見出し画像

日英広告における主体/客体の違い

『Challenge to myself!』

先日車を走らせている時に目にした、トレーニングジムの広告です。
この英文が見えた時に、なんとなく違和感を覚えました。

運転しながらその違和感の正体を考えてみると、
①前置詞ってtoでいいんだっけ?
②myselfじゃなくて、yourselfじゃないの?
という2つの疑問が浮かんできました。

前者の前置詞の話は置いといて、
今回は後者の、myselfかyourselfかという論点について、自分なりの考えを述べていきたいと思います。

語用 / 文法的には問題ないはず

「myself」も「yourself」もいわゆる再帰代名詞に分類されるため、ここで「myself」を使用することは、語用としても文法的にも問題はないはずです。

ただ違和感を覚えるのは、こういった見ている人(消費者)に対して訴えかけるような英語の広告で、「myself」を用いることはあまり無い(ように個人的に感じる)という点です。

ジムの広告を比較してみる

まず断っておきますが、たかがブログなのでデータ集計などはしていないです。すみません。

ネットで「advertisement training gym USA」、「○○(日本にあるジム名) 広告」とGoogle検索し、実際にどちらの語が使用されているのかを見てみました。

結果、日本語広告では「私」や「自分」というように「myself」に相当する語が使用されていたのに対して、英語広告(アメリカ)では「yourself」や「you」の2つの語が使用されていました。

【日本語広告】
「自分を、もっと楽しむ力を」(エニタイム)
「私のための夏が来た」(スポーツクラブNAS)

【英語広告(アメリカ)】
「Build Your Body」
「Shape Your Body」
※どちらもジム広告のテンプレートとして用いられている

このことから、「myself」の使用は誤りではないものの、「yourself」を用いた方がより自然であるということが分かるかと思います。

では、なぜ日英で違いが生まれるのか?

英語ブログとしては上記で結びとしてもいいのですが、せっかくなのでもう一つ掘り下げて、なぜ日英の広告で主体/客体の捉え方と、それに伴う語用が異なるのかを考えてみたいと思います。

先ほど見たように、
・日本語広告は、「私」すなわち客(消費者)が主体
・英語広告は、「あなた(you)」と語りかけているので、広告の主体は店舗(サービス提供者)で、客は客体
以上のようにとらえられます。

結論、この広告の語用における違いは、「顧客」や「サービス」、「(サービスに伴う)価値提供」、「ブランド」に対する考え方の違いから生まれているように考えられます。
日本語と英語、それぞれ見ていきます。

日本語広告

日本人の方にとってはとてもよく浸透している考えに、「お客様は神様」というものが挙げられるかと思います。
この言葉が象徴しているように、日本では、客を中心的な存在として捉えがちです。

その考えが前提となって、広告においても客(広告を目にする人)が主体となっています。
客に対して「あなたのことを考えていて、尊重しています。あなたが主役なのです。」と伝えるために、その表れとして「myself」という語が使用されていると考えられます。

英語広告(アメリカ)

一方で、アメリカ(英語圏?)では、あくまでも「店舗」や「その店が持つブランド」自体が主体として考えられているようです。
そのため、「一つのブランドである我々(ジム/主体)」が「あなた(客)」に対して、行動を促したり提案をするというのが広告の役割になっているのだと思われます。

客は、ブランドが持つ価値に共感し、ブランドの価値を一緒に高めていくパートナー的存在だからこそ、あくまでも主体は店舗側にあるのです。

名高きブランドのNIKEやAppleなどの広告を見てみると、軒並み「you」が使用されています。あくまでは「you(客)」は客体なのです。

NIKEの広告


Appleの広告


サービスに与える影響

では、顧客に直接サービスを提供するジムのような場所において、そのサービスに先述の広告(とその根底にある考え)が影響を及ぼすかについて簡単に考えてみます。

日本については言うまでもなく、客が主体であるがゆえに、「お客様第一のサービス」が広く浸透しているのではないでしょうか。

一方、アメリカ(英語圏?)においては、あくまでも価値を提供している我々(サービス提供者)が主体であるので、「利用するならばどうぞ。ただブランド価値を下げるようなことをすれば、それ相応の応対をします。」といった接客姿勢になるのではないでしょうか、

、、、、、

すみません。最後のは暴論ですね。


あまり良い結びではなかったですが、今回は日英の広告における違いを見てみました。
単に英語といっても、いろいろな観点からみると、奥行きや深さが違ってきますね!

ぜひ、日常における英語に関する違和感を掘り下げてみてください。



参考文献
・辻 大介(2001) 「広告の誘惑と言語表現・非言語表現」(『日本語学』20巻2号(2月号), pp.52-61, 明治書院)

いいなと思ったら応援しよう!