労働で壊れたら救われると思ってた(ラストマイル感想)
ラストマイルを観てきた。
倉庫、物流を舞台にした話だったけど、私はAmazon倉庫で派遣社員をやっていたことがあるので、非常に見慣れた光景が続きトラウマが若干蘇った。
ブラック企業、労働が大きなテーマとなっている映画で、いろんな立場の働く人間が出てきたけど、今回は管理職にかなり焦点が当たっていた。舞台となる倉庫の管理職である満島ひかりの言葉で印象に残っているのは、
「一年目、やり甲斐があった。二年目。順調だった。三年目、眠れなくなった。」
というセリフだ。
私はまだ平社員しか経験がないので、管理職の重責に関しては語ることができないが、仕事というものに魂を費やして生きている人間でこのセリフが響かない人はいないのではなかろうか。
部署に一人はいると思う。ものすごい熱量で仕事を抱え込み、走り続けている人が。とても優秀。早口で、スケジュールがパンパン。よく夜遅くまで残っている。滅多に有給を使わない。
私は入社する前、そういう人になりたかった。自己肯定感が低いので、この先の人生自分のための時間なんていらないと思っていた。働き、社会貢献し、いつか過労死したいと思っていた。
私は新卒で配属希望先を聞かれた時、過酷だとわかっている部署に自ら飛び込んだ。夜間休日の対応がある。他には男性社員しかいない。やることが多すぎるがそのわりに人は少ない。私が過労死するにはふさわしいところだと思った。
しかし、現実は考えていたものと少し違った。確かに忙しく過酷だけど、一つのミスが重大なトラブルにつながるので、疲れて勢いで適当にやってはいけない。必ず誰かのダブルチェックが必要。先輩は親切に教えてくれない。1人だけ文系の自分にはとにかく覚えることが膨大というか無限。先輩や上司からのパワハラっぽい発言。いくら頑張ってもナメられ、自分はこの部署の誰からも必要とされてると思えなかった。間違えてはいけないプレッシャー、人との摩擦、自分の無能さ、報われなさ、そういったものすべてひっくるめて疲労感が半端じゃなかった。
体力との兼ね合いも難しかった。夜遅くまで仕事をしていると、必ずどこかにガタが来る。パソコンの前に座って一日中カタカタしているだけなのに、頭痛や吐き気が出たり、咳が止まらなくなった。ある時は咳が悪化して気管支炎になったし、ある時はだるいのに無理して出社し、動けなくなり救急車に乗ったりした。食事もなんだか適量がわからなくなり、食べすぎて逆流性食道炎になって苦しんだりした。
ただ働く人間にとって最も悩みの種となる健康問題は、満島ひかりのセリフと同じ、睡眠問題だと思う。人は、眠らないと仕事にならない。
21時過ぎまで仕事をして、帰って23時近く。ご飯を食べてお風呂に入り、また朝7:30に起きなければならない。私がただの私でいられる時間はどこですか。こんなに夜遅くまで仕事して、そしてまた明日の仕事のために眠らないとだめですか。どうして?と理不尽な気持ちでいっぱいで報復性夜更かしを繰り返していた。
自分が今日やった仕事にミスはなかったか。先輩の期待を裏切っていないか。明日障害が発生したら自分は対応しきれるだろうか。そんな不安も相まって眠れなかったことも何度もあった。
私は本来7時間くらい寝ないとダメな人間だ。6時間半が最低ライン。それを下回ると、希死念慮が襲ってくる。自分が希死念慮に襲われているとは気づかないが、6時間以下の睡眠が続いてやっと休日に寝れた時、自分がはっきり「死にたい」と思っていたことに気がついた。
ラストマイルで過酷な労働に壊れてしまい、ベルトコンベアーを止めるために飛び降りた山﨑佑。止まらなかった。利益のために、無慈悲に回り続けるベルトコンベアー。customer centric。自分がいなくても、たとえ死んでも回り続ける、仕事とはそういう残酷さがある。
私は仕事で壊れたら、社会のために死ねたら、救われると思っていたが間違っていた。私以上に過酷な仕事量をこなしている先輩はおそらくもっと大変な思いをしていると思うが、だからといって彼が救われているようには見えない。上司を見ていても救われているようには見えない。誰も救われてない。
自分の身体をこの社会のためになってるんだかなってないんだかわからない仕事に燃やし尽くして壊して本当に後悔しないのか。みんなそうやって自問自答を繰り返しながら、壊れないように、壊れる手前まで見極めて、騙し騙し頑張り続けているだけだ。特に感謝もされず、褒められることもなく。やりがいってなんなんだろう。そんなものいつ望んだっけ。本当は心おきなく寝たいだけ。私たちは明日も働く。何のために、誰のために?
おしまい