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社会の分断と人間疎外についての寓話 『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

シビル・ウォー アメリカ最後の日
10月4日(金)公開 全国ロードショー

■あらすじ

 近未来のアメリカ。合衆国からの独立を宣言したカリフォルニアとテキサス両州に対して、大統領は軍事作戦による制圧を宣言。だが二州による西部連合(WF)に続き、合衆国からは半数近い州が離脱。巨大な勢力を形成した連合軍となって、合衆国の首都ワシントンに向けて進軍していた。

 フォトジャーナリストのリー・スミスは、記者仲間のジョエルや、師匠格の大ベテラン記者サミーと共に、ニューヨークから陥落間近のワシントンに向かう。長く取材に応じていない大統領を直撃し、最後のインタビューを撮りたいと考えたのだ。交通事情や戦闘地域を避けての旅は、千キロ以上の道のりになる。

 この旅に、フォトジャーナリスト志願の若い女性、ジェシーが合流した。もとより安全で快適な旅を期待しているわけではないが、これは彼らにとって、人生で最も苛酷な旅のスタートとなる。街を抜けて郊外に出ると、そこかしこに戦場の血なまぐさいニオイが漂っていた。

■感想・レビュー

 タイトルの『シビル・ウォー』は内戦や内乱を意味する言葉だが、アメリカでは特に、奴隷制を巡って国が二分された「南北戦争」を指す言葉でもある。この映画はアメリカから半数近い州が独立して政府軍と内戦状態になった近未来を部隊にしているが、内戦が起きた理由はよくわからない。

 しかしこの「わからない」という点が、映画のリアリティを生み出しているようにも思う。この映画に登場する人々は、戦争が起きてここまでに至る流れをよく知っている。誰もが知っているから、改めてそれについて語る人はいない。そして語らずに目の前の出来事を追いかけるうちに、誰もが知っていたはずの理由を忘れてしまうのだ。

 ここにあるのは、歴史家や評論家やアナリストや外野の第三者ではない当事者たちの目だ。当事者は過去を考えず、未来を考えず、ただ目の前にある今この時しか見ていない。起きている事の善悪や意味を考えていたら、それは死に直結する。考えるな、感じろ。生存本能の赴くままに、ただ見て、記録して、伝えることに徹する。ここに鳥の目で見た大きな戦場は出でこない。地をはう虫の目で、戦場の風景を切り取っていく。

 映画の形式としてはロードムービーで、複数のエピソードが串団子のように数珠つなぎになっている構成。個々のエピソードは独立しているのだが、本作を象徴しているのは、旅の序盤で出てくるガソリンスタンドでのリンチや、大詰めに近いところに配置されている赤いサングラスの男の登場シーンだろう。ふたつは民間人による民間人殺害という点で同根なのだが、殺害の規模や理由の理不尽さは後者の方がエスカレートしている。

 人間は些末な理由や、理由さえないその場の気分だけで、昨日までの隣人を平気で殺すようになる。こうした狂気のエピソードに説得力があるのは、これが昔も今も世界中で起きている事だからだ。映画はそれを、現代のアメリカに持ち込む。見応えのある映画だった。

(原題:Civil War)

TOHOシネマズ日比谷(スクリーン4/IMAX)にて 
配給:ハピネットファントム・スタジオ 
2024年|1時間49分|アメリカ|カラー 
公式HP:https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/
IMDb:https://www.imdb.com/title/tt17279496/

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