るまで住民の手によってこうして遺構が整備されている。ちょうどわたしが訪れたときも、住民と思しい人たちが草刈りをしていらっしゃった。

倭姫命の遺跡のすぐ近くにあった。

倭姫命様の命によって伊雑宮を造営した伊佐波登美命様と、伊弉諾様、伊弉冉様を祀る社。

昔に伊雑宮へ参るまえに禊をしたという泉。

JR上之郷駅で電車に乗って、鳥羽駅へむかった。

JR鳥羽駅

水族館とミキモト真珠島があり、海洋観光が盛んな町である。自分はもっぱら伊射波神社を参拝するために通過しただけだが、開放的でさわやかな雰囲気があった。

あられをつまみながらバスで移動した。

志摩一宮 伊射波神社

終点の安楽島で降りると、目当ての伊射波神社への案内板があった。宮司の電話番号も表示されていたので、その場で電話をしてご朱印がもらえるかどうかを確認してみたら、現地に書置きが置いてあるらしかった。

真新しいのぼりに安心させられた。

徒歩で神社へと向かった。社が山中にあるので軽いハイキングになる。リュックサックから登山用の杖を取出した。

あと730m。
590m。
440m。海が見える。
やっと鳥居が!
ちょっとした探検気分だ。 
二本目の鳥居。
ここでも榊が据え付けられている。

バス停から片道約三十分かかって、拝殿に着いた。他では例をみたことがない、変わった拝殿である。鳥居の榊はこまめに交換されているのだろうか。

山道を踏破してやってくる参拝者はかなりいるようだ。絵馬は拝殿のなかに置いてある。

拝殿の内部。

時計が壁にかけられていて、正確な時刻を刻んでいた。御守り、御朱印などの授与品があって、代金(初穂料)は箱に入れておく。無人だがこまめに補充されていそうだ。
参拝者の寄書きノートもあったが、記入するのを忘れた。

本殿と思しき祠がみえる。ありがたく柏手を打たせていただく。ここまで来た甲斐があった。

反対側。置物が色々ある。
パワーストン「神通力石」
日付を自分で書き込まねば…

神社の先にあるという『奇跡の窓』を拝むために進んだ。ものの五分で「海上守護神 領有神」という石神様のもとに到着した。

これが『奇跡の窓』である。木々の枝葉の間隙がたまたま形作った窓から海原がみえた。

満留山神社

道中でみかけたべつの神社にも行ってみた。入り口がわからなくて随分と回り道をしてしまった。

伊射波神社の拝殿とおなじ作りだった。
ご祭神は五男三女神、素盞嗚尊、大山祇神である。五男三女神とは素戔嗚尊の御子であり、八王子神ともいうそうだ。

冷し伊勢うどん 750円
鳥羽商店街『麺処 吉平』にて

JR鳥羽駅にもどって、伊勢うどんを食べた。底に溜まっている濃厚な醤油で食べる。なんだか食べにくいものだと思った。

伊賀市

伊賀鉄道の電車はこれである。松本零士氏がデザインしたという忍者列車コテコテの忍者の国へといざなってくれる。

忍者市駅(?)

伊賀市の上野市駅を出ると、忍者と銀河鉄道999のトリオに待ち伏せされていた。じっくりと忍者の国を堪能したいところだが、伊賀市では敢國神社に参拝するだけなのだ。つれない客ですみません。

巨大な苦無。

伊賀上野シティホテルにチェックインしてから夕食を食べるために町に出た。このホテルには「忍者ルーム」というコラボ部屋があったようだが、自分はここが安かったので普通の部屋を予約しただけである。

ホテルの近くのセブンイレブン。

セブンイレブンがなぜか赤かった(または茶色だった)。景観への配慮なのだろう。特別な町並みでなかったので、必要な配慮なのかはわからなかったが。

喫茶『フランセ』

シーフードスパゲティを食べた。ナポリタンみたいだが、シーフードは確かに入っている。イメージと違ったが問題はなかった。

10/12(土) 伊賀市→四日市→一宮市

朝六時五十七分にチェックアウトして、伊賀上野城を見に行った。敢國神社へと出発するまえに伊賀の町を見てこよう。

伊賀上野城

伊賀上野城

上野市駅をはさんでホテルと反対側にある伊賀上野城は白い城壁が壮麗だった。昭和十年に再建されたそうなので、真新しいのは当然である。
入館はせず、外観をながめて城の周囲を散策した。この早朝ではそもそもどこも開いていない。見物できるだけでありがたい。

