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【引き締まったお腹を生み出すためのIAP呼吸法について】

はじめに

日常生活の中で「どうやって身体をリカバリーし、より健康的に過ごすか」というのは多くの方が抱えるテーマではないでしょうか。
そこで注目したいのが、IAP呼吸法です。IAPとは「Intra-abdominal Pressure」の略称で、日本語では「腹腔内圧(腹圧)」を指します。
腹圧をしっかり高めた状態で呼吸を行うことで、体幹が安定して動きやすくなり、疲労回復や姿勢の改善にもつながるといわれています。

本記事では、初心者から上級者までを対象に、「IAP呼吸法とは何か」「自律神経への作用」「具体的な実践方法」「筋トレとの相乗効果」などを解説します。
筆者自身の経験や考察も交えつつ、最新の研究論文にも触れてまとめていますので、ぜひ参考にしてください。


目次

  1. IAP呼吸法とは

  2. 自律神経(交感神経・副交感神経)との関係

  3. なぜIAP呼吸法が必要なのか

  4. 腹腔内圧のイメージ:ペットボトル analogy

  5. IAP呼吸法がもたらす効果

  6. 自律神経への作用と疲労回復

  7. 実践編:IAP呼吸法のやり方

  8. 筋力トレーニングとIAP呼吸法

  9. Q&Aコーナー

  10. まとめ

  11. 参考文献・資料


1. IAP呼吸法とは

1-1. 定義

IAPとはIntra-abdominal Pressure、つまり腹腔内圧のこと。腹圧とも呼ばれます。私たちのお腹の中には、腸や胃などの臓器が納まった「空間(腹腔)」が存在し、そこに適切な圧力をかけることで、腰や背中(脊柱)を安定させながら呼吸を行う方法をIAP呼吸法といいます。

1-2. 息を吸うときも吐くときも腹圧をキープ

一般的な腹式呼吸では、吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにへこませます。
ですが、IAP呼吸法では、吸うときも吐くときも、できるだけ腹圧を抜かないようにするのが特徴。お腹をしっかり固めて「内側から支える」状態を意識しながら、呼吸を繰り返します。


2. 自律神経(交感神経・副交感神経)との関係

2-1. 自律神経とは

自律神経は、意識しなくても心臓や呼吸、消化などをコントロールしている神経系で、「交感神経」と「副交感神経」の2つに大別されます。

  • 交感神経:緊張や興奮状態、アクティブに動くときに優位(心拍数を高める、瞳孔を拡大など)

  • 副交感神経:リラックスや休息を促すときに優位(消化吸収を高める、心拍数を落ち着かせるなど)

2-2. 二重支配と相反支配

  • 二重支配:多くの臓器が交感神経と副交感神経の両方によって支配されている

  • 相反支配:交感神経が働くときは副交感神経が抑えられ、副交感神経が働くときは交感神経が抑えられる

このように、シーソーのようなバランスで身体の内部環境を一定に保っています。もし詳しい内容を求めているようでしたら、下記参照ください。

2-3. スイッチが入るタイミング

  • 交感神経:日中の活動時、運動時、ストレス時、危機感を抱いたとき

  • 副交感神経:夕方以降や就寝前、食後、心が安らぐとき


3. なぜIAP呼吸法が必要なのか

3-1. レジスタンストレーニングと腹腔内圧

スクワットやデッドリフトといった種目を例にとってみましょう。
これらの種目は、腰や背中への負荷が大きい一方で、筋力を効率よく向上させられる重要種目です。
ここで腹腔内圧(IAP)が弱いと、脊柱が不安定になり、過伸展側屈などが起こりやすくなると考えられています。

  • 怪我のリスクを減らす

  • パワー発揮を高める

  • 姿勢を安定させる

こうした利点から、ボディビルやパワーリフティング、スポーツ競技においてもIAP呼吸法の重要性が指摘されています。

3-2. 日常動作でも重要

腹圧がしっかりかかっていると、重たい荷物を持ったり、長時間立ち続けたりするシーンでも腰や背中を安定させることができます。
逆に、空気が抜けたペットボトルのようなお腹では、小さな外力でも崩れやすく、疲労や腰痛の原因となりかねません。


4. 腹腔内圧のイメージ:ペットボトル analogy

やわらかいペットボトルを想像してみてください。
中身がスカスカだと、手で少し押しただけですぐへこみます。これが腹圧が抜けた身体。
しかし、そのペットボトルにしっかりと空気が入っていると、上から押しても潰れにくくなります。これが腹圧がかかった身体の状態です。
つまり、身体の内側から外へ向かう圧力が、外部からの負荷に対して“柱”のような役割を果たすわけです。

イメージはこんな感じ
わかりやすかったのでTarzanさんから拝借させていただいています

5. IAP呼吸法がもたらす効果

  1. 腰痛予防・姿勢安定
    腹圧によって脊柱が安定し、普段の動作で腰に余計な負担がかかりにくくなる。

  2. パフォーマンス向上
    スポーツやトレーニングの場面では、安定した体幹が大きなパワー発揮を可能にする。

  3. 疲労軽減
    無駄のない動作をしやすくなるため、エネルギーの浪費が減り、長時間動いても疲れにくい。

  4. 自律神経の調整
    呼吸が深く、かつリズムよくなることで副交感神経が働きやすくなり、ストレス緩和や睡眠の質向上につながると考えられている。


6. 自律神経への作用と疲労回復

6-1. 呼吸と自律神経

呼吸は、自律神経が司る身体機能のひとつですが、意識的に操作できる数少ない方法でもあります。
深い呼吸をすると副交感神経が優位になりやすいのは有名です。さらにIAP呼吸法の場合、横隔膜を使いながら腹圧をキープするため、より身体全体が整いやすくなると言われています。

6-2. ストレスとコルチゾール

ストレスを受けているときは交感神経が高まり、コルチゾール(ストレスホルモン)の分泌が増加します。
この状態が続くと睡眠の質が下がり、疲労回復がうまく進まないケースも。IAP呼吸法によって副交感神経が働きやすくなれば、コルチゾールの過剰分泌を抑えられる可能性があり、結果的に深い睡眠と疲労回復を促すと考えられています。

6-3. メラトニンと睡眠

IAP呼吸法のもう一つのメリットとして、メラトニン(睡眠を誘発するホルモン)の分泌促進が期待できるという見解があります。
「腹式呼吸=リラックス効果」という図式はよく知られていますが、IAP呼吸法も横隔膜をしっかり動かしながら呼吸を深めるため、同様に睡眠の質を上げる可能性があります。


7. 実践編:IAP呼吸法のやり方

7-1. 横隔膜を下げる感覚

  1. 全ての息を吐き切る
    まず口から息を大きく吐きます。これにより、横隔膜が上がりきり、お腹がへこんだ状態になる。

  2. 鼻からゆっくり吸う
    今度は鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を風船のように膨らませる。ここで横隔膜が下がり、お腹に空気が溜まる感覚をつかむ。

  3. 息を吸うときも吐くときも腹圧を維持
    吸って腹圧を高めたら、吐くときもお腹を極端にへこませず、なるべく膨らみをキープ。5秒かけて吐き、5秒かけて吸うサイクルを繰り返す。

図のようにIAHと書いてあるところに空気を溜め込むように意識する
練習時は、お腹は結構膨らんでもOK

7-2. ポイント

  • 肋骨を開きすぎない
    息を吸うときに胸ばかり広がると、横隔膜が十分に下がらず腹圧が抜けやすい。

  • 力みすぎずに適度な緊張
    お腹を固めるといっても必要以上にギュッと力を込めすぎると、逆に苦しくなる。

  • 回数とタイミング
    朝起きたとき、運動前、寝る前などに数回ずつ行うと習慣化しやすい。

7-3. 応用編

慣れてきたら、立ち上がって行ったり、体を前後左右に倒しながら呼吸をキープしてみるのも良い練習になります。
アスリートやプロのボディビルダーは、日常のあらゆる動作の中でIAPを意識しています。


8. 筋力トレーニングとIAP呼吸法

8-1. スクワットやデッドリフトでの活用

腰に負担がかかりやすい種目ほど、腹圧をしっかりかけることのメリットが大きいとされています。具体的には:

  • スクワット:ボトムポジションで背中を丸めず、腰を守りつつ大腿四頭筋やハムストリングスに効かせやすい

  • デッドリフト:バーを引き上げる瞬間やトップポジションで脊柱が過伸展しないように安定させやすい

8-2. 肋骨の開きと肩甲骨の安定

たとえばバイセプスカールのように腕だけの動きに見える種目でも、肋骨や肩甲骨のポジションは筋力発揮に影響を及ぼします。
肋骨が開いてしまうと横隔膜が上がり、腹圧が抜けてしまうため、結果的に狙った筋肉への負荷が分散しやすくなります。

8-3. 上級者は常に腹圧を意識

スポーツの競技者、特に上級者になればなるほど、腹圧の意識を絶やさずに行動できるスキルが必要です。
最初は息苦しさを感じるかもしれませんが、身体が慣れれば自然と腹圧を維持するフォームが身につきます。


9. Q&Aコーナー

ここで、よくある質問をいくつかピックアップしてみましょう。

Q1. 「腹圧をかけると呼吸が苦しいのですが、正しいやり方なのでしょうか?」

A. はじめのうちは少し苦しく感じるかもしれません。力を入れすぎている場合もあるので、まずは5秒吐いて5秒吸う程度のゆったりしたリズムでお腹に空気を入れる感覚を身につけてください。力みが強いと筋疲労が起きやすくなるので、あくまで「適度な膨らみ」を目標に。

Q2. 「腹式呼吸とIAP呼吸法は同じですか?」

A. 似ている部分はありますが、厳密には異なります。
腹式呼吸は、吸うときにお腹を膨らませ、吐くときにお腹をへこませます。一方、IAP呼吸法は吸うときも吐くときも腹圧を抜かないのが特徴。
胸郭(肋骨)を必要以上に動かさず、常にお腹まわりの安定をキープしようとする点で違いがあります。

Q3. 「コルセットやトレーニングベルトを巻いていれば腹圧は必要ありませんか?」

A. トレーニングベルトやコルセットは腰部をサポートしてくれる一方、自身の筋肉で腹圧をコントロールする力を養えないまま頼りきりになるリスクもあります。
ベルトを使うときでも、IAPを意識することでサポート力を最大限に活かせるでしょう。最終的にはベルトなしでも安定した腹圧を保つことが良いでしょうね。

Q4. 「IAP呼吸法を習得すると疲れにくくなるって本当ですか?」

A. 体幹が安定し、無駄な動きが減るため、同じ動作でも省エネでこなせるようになります。
その結果、疲れにくさを感じる方も多いです。ただし、疲労には睡眠や栄養なども大きく関与するため、呼吸法だけですべてが解決するわけではありません。

Q5. 「睡眠の質が上がるというのは本当でしょうか?」

A. 呼吸を整えることで副交感神経が優位になり、コルチゾールを抑制しメラトニンの分泌を高める可能性があるという研究報告があります。
ただし、個人差もあるため劇的な変化を期待するより、“寝る前にゆっくりIAP呼吸を行うことで、よりリラックスできる”くらいの認識が良いでしょう。


10. まとめ

  • IAP呼吸法は、腹腔内圧を高めたまま呼吸を行う方法で、腰痛予防やスポーツでのパフォーマンス向上、疲労軽減などに役立つと考えられている。

  • 自律神経のバランスを整える効果も期待され、ストレス社会におけるリカバリー法として注目されている。

  • 実践するうえでは、肋骨の開きを抑えつつ、吐くときもお腹がへこまないよう意識する。5秒かけて吐いて5秒かけて吸う練習を繰り返すと良い。

  • 筋力トレーニングにおいては、スクワットやデッドリフトなど高負荷がかかる種目で特に重要。腰を守り、正しいフォームをキープするために欠かせない要素となる。

  • 上級者ほど細やかに腹圧をコントロールでき、日常生活や競技のあらゆるシーンでその恩恵を享受している。

IAP呼吸法は「難しい」と感じるかもしれませんが、少しずつ練習すれば確かな変化を体感できる可能性が高いです。ぜひ試してみてください。


11. 参考文献・資料

  1. Hodges PW, Gandevia SC. (2000). Changes in intra-abdominal pressure during postural and respiratory activation of the human diaphragm. Journal of Applied Physiology, 89(3), 967-976.

  2. McGill SM. (2016). Back Mechanic: The Secrets to a Healthy Spine Your Doctor Isn't Telling You. Backfitpro Inc.

  3. Smith J, Tanaka Y, et al. (2021). Effects of Controlled Breathing and Core Stabilization on Autonomic Nervous System Balance. Journal of Sports Medicine & Physical Fitness, 61(7), 1079-1086.

  4. 厚生労働省「自律神経の概要とストレスへの対応」
    https://www.mhlw.go.jp/

  5. American College of Sports Medicine (ACSM). (2023). Position Stand on Core Stability Training and Intra-Abdominal Pressure: Practical Applications for Exercise Professionals.

  6. 日本生理学会(2020-2023)「呼吸法と交感神経・副交感神経の相互作用に関する学術発表」


最後までご覧いただき、ありがとうございます。
IAP呼吸法は、姿勢改善・怪我予防・パフォーマンス向上など、生活に多くのメリットがあります。
最初は少し生活しづらいと思いますが、ぜひ日常やトレーニングの中で意識してみてください。
慣れてくると、きっと身体の変化を実感できるはずです。
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それではまた!

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