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「変化が加速する時代」の嘘①

はじめに

皆さんは、
「変化が加速する時代」「VUCA」「予測困難な社会」
といった社会認識について、どのような考えをお持ちでしょうか?

今回と次回に分けて、そういった社会認識に対する懐疑的な見方と、公教育として持つべき目線について、お話ししたいと思います。


「変化が加速する予測困難な時代」

最近私が受けた教員向け研修で、講師の先生が次のような主旨のお話をされていました。

「これからは、変化が加速する予測困難な時代なので、先生たちにも、子どもたちにも、変化に柔軟に対応できる資質を身に付けてもらう必要がある。」

こうした社会認識は広く一般的なものになっているなあ、ということを再確認すると同時に、公教育の視点からは、この言葉に違和感をも抱いたのです。


変化は加速しているか

まず、現代は変化の加速する時代なのでしょうか。

おそらく産業革命の前後を比較した方が変化は激しかったでしょうし、そうでなくても例えば、

1960年代ごろまでに生まれた技術(テレビ、電話、コンピューター、インターネット、エンジン、航空機、人工衛星…等)と、

それ以降に新たに生まれた技術(「ディープラーニング」のほか、あまり思い付かないのですが…)では、革命的に変化が激しくなったのでしょうか?

また、遅くとも1980年代にはすでに「現代は、変化が激しい時代だ」というフレーズは用いられていました。

例えば、熊本県ホームページから見られる、昭和56年(1981年)7月付けの「80年代熊本県総合計画」は、次の書き出しで始まります。

1980年代は、不透明の時代といわれ、先行きの見通しを立てることが極めて困難な時代であるといわれていますが、

80年代熊本県総合計画
熊本県知事(当時) 沢田一精氏
「ごあいさつ」より

当時、一般的に「先行き不透明の時代」との認識が広まっていたことが読み取れます。

さらに、「VUCA」という単語が使われだしたのも1990年代で(元々は軍事用語だったそうです)、
意外にも、かなり以前からある言い回しなのです。


定量的な観察

また、三井住友信託銀行のレポートに、興味深いものがありました。

2020年から過去50年の消費者物価指数(CPI)の品目の改廃数を10年毎に比較して、10年毎の消費者生活の変化の激しさを調査※しておられたのです。

(※消費者物価指数というのは、国民が消費する財やサービスの平均的な価格の動向を確認するものです。
その調査の際、代表的な600品目ほどを指定して価格調査を行うのですが、例えば1970年代にはその品目に入っていた「白黒テレビ」が、現在では指定品目から除外されているように、どこかの時点で、新しい品目に取って代わられることになります。
ある10年間に品目の改廃数が多ければ、それだけ多くの変化がその時代に起きたのだと見ることができます。)

集計した結果を見ると、意外にも2010年から2020年までの数値が最も小さかった。1970年から1980年までの品目改廃とウェイト変化の合計は5,000を超えるのに対して、その後2010年までは各10年間 での変化は3,500~4,000になり、2010~2020年までの変化は3,000に満たなかった。この10年の我々の生活の変化は、その前よりも小さいという結果になったのである。

三井住友信託銀行 調査月報 2023 年 3 月号 「時論」


…素朴な疑問のはずが、かなり長くなってきましたので、今回はこの辺で。次回へ続きます。

本日もお読みいただき、ありがとうございました。

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