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戦争に協力する放送人たち 『劇場版 アナウンサーたちの戦争』
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■あらすじ
昭和14年(1939)春。日本放送協会に入局した大島実枝子は、先輩アナウンサーたちの姿を憧れの目でながめていた。ラジオ放送はまだ若いメディアであり、声で全国に情報を伝えるアナウンサーは芸能人に引けを取らない人気者だったのだ。
そのアナウンサーたちの中でも特に強い印象を残したのは、5年先輩の和田信賢だった。スポーツ実況が得意だった和田は東京オリンピックの返上を残念がり、昼間から酒を飲んで局内のソファで高いびき。だがひとたびマイクの前に立てば、取材に裏打ちされた原稿内容と名調子で、聴くものをラジオに引き付けるのだった。
昭和16年(1941)12月8日。真珠湾攻撃が伝えられたその日の朝、和田は放送協会にいた。大本営からの電話を受けながら原稿を用意し、朝のニュースで同僚の館野に読み上げさせる。この日から、アナウンサーたちは史上初の「電波戦」の戦士として、戦争にも深く関わっていくことになる……。
■感想・レビュー
NHKスペシャルの戦争特番として、昨年(2023年)8月に放送されたスペシャルドラマを再編集した劇場用長編映画。ドラマ版は放送時間1時間29分だったが、映画は1時間53分へと24分拡張されている。どこがどう変わったのかはドラマ版を見ていないのでよくわからないが、この映画版でも物語がだいぶ駆け足になっているような気はする。
アナウンサーの和田信賢を演じたのは森田剛。物語は橋本愛が演じる妻・美枝子の視点で語られるが、この間接話法によって、和田という人物がわかりにくくなっている気もする。外部に話者を設定することで長い時間をコンパクトに処理することはできるが、それによって対象との距離が生じてしまうこともある。
この作品にはもっと別の語り手がいても良かったような気がする。あるいは美枝子を語り手にするならするで、彼女の人物像をもっと掘り下げる必要があったと思う。今回の映画はどっちつかずで中途半端だ。
戦時下の日本放送協会については、戦争末期の昭和19年に入局した近藤富枝の体験をもとに、連続テレビ小説「本日も晴天なり」(1981)が作られている。ひとりの女性の視点から戦時中の放送局を描くドラマとしては、『アナウンサーたちの戦争』より「本日も晴天なり」の方が優れていたと思う。和田美枝子は近藤富江の入局前に退社しているので直接の接点はないが、扱われている時代は同じだ。
たぶん本作は欲張りすぎたのだ。和田信賢という戦前の伝説的なアナウンサーを取り上げたいという思いと、戦時下の電波戦を担うため外地に派遣されたアナウンサーや局員たちの秘められた歴史を描きたいという思いが、物語の中でうまくまとまらないままバラバラになっている。
こんなものは開き直ってどちらかに腰をすえてしまえば良かったのに、それができずに物語があちこちふらついてしまった。素材は面白かったのに、結果は残念な仕上がりになってしまった。
TOHOシネマズ日本橋(スクリーン1)にて
配給:ナカチカピクチャーズ
2023年|1時間53分|日本|カラー
公式HP:https://thevoices-at-war-movie.com/
IMDb: