上手くはないけど良い映画 『アイミタガイ』
■あらすじ
名古屋のホテルでウェディングプランナーをしている秋村梓は、長く付き合っている恋人の澄人と結婚に踏み切れないでいる。仕事柄多くのカップルを見てきたが、両親の離婚で辛い少女時代を送った梓は、結婚する自分の姿をイメージできないのだ。
そんな中で、親友の郷田叶海が事故で死んだ。大きな喪失感の中で、梓は死んだ叶海の携帯に決して返事が来ることのないメッセージを送り続ける。
そのメッセージに気付いたのは、亡くなった叶海の両親だった。「まさかまだ知らないんじゃ」「そうじゃないと思う。全部わかっていて、それでもまだ気持ちの整理が付かないのよ」。そんな夫婦のもとに、山梨の児童養護施設から叶海宛に手紙が届く。
仕事で金婚式のピアノ演奏家を探していた梓は、ヘルパーをしている叔母の紹介で小倉こみちという老人に会いにいく。戦後は演奏を封印したという彼女だが、梓は中学生の頃、毎日のようにその演奏を聴いたことがあった。
■感想・レビュー
中條ていの同名小説を原作にしたヒューマンドラマ。原作は複数の主人公それぞれの視点から別々の物語が語られ、それが少しずつ重なり合いながら最後に合流して行く構成のようだ。
映画だとこれはオムニバス形式だが、今回の映画は黒木華が演じる秋村梓の物語を軸にして、周囲にさまざまな人物のエピソードを散りばめている。だが映画を観ていくと、この物語群は物語から早々に退場したある人物を中心に回っていることがわかる。それは映画序盤で事故死した、カメラマンの郷田叶海だ。
この映画は叶海の死によって動き始める物語なのだ。彼女が死なずに生きていたら、ここに登場する人々の行動は、ここに描かれたのとはまったく違ったものになっていただろう。
死はひとりの人間にとって、すべての終わりに違いない。だが人が一人亡くなっても、その周囲にいた人たちの人生は続く。そしてその死から始まる物語もあるし、その物語は悲しく辛く惨めなものとは限らず、豊かで温かくて喜びに満ちた物語になることもある。
この映画で描かれる死は、平坦で穏やかな土地に掘られた穴のようなものだ。それは平坦な土地の側から見れば深い傷であり、欠落であり、空虚なものかもしれない。だがその穴は井戸になって、周囲の土地を潤すことになる。その傷や欠落は、大きな恵みを周囲に施すことになる。
映画としては決して出来がいいわけではないと思う。出演者の顔ぶれが豪華すぎて、それ以外の風景や人物が借りてきて風景になってしまっている。僕は映画に登場した名古屋周辺や滋賀、山梨などに多少の地元意識があるので、風景と人物がぴったり馴染んでいないのは気になる。東京の俳優たちが、その場に立って芝居しているだけだに見えてしまう。
だがこの映画は、ヘタクソだけどいい映画だと思う。映画の最後には間違いなく感動がある。エンディングで流れる黒木華の「夜明けのマイウェイ」も、ヘタクソだけどとても良い。
TOHOシネマズ日比谷(スクリーン2)にて
配給:ショウゲート
2024年|1時間45分|日本|カラー
公式HP:https://aimitagai.jp/
IMDb:https://m.imdb.com/title/tt33606465/