あれ
無言の圧力と燻んだ色、折れた首。近くを通る、誰かに追われている。心臓が圧迫され震えて逃げ出したくなる。虐待をうけたキリンのよう、佇まいを忘れることができない。脳みそにベタリと張り付く。
鼻から大きく空気を吸って肺を膨らませる。
どこに行くの。過去よ。
かっこいいと思いたかった。目を見開いて憧憬の念を抱いていたかった。
あれ、あれよ。
苦手分野なの。
プールサイドのフェンス、ほんのり色づくリップクリーム、ぎりぎり肩につかない長さでとオーダーする髪。校則の網を掻い潜ることに精を出していた日常の中の恐怖。
駅のホーム、ゾワゾワと鳥肌が立つ。
目の前を通過する、咄嗟に目を瞑る。顔を背ける。速いから怖いじゃない。得体の知れない感情。その感情に飲み込まれそうになる。宙に浮いた心臓が定位置に戻ってこない。
得体の知れない感情と居場所のない涙が心臓を突く。塩辛い蒸気が身体中から湧き出る。
彼が見ている。わたしをみている。彼が呼吸を繰り返す。私の呼吸は乱れる。
乱れる。
答え合わせをしようか。
苦手分野、ショベルカー。
苦手分野、新幹線の頭。
恐怖の対象、巨像。
巨像恐怖症。
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