ニンジャの里を見にきた外国人に
KAWAII文化をも教えてあげるポップ。

なんてラブリーなくノ一だ。どこにいっても目が大きな美少女だらけの世の中になってしまって、古いオタクのおじさんはうれしいぞ。
あとでわかったが、伊賀嵐マイというキャラクターらしい。2018年に誕生したようだ。ご当地萌えキャラのデータベースが必要である。

伊賀出身の著名人である松尾芭蕉を記念する式典がなにか行われるらしくて、人が準備を進めていた。式典を見届ける余裕はまったくなかったが。

忍者博物館。朝七時半では開いていない。

あ、赤い…

敷地内にごくちいさな神社が複数あった。

上野天満宮

まだ時間に余裕があるので上野市駅から近い上野天満宮を訪れた。福岡に行ったときに天満宮に行かなかったが、これで取り戻した。

菅聖廟。道教感がある。山門の立派さのおかげでこの天満宮の繁栄がわかる。

拝殿

まだ朝の七時四十分だったが参拝客はいた。社務所が開いていないのでご朱印はもらえない。

つやつやとした神牛様。

松尾芭蕉様を祀る境内社があった。発句の嗜みはないが手を打たせてもらいました。

驚くほど鮮やか。

今塗ったばかりのような稲荷神社を二度も拝ませてもらって、伊賀にきた甲斐がありました。

寺町

当初は敢國神社の近くまで電車で行くつもりだったが、天満宮からそのまま歩いていくことにした。伊賀の町をじっくりとながめながら移動するのはいい計画だが……

お寺が並ぶ通りというのがあったので、神社へのルートから横道に入って歩いてみた。

白壁と瓦、そして朱が眩しい。

本門仏立宗というのは日蓮系の宗派らしい。本殿の前に自分でご朱印を押すためのスタンプの一式が置かれていた。

自分で押す御朱印というのも、いいものだった。

すべてのお寺を見て回ったが、お寺の一つでトラブルがあった。本堂の鍵が開いていたので、勝手に入ってお参りをしていたところ、お寺の女性(住職の奥さんか)が出てきて「お参りですか?」と言って、照明のスイッチを入れてくれた。

そのあとに、たぶん住職だろうおじいさんが普通の服でやってきたのだが、わたしが勝手に本堂に入ったことに激怒していた。鍵が開いていたからってなんで入った。どこから来たんだ、と素性を詰問された。まるで泥棒扱いである。自分はここまで怒りの視線が向けられることを予想していなくて呆気に取られて、しかも口が重いたちなのでなかなか言葉が出なかったが、どうにか「勝手に入ってすみませんでした」と一言詫びることができたが、それで空気がよくなることはなく、後味が非常に悪いままで退散した。わたしのような風体の人間をみたことがないので怪しまれたのだろうか。観光ルートだと勝手に思い込んでいたが、そんな意識はおそらくむこうになかっただろう。

普通のお寺にお参りする作法にわたしが暗かったのが事の原因ではあるが、そんなに勝手に入ってほしくないなら、御用の方は寺務所に回って呼び鈴を鳴らしてくださいと貼り紙でもしておいてほしいと言いたくなった。仏陀からの訓戒処分だと受け止めるべきだが、お寺という場所の難しさを身をもって思い知った。

伊賀国二之宮 小宮神社

寺町から一時間歩いて敢國神社の近くまできた。服部氏の氏神を祀っているという小宮神社に参拝した。

伊賀周辺に住んでいれば、このご朱印めぐりに参加しただろう。この辺りは寺社のイベントが多そうなのでうらやましい。

伊賀国一宮 敢國神社

小宮神社からさらに三十分歩いて、やっと目当ての敢國神社にたどりついた。天満宮から駅に引き返して電車に乗ったほうが早かったかもしれないが、後の祭りである。

のどかな田園地帯にあって、朱塗りの鳥居で華を振りまいている。伊賀の寺社は朱色にこだわりがあるのだろうか。

『敢國神社』

裏参道の前にあった。不埒な『ポケモンGO』のプレイヤーが出没したのだろうか。サービス開始当初にプレイしたことがあり、最近の動向は全く知らないので懐かしくなった。

『御鎮座千三百年記念 昭和四拾三年』
川でなく、山からきた桃太郎。
拝殿。

時期なので、行き先々の神社で七五三の掲示物をみた。自分は幼時に七五三をやった記憶がないが、どうなのだろう。

社務所では忍者グッズを販売していた。そういうサービス精神があるから神社が好きだ。

黒い刀を引くと手裏剣ごと円盤がまわる仕組みである。穴からみえた番号を社務所に伝えればいい。せっかくなのでやろうとしたが、小銭がなかったので断念した。

雅趣もあり、忍者の里らしいきりりとした気もどことなくあった神社だった。あたりの風景も往時を彷彿とさせた。かつてもこのように一面の田畑を耕していた人々が忍者として後世に名を残したのだろう。

「伊賀一宮 敢國神社神饌田」と奥の建物に表示されている。この稲は神様のものである。

延喜式内社 高岡神社

もよりのJR佐那具駅から一時間かけて、四日市市の河原田駅まで移動した。都波岐奈加等神社に参拝するのがこの地での目的であるが、すこし歩くと高岡神社という、予定にない神社の石標が立っていた。付近に白い鳥居もある。どちらもとても立派なので、立ち寄ってみることにした。

すぐ近くの山の上に高岡神社があった。境内は殺風景であり、伐採した樹木が打ち捨てられていた。境内の整備が中途半端にみえるが、建物はしっかりしているし、先客の参拝者もいた。きっちりと管理はされているのだろう。

ご祭神が多いが、合祀が進んでいるのだろう。たいへん歴史がある神祀らしい。高龗神(たかおかみの神)はイザナキが加具土命を斬殺したときに産まれた神の一柱であり、水神として祀られてきたようだ。やはり凡庸な神社ではない。

『境内は 心静まる 秘密基地』

不可解な川柳が記されたのぼりが立っていた。罰当たりな小学生が詠んだのだろうか。

伊勢一宮 都波岐奈加等神社

高岡神社の石標から十分ほど歩いて、伊勢国一宮たる都波岐奈加等神社にたどり着いた。ちょうど本日は例祭があり、鳥居の前で装束を着た人たちが写真撮影をしていた。

ご神徳のように高くそびえている。

天を衝くのぼりがすばらしい。提灯も色彩豊かだ。『平和の礎』という碑は戦後に建てられたものだろうか。

都波岐大明神

なんと華麗な花手水だろう。ここにくるまで既に多くの神社を参拝したが、花手水など皆無だった。ここで一気に気持ちが華やいだ。

提灯のデザインも目を惹く。
子供とお母さんが太鼓を演舞している。

拝殿の前で出し物をやっていた。賽銭箱の後ろに神職の人が座って観覧していて参拝しずらかったので、すこし離れたところから手を合わせるだけですませた。

露店もある。

地元の人でにぎわっていた。せっかくなので暫したむろして旅の無聊を慰めた。

中戸流獅子舞

名物の獅子舞を観覧することができた。なんといい日に来れたのだろう。伊賀市の寺で坊さんに激怒されたことがいまだに尾を引いていたが、住民と祭りの空気を共有することでやや癒された。

子供たちが競って手を伸ばしてシャボン玉を割る。

シャボン玉のお兄さんが子供たちに歓声をあげさせていた。

万葉仮名じみた呪力を感じる社名である。

祭りのおわりを見届けてから、社をあとにして河原田駅へもどった。今宵は愛知県にもどって一宮市に宿泊する。

一宮市

名鉄一宮駅から徒歩十分ほどの『パークホテル一座』に宿泊した。ここは従業員が無人であり、通りを挟んで向かいにある『ホテル パフェ・ドゥ・シャーム』のフロントでチェックインをした。なにかあれば『ホテル パフェ・ドゥ・シャーム』の従業員に連絡をするらしい。

出入り口のロックの解錠方法をフロントで教えてもらった。なにやら特殊なシステムのホテルである。駅から少々遠い気がするし、コンビニもすこし遠い。だが、たいした問題ではない。

どこで食べたかを忘れた。

『あした葉 一宮店』で食べた、ソースかつ丼とミニうどんのセットである。最近は、玉子で綴じたかつ丼より、ソースかつ丼が気に入っている。どちらもうまいが。

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