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幻の銘茶のこと(六)秘境政所の謎
政所の謎
永源寺の先では、日本最古級と言われている 母体 の 土偶が発見されています。
1万年ほど平和な暮らしが続いたと言われる、縄文時代草創期のものだそうです。
山の奥深い小さな集落に『政所』と名付けられた地名。
気を付けてみないと見落としてしまいそうな小さな神社に刻まれた紋。
そこにはたくさんのお能面と衣装がありました。
このあたりは惟喬親王開祖『木地師』発祥の地です。
かつて、一般に使用を許されなかった最も高貴な色とされた『紫色』
その原料となる絶滅危惧種『紫根』の栽培も、ここ政所が最後です。
自然災害が極めて少ない地ともされ、重要なものが保管されているとのお話もこの地に滞在している間に何人かの方から伺いました。
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1年に1回のお能面の虫干しをすると聞き、これは行かなくちゃと再び政所を訪れます。
到着するなり、「荷物置いて手伝って!」
この日に頂く特別なへそだんご。
川上さんのキッチンで操さんと一緒に丸めます。
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川上さんのお屋敷には、土間になんと井戸があり
今でも山の綺麗な水を汲むことができます。
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お能面と衣装
文化財に指定されたお面は30にも及びます。
衣装や道具なども残されています。
かつて、集落の方々は社務所に集まってはお酒を飲んで
そこにあったお面や衣装を纏って遊んでいたそうです。
ある日、大学から研究者がやってきて、それが非常に貴重なものであることがわかりました。
以来、桐箱に納められて保管され、見られるのは1年に1回、虫干しの時だけです。
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政所のお面は裏面が滑らかに彫ってあるのが特徴だそうです。
木地師が彫っていたのでしょうか。
数百年の間、適当(?)に保管されていましたが状態はよいものでした。
ですが、文化財指定をされてから他所の展示に貸し出しをすると、
カビなどで状態が悪くなるそうです。
政所は湿気も多いところですが木がその場所に合っているのかもしれないとのことでした。
品質の高いお茶の存在、謎の多い歴史に
「何か口伝でも言い伝えでもなんでも、政所についての歴史的な逸話は何かないですか」
と川上さんに伺うも、
「いや、全然。なんもわからんねん。なんや古文書とか色々神社にあったんやけど、火事でみな焼けてしもた。
木地師の方はいろいろあるみたいやけど、注文書とかそんなんで歴史的な何かってのはないんやな」
リアルとは、そんなものかもしれません。
木地師の里
惟喬親王が開祖とされる、木地師の技術。
ここから木を求めて木地師たちは各所に出ていきました。
各地木地工芸品のルーツとなっている様です。
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政所茶の逸話
外来種である藪北茶の歴史と比較すると在来種の歴史は古く、
少なくとも室町時代までは遡れるようです。
石田三成の三献茶としても知られているそうです。
木地師や僧侶、近江商人は比較的自由に関所を超えて日本各地を移動することができました。
近江の国から和蝋燭や鋳物など、技術者を呼び寄せた藩主たち。
当時政所茶は高級なものとして朝廷や幕府などに献上されており、
一般にはなかなか手に入らなかった様です。
その様な中、彼らの手を通して届けられていったのかな、と想像がふくらむところです。
秘境にある小さな集落。
でも、ただの茶所とは思えないのです。
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先ほどこしらえたへそだんご、きの花政所茶と一緒にいただきます。贅沢な川上さんオリジナルの茶葉入り団子も。甘味噌に絡めていただくお団子は、濃厚なお茶の香りが鼻を抜けて広がり本当に絶品でした。
